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    岩藤美流

    @vialif13

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    岩藤美流

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    アズイデワンライ「誕生日」
    いつものハードプレイしている時空のあまあま誕生日。ノーマルなえっちをしたことがない二人にとっては特別なのは普通のことでしたとさ。

    ##ワンライ

    『18日、金曜日ですよね。生憎モストロ・ラウンジの仕事も年の瀬を控えて忙しいので。当日はお伺いはできませんが、祝福しますよ、イデアさん』
     大切な後輩兼友人かつ恋人であるアズールが、いつも通りの営業スマイルでそう言ったのは先週のことだ。イデアは自室で一人、高級そうで繊細なティーカップを眺めている。青を基調とした優雅なそれは、確かにイグニハイドや、イデアの髪に近い色をしていたし、美しいとは思う。けれど、この汚部屋にリーチのかかったオタク部屋には不似合いだ。
     今日は日付変更からゲーム仲間にお祝いされテンションが上がったものの、この学園でバースデーボーイが晒し者になるのだということに気付いて憂鬱になりながら部屋を出た。顔も知らない寮生達にお祝いの言葉をかけられるのは、通りすがりに雪玉でもぶつけられているような気分で、イデアはとても気分が落ち着かなかった。
     購買に行く道、できるだけ人のいないところを……と、裏道を通っていると、ばったりとアズールに出会った。いやもうそれは、教科書に載せたいほど偶然に、ばったりと。
    『ああ、イデアさん。こんなところで会うなんて偶然ですね。そういえば今日、あなたはお誕生日でしたよね。お伺いできないのは申し訳ないですが、たまたまここにあなたへのプレゼントがあるので、ついでですからもらっておいてくれませんか、手荷物になりますので。お誕生日おめでとうございます、それでは良い一日を』
     アズールは何か営業のスピーチでもするようにスラスラとそのセリフを読み上げて、丁寧に梱包されたそのティーカップの箱を渡してきたのだ。そして颯爽と去って行った。
     思えば、待ち伏せされていたのだろう。アズール氏ってそういうところあるよね、と考えながら、イデアはカップを眺めている。
     昼間は散々人に絡まれて、とても疲れた。イデアは夕方になると早々に部屋に戻り、オルトと二人で過ごすことにした。それからも部屋には何人か人がやって来て、プレゼントを押し付けてきたものだ。その度に小声で感謝を伝え、もう疲れ切っていた。
     今日はゲームもせずに早く寝よう、明日になればいつもの毎日が戻ってくるんだから。イデアはオルトをスリープモードにして、自分もベッドに潜るため、寝間着にしているスウェットに着替えた。
     それからベッドに腰かけて、アズールがくれたカップを一人で眺めている。
     不器用なんだよなあ。イデアの部屋の薄暗さでも、カップは僅かな光を反射してゆらゆら煌めいている。まるで海の中だな、とイデアはぼんやり思ってそれから、少しだけ、少しだけ寂しい気持ちになった。
    「……あーあーあー。もう寝よ……」
     溜息一つ吐いて、カップを箱にしまうと、大事にハニカム構造の棚に置く。今日は忙しいと言っていたけれど、たぶんずっと忙しいんじゃなかろうか。年末にかけて騒ぎたがる学生は多そうだし。そうなると次に会えるのはいつになるやら。恋人関係になってそれほど経っていないから、少々寂しい。まあ二人きりになると、とても人には言えないようなハードプレイをし始めるから、困ったものなのだけれど。いや、そもそも二人きりでするようなことを、人に言ったりはしないものだろうが。
     悶々としながら、ベッドに入ろうとした時だ。トントン、と部屋がノックされる。ヒッ、と悲鳴を上げて振り返り、時計を見た。22時だ。こんな時間に来客とは、よほどの執念というかなんというか。イデアは恐る恐る「だ、誰……?」と尋ねながら扉に向かった。
    「イデアさん、僕です。夜分遅くにすみません」
    「あ、アズール氏? どうしたの、忙しいって言ってたじゃない……わ!?」
     扉を開けた途端に、アズールが飛び込んできて、イデアをそのまま抱きしめた。イデアは頭が真っ白になってしまったが、抱きしめられたまま慌てて扉を閉め、鍵をかける。そうしている間に、アズールは何故か手に持っていたやたら大きいボストンバッグを床に下ろし、イデアの頬にキスをした。
    「あの、あのあの、タイム、アズール氏?」
    「……失礼しました。いえ、正直言って来れると思っていなかったのですが……。ジェイドとフロイドに店を追い出されまして」
    「支配人が店追い出されるとかある??」
    「なんでも使い物にならないからとか……。その理由についてはまあ、僕も思い当たる節が有りましたので、急いで準備をして来たというわけです」
    「準備?」
     なんのことだろう。イデアが首を傾げていると、アズールはまたにこりと微笑んで言った。
    「改めてお誕生日おめでとうございます、イデアさん。あなたに会えたことに僕は心から感謝をしています」
    「う、うん、あ、ありがと、僕も、」
    「それで、ですね。誕生日のプレゼントがアレだけではどうかと思いまして、せっかくですから僕にしか与えられない夜を差し上げようかと」
     嫌な予感がする。イデアは困惑した。ここは自分の部屋で、カバーをかけてあるとはいえ、オルトがスリープモードで眠っている。ここでどんな夜を過ごそうというのか。いや聞かないでも大体わかる。この慈悲の精神に溢れる恋人が、日頃自分に容赦なく与えるハードなプレイを思い出して、イデアは首を振った。
    「や、あの、その、きょ、今日はちょっと疲れてるから、えっと」
    「そうなんです。あなたに特別ハードコアなプレイをして差し上げようとも考えたんですが、ここは逆に、我々が経験したことが無い程に、バースデーケーキのごとく甘く優しい、極めてノーマルなプレイをするのはどうかと思ったんです」
    「あ、そうなんだあ、ご配慮いただきありがたいっすわあ……」
    「もちろん、極めてハードコアなプレイもできるように、色々持っては来ましたよ」
    「いや、いやいやいや、いい、極めてハードコアなのは、ちょっと、いい、今日はいい」
     ボストンバッグの中身が何なのか、考えるだけで恐ろしい。イデアは丁重にお断りしながらも、アズールを振りほどいたりはしなかった。
     会いたかったのは事実だ。こうして触れ合いたかったのも。アズールがいつも通り、斜め上なのが困ったことなだけで。
    「では、……甘くて優しい、極めてノーマルなプレイを、してもいいですか?」
     アズールの白い手が、イデアの頬を撫でる。うっとりと柔らかく微笑む顔はいつも通り美しくて、どこか妖艶で。イデアはいつだってその笑みに勝てない。
    「……お、……お手柔らかに……」
     頬が熱くなるのを感じながら、小声で答える。アズールはバッグを持ち上げて、イデアと共にベッドへ移動しながら、囁いた。
    「そして明日の朝には、僕が紅茶を淹れてあげます。飲んでくれますね?」
     あのカップで、ということだろう。イデアはやはり、「うん」としか頷けなくて。そんなイデアにアズールは、優しく微笑むのだった。
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