あづごぜ白い襦袢だけになって池の中に入ると、僅かに濁った水が体にまとわりつく不快さを感じた。
うう、と唸り声が漏れそうになった時に、体の下を掬い上げられて押し上げられた。水中の冷たさとまとわりついた重力が不意に抜ける。
「水の中はどう?」
クジラのならず、あづまは声を弾ませていた。その目は笑っている。曇りの一つもない、純粋な目だ。
「冷たくて、あんまり好きじゃないわ」
肌寒さに濡れた襦袢越しに肌を摩って言うと、はははは、とあづまが大声で笑った。
「入ってるうちに暖かくなってくるよ」
そうして彼らは夕方まで戯れた。
御高祖御前は岸辺に腰掛け、池の水に足をつけている。
濡れた襦袢が肌に張り付き、大ぶりで豊かな乳房の形と寒さでつんと勃った突起をくっきりと浮かばせている。
しかしあづまも、彼女自身もそれに気を払ったり恥ずかしがる様子はなかった。
「わたくしもあなたみたいに、クジラみたいな姿だったら良かったのかしら」
ふと呟いた彼女に、あづまは何も答えなかった。
何故こんなことを思ったのかしら。
御高祖御前はため息をつく。
これまで「自分以外の姿に」など考えたこともなかった。自分は自分で、この美しく付喪神としての矜持溢れた姿以外など考えもしなかった。
顔を焼かれたからか、このならずに絆されたからなのか。
弱くなったのかしら。わたくしは。
池の水面に、赤くなった太陽が沈んでいく。