バースデー誕生日は最高だ。
誕生月にショップから送られてくる無料クーポンに割引クーポン。誕生月限定のポイント3倍キャンペーンやノベルティプレゼントのお知らせ。
そういったものに「特別」を感じる。
ショッピングに出かけて店から店へと渡り歩くとき、いつもより気分が高揚している。
鼻歌まじりに街路を歩き、気まぐれに後ろを振り返ると10歩ほど離れたところにいるシャムスと目が合う。
肩に、両腕に、いくつものショッパーを引っかけたシャムスはひどく不機嫌そうな顔をしていた。
シンは離れたところにいるシャムスに聞こえるように声を出す。
「シャームースーくーん。テメ、もうへばってやがんのか?引きこもりは、もう少しは体力つけたほうがいいんじゃねぇかぁ?」
嘲りを含んだシンの言葉に、短い舌打ちで答えたシャムスは嫌そうに、シンとの距離を詰める。
「テメェ……どんだけ買えば気が済むんだよ」
「ヒャハ♪まだまだだぜぇ。次は新作のコートを見にいかねぇと」
「あ?コートならもう二枚買ってんじゃねーか」
「二着じゃ足りねえんだよ…ファッションに疎いシャムスくんには理解できねぇだろうなぁ」
シャムスは疲れたようなため息をついた。
シンはそんなシャムスに居心地の悪さを覚えた。
なんでこいつはここまで言われても帰らないのだろう。
午前中からシンに引っ張り出されて興味のない買い物に付き合わされて人目を引く量の荷物を持たされて、嫌みを言われて。
それでも、シャムスは「帰る」とも「帰ろう」とも言わない。文句を言いながらシンに付き合っていた。
無理やり引っ張り出したのは自分だが、それにしてもここまでついてこられるのは、調子が狂う。
「なあ、出来損ない。テメェ、なんでここにいんだよ」
「は?テメェが誕生日なんだから祝え労れ荷物持ちしろっつったんだろーが」
「ああ?それだけか?」
「それ以外に何があんだよ。言っとくが、オレがこんなことすんのは、今日だけだからな」
シャムスの答えに、シンは心底呆れた。
「誕生日だから」そんな言葉を素直に飲み込んでシンの我儘をきくシャムスに。
シンのほうは、シャムスの誕生日になにかをしたことはないし、むしろシリウスに祝われているのが気に入らなくて完全に無視を決め込んでいた。
それなのに、コイツは。
ほんとうに苛つくヤツだ、とモシャモシャ頭を眼前に捉えながら思う。
「ああ、もういいわ」
「は?」
「もう帰っていいよ。シャムスくん。それ以上荷物持てねえだろ、帰れば?」
「いきなりなんなんだよ…」
「テメェはもうお役御免だっつってんだよ。荷物持って帰って猫と遊んでろ」
しっし、と右手で追い払う仕草をする。
「マジで意味がわかんねえ…まあ、帰っていいんなら帰るけどよ」
シンはシャムスに背を向けて、自由気ままな足取りを意識してふわふわと前に進んだ。
少し歩くと、シャムスの声はもう聞こえず、後ろをついてくる気配もなかった。
それに気がついてシンは、清々した、と感じるのと同時にまた苛立ちも覚えた。
もうショッピングを続ける意欲も失せて、最後にもう一度キャラメルマキアートを提供する店に立ち寄った。
店内はハロウィン仕様にディスプレイされていて、食欲が失せそうな色の菓子も販売されていた。
シンはその中からきつい青色のポテトチップスを掴んでレジに持っていった。シャムスへの土産にするつもりだ。
今日の礼、などではない。
ただ、これを受け取ったシャムスが迷惑そうな顔をすればいい。そう思っただけなのだ。