Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    アイム

    @miniAyimu

    黒髪の美少年と左利きAB型イケメンお兄さんに弱い。

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 🎮 🎧 💖 🍫
    POIPOI 17

    アイム

    ☆quiet follow

    鳩原先輩の失踪をきっかけに、もしかしたら次は犬飼先輩かもしれない……という疑心暗鬼に捕らわれたために二宮さんが一人暮らししているマンションに逃げ込むようになった辻ちゃんと、二宮さんにそれを聞かされ『二人でナニしてるんですか!?』と動揺せずにいられない犬飼先輩の犬飼side(犬辻)

    ##犬辻

    月に一度のペースで辻がうちに泊まりに来る。
    と二宮さんにカミングアウトされた時のおれの気持ちがわかるだろうか。

    衝撃のあまり頭は真っ白になり、どうしてそんな告白が飛び出たのかという直前までの話すら吹き飛んで忘れてしまうほどだった。
    そのくせ口だけは普段通りにぺらぺらとよく回る。矢継ぎ早に問い質さずにはいられなかった。

    毎月泊まってるんですか?
    そうだな。
    二宮さんが一人暮らししてるマンションの方ですよね?
    あぁ。
    どっどこで寝てるんですか、辻ちゃんは。
    辻が床でいいと言い張るから、家で使っていない布団を引き取ってある。
    二宮さんって太刀川さんとか泊めるの嫌がってませんでしたっけ。
    当然だ。太刀川と辻を一緒にするな。

    突っ込めば突っ込むほどに、嘘みたいな話は真実味を増してゆく。
    まさかあの辻ちゃんが二宮さんにそんな甘え方をするとは、と驚けばいいのか、それとも、あの二宮さんがそこまで辻ちゃんに優しかったなんて、と驚くべきなのか。
    動揺一つ抑え込めずに、引っくり返った声のまま尚のこと訊いてしまう。
    「いつから二人でそんなことしてるんですか。おれ初めて聞きましたよ、辻ちゃんが二宮さんとこに泊まってるなんて話」

    それへの返答だけが、僅かに間が空いた。
    きっかけを振り返っていたのだろうか。
    もしくは、二宮さんにとっては口にし難い領域に触れていたのかもしれない。

    「……鳩原が失踪した後からだな」
    そう答えて、二宮さんはそれまで読み込んでいた任務の資料からようやく顔を上げた。
    「その件で相談があると言って来たのが発端だ。一人で解決できるような悩みではないし、両親や兄弟たちに心配をかけたくないからという理由で頼まれている。俺は杞憂だと思っているが、辻が不安と言うなら仕方ない」

    こうなったら、もう時間潰しの雑談じゃ終わらない。
    少なくとも、こうもきっぱり言い返すからには冗談や遊びではなく、真面目な話なんだろう。二宮さんと辻ちゃんの間では。

    「……そういえばお前だけには言うなと口止めされていたな」
    「もう聞きましたけど!?」
    「聞かなかったことにしろ」

    あまりにも暴君な言い分に、おれは頭を抱えて膝から崩れ落ちてしまいそう。
    そんなレベルの内緒話だったなんて、果たして誰が想像しただろうか。
    おれだけが知らなかったという現実に壮絶なショックを受けながら、だけれどもう一つ白黒はっきりさせるために意を決して尋ねてみる。

    「あの……下世話なこと訊きますけど、二人で何してるんですか……」
    「何とはなんだ」
    「いやだって……」

    顔のいい男と顔のいい男を揃えて密室で一晩二人きり、なんて、そんな状況で外野が邪推することは一つだろう。
    まるで実際に目撃してしまったかのように、おれは鮮明に想像する。
    夜の遅い時間、誰の目も届かないところで、半ば強引に腕を掴んで、ばたんガチャン。
    『辻……!』
    『あっ、二宮さん駄目ですっ……玄関なんて……っ!』
    こういうのを、こういうやり取りを毎回飽きもせずに繰り返しているんじゃないのか。
    玄関だけじゃなくて、風呂場やベランダとかいうバリエーションを増やして楽しんでいるんじゃないのか。

    本人を目の前にして遠慮なく繰り広げてしまうのはあられもない妄想。
    とはいえ、まさか二宮さん相手にそこまでストレートに言えるわけがない。

    「だってほら、二人ともよく喋る方じゃないですし……二宮さん、ちゃんと辻ちゃんと仲良くやってるんですか?」
    ようやくのこと、おれは二宮隊のバランサーとして心配してるんですよと取り繕う声が出た。
    これはあくまで好奇心の範疇による質問責めだ。
    外堀を埋めながらじわじわと相手の手の内を探っていく、いつものおれのやり口に他ならない。

    と言い訳して普段の調子を取り戻すつもりだったのに、そんな手が効くはずないのが我が隊自慢の隊長様である。
    なんにもわかっちゃいない涼しい顔のまま、ぽんと一言。

    「辻は割と喋るぞ」
    「無理……今ここで二宮さんの口から俺だけが知ってる辻マウントを取られるのは本当にきっつい……」

    予想斜め上どころか、死角からの右ストレートを綺麗に受け止めちゃったような気分だった。
    どうしてこの人は二人の怪しさを匂わせる意味深な発言ばかりを重ねてしまうんだろう。
    おれはもう、さっき脳裏にちらつかせた嫌な妄想がこびりついてどうしようもなくなっていた。

