檸檬⑩Ⅱ. SIDE:T
ⅰ. 幸せな夢
瞼を開くとそこは陽だまりだった。
暖かな陽射しが眩しくて思わず顔を顰める。
グルグルと目を擦り、欠伸をすれば慣れてくる。
隣を見れば、ウネウネと波打つ黒い塊がある。
丸く縁取った形からそれは頭だと分かって、炭治郎はおずおずと黒髪を捲った。
煌めく絹肌と翼のような睫毛。
筋の通った高い鼻。
花びらのような薄い唇。
鈍い頭が誰だか認識したその時、腕の中にいる彼の身体がビクりと震えた。
『ん、……ぁれ、もぅあさ……』
酷く間延びした声だった。
気が抜けているというか、寝ぼけているというか。
とにかく警戒心が薄い。
紅い瞳がコロンと上向いて、目が合う。
ぱち、ぱち。瞬き二回。ゆっくりと。
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