女房役 ──投手の女房役である……。
テレビからふと聞こえたアナウンサーの声。どこぞの野球チームの話をしているらしい。
女房役、か。
「どうだ、綺羅。俺の女房役になってくれないか?」
仕事の上での俺の右腕は綺羅しかいないし、プライベートのパートナーも綺羅しか考えられない。公私共に支えられている俺の女房役は綺羅しか考えられないな。そう思って言葉にした。
綺羅はきょとんとした様子で俺を見る。熱心にテレビを見ていたわけではないようだから、急に女房役だなんて言われて驚いたのだろう。なんとも可愛らしい表情だ。
「……嫌だ」
首を縦に振ってくれると信じ込んでいたため、まさかの拒否に驚きを隠せない。
何故だ。綺羅を人生のパートナーと思っていたのは俺だけなのか? それとも、抱かれる側だとはいえ、女房は受け入れられなかったか?
「女房"役"は、嫌……女房なら、なっても……いい」
様々なことを考えていたが、返ってきたのはなんとも可愛らしい理由。思わずその体を抱きしめていた。
「幸せにするからな」
「うん」
腕の中から聞こえてきた声はなんとも楽しそうだった。