    なんでそんなことを疑ってしまうかと言えば、それはもちろん、おれが"そう"したかったからに決まっている。
    高校を卒業したら、大学とボーダー本部に近いからとかなんとか理由を付けて部屋を借りて、まだ制服姿の辻ちゃんを引き摺り込む予定ばかりを立てていたのだ。
    逸るままに玄関口でもみくちゃになるのだって、そう。

    二人で行ったスーパーから走って帰って来て、ばたんとドアを閉めたことで安心して口づける。
    邪魔だから、という理由で肩から下げた荷物も買い物袋も足元に落として、それでもう、お互いに止まれない。
    『犬飼先輩、ここ、で……』
    ただのキスだけであっという間に呼気を乱した辻ちゃんは、玄関も廊下も狭苦しいことすら気にせずに座り込んでしまう。
    早くも腰に力が入らないのかもしれないし、それを幸運として喜んでいるのかもしれない。
    そうして先をねだるために引き倒されたおれは、慌てたせいで鍵もスマホも取り落とすのだ。
    『辻ちゃん、まだ玄関だよ?』
    真上の電灯すら点けていないから、辺りは薄暗くてたまらない。落とし物一つ拾えない。
    いくらなんでも急かし過ぎだろうと、さすがに責めるような声で言い聞かせてやる。
    『体痛くなるから駄目だって前も言ったじゃん。もうちょっとだから、ちゃんとベッド行こ?』
    だけれど辻ちゃんは。
    『いいから、先輩はやく……っ』

    こういうのを、こういうやつを期待してたんですよ、おれは。
    辻ちゃんにとってのこういうポジションはおれが第一候補じゃなかったの!?
    悲しいことにずっと大事に温めていたおれの理想は粉々に崩れていく。

    と、この時点でもうおれは瀕死寸前というのに、残念ながらこの話はもうちょっとだけ続くのだ。
    というか、二宮さんがおれの放心状態を察せずに、真面目に丁寧にその後を答えてくれてしまっていた。

    「あとは……辻が掃除や洗濯をするから、なかなか助かっている。礼代わりに食事の差し入れをもらうことも多いな」
    「二宮さん、そういうのを世間一般でなんて言うか知ってます? 通い妻って言うんですよ!!!」

    怒りのあまり、めっちゃデッケエ声出ちゃった。
    ただ一回二回泊まるだけならともかく、家事や食事の手助けまでしてるなんて、それはもう部下だの後輩だのという立場じゃない。

    そんなことを言うなら、おれだって一人暮らしに四苦八苦するおれの元を訪れた辻ちゃんにあれこれ心配して欲しかった。
    いらっしゃい、とドアを開けて出迎えた直後、
    『……犬飼先輩、顔色が悪いです。ちゃんと食べてるんですか?』
    なんて即座に見破られ、口やかましく咎められる。
    日頃常々、辻ちゃんは口数が少ない方というそのくせ、おれに進言する時ばっかりやたらめったら饒舌になりやがる。
    辻ちゃんそんなにおれのことが気になるの?
    そう返せば途端に口ごもって困った顔を見せるから、そのせいで隙あらばウキウキとからかわずにいられない。
    『辻ちゃんがアーンしてくれるんなら食べるよ』
    『本当ですか?』
    『えっ、』
    なのに辻ちゃんは。
    『せ、先輩がそう言うなら……俺は本当にやりますからね……!』
    がさがさと大袈裟な音を立てながら背後に隠していたらしい買い物袋を押し付けてくる。
    やけに騒がしい音が鳴るのも納得するくらい大きく膨らんだ荷物は、薄いビニール越しに野菜だの調味料だのがごろごろ詰め込まれているのがよく見えた。
    初めてこんなにたくさん買いましたとでも主張するみたいに、辻ちゃんは物の入れ方が下手だった。
    それでも、こうなるほど必死になっているのは誰のためかと言えば、それは。

    とかなんとか、こういうのを期待して、胸を膨らませていた! のに!
    おれのささやかな希望はあっさりと絶望に塗り替えられる。
    二人の詳細を知りたい一方で、二宮さんの返答を聞けば聞くほどに邪推ばかりを積み重ねてしまう。
    だって日々の食事っていうのは大事だよね。
    あれ食べてこれ食べてと甲斐甲斐しく用意をする辻ちゃんに、迷いなく腕が伸びるはず。
    『……辻、まだか』
    『に、二宮さん! キッチンは駄目って言ってるのに、ぁ……っ』
    なんてことに発展する可能性を捨てられない。

    「もうやだ~~~胃が痛くなってきた……」
    「この話のどこでそうなるんだ」

    嫌な妄想ばかりに捕らわれて、さすがのおれもちょっと泣きそう。
    というのに、二宮さんだけは相変わらずのきょとん顔。
    天然な男っていうのは本当に残酷だ。
    おれも天然を装って今この場に太刀川さんと加古さんをセットで召喚してやりたい。

    「二宮さんって焼肉以外の食事もするんですね……」
    「お前は俺を何だと思ってるんだ?」



    終わり。続かぬ。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works