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    kinoko12069

    @kinoko12069

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    ツイステ腐・夢の小説書いてます。

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    kinoko12069

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    好きな子のためなら数年単位で待てちゃう♣が見たかったのです。

    #twst夢
    #トレ監
    trainingInspector

    その魔法は、砂糖とスパイスと甘やかしからできている体重計を前にして、憂鬱にならなかったことがない。さすがに女子中学生ほど神経質とはいかなくても、自分の重さはそれなりに気になるものなのだ。
    なかでも今夜の測定結果は、これまで以上に私の心に重く衝撃を与えたのだった。

    「……太った」

    誰にともなく呟いてみる。私以外だれもいない脱衣場で、その言葉は自分の耳に戻って来ただけだった。
    私が打ちひしがれていた時に、とつぜん脱衣所の扉が開かれた。そちらを向くと、廊下には同居人が立っていた。

    「オメー、いつまで風呂に入って……どうしたんだゾ、子分?」
    「グリム」

    同居人は青く丸い瞳で不思議そうにこちらを見ている。一緒に住んでいるのは学園時代からの相棒・グリムだ。私があまりに長く風呂場を使っているので、文句を言いに来たらしい。
    言葉少ない私にグリムはしばらく首を傾げていたけれど、その目は体重計の数字を捉えた。そして仕方ないとでも言いたげに、今度は私を見上げた。

    「体重なんて気にするもんじゃないんだゾ」
    「いやぁ……そうなんだけどさ」

    グリムと同居して早くも7年が経とうとしている。よく食べる相棒につられて、私も気がつかないうちにご飯を食べ過ぎていたらしい。その結果がこのザマだ。私は頭を抱えた。

    「食べる量を減らさなきゃなぁ」
    「けどオメー、明日は出かけるとか言ってなかったか?」

    グリムの鋭い指摘に、私はウグッと言葉を詰まらせる。そう、明日は楽しみにしていたお出かけの日なのだ。
    しかしその目的が、今の私の望みとはかけ離れたところにあるもので。

    「先輩と出かけて、ご飯を食べなかった試しがないんだよなぁ」
    「オヤツもしてくるんだろ?」

    ずるいんだゾ! そう駄々をこねるグリムの耳の後ろをそっと撫でながら、私は明日の予定に思いを巡らせていた。
    グリムがこうしてごねるから、その人と出かけるたび私はグリムにお土産を買うことにしていた。それはたいてい甘いものが多く、グリムとそして自分のぶんを持ち帰っていた。
    けれど、明日はグリムのぶんだけにしよう。そう心に決めて立ち上がる。

    「明日はできるだけご飯食べないようにしてくる!」
    「!? 何が楽しくてそんなことするんだ、子分?」

    私の決意表明に、グリムはひどく驚いた顔をしていた。けれど、私はやらなくてはならないのだ。

    〇〇

    「どうしたんだ、食べないのか?」
    「……いえ」

    結果から言うと、惨敗である。目の前に並べられたお皿の数々。そして差し出される新たな料理。美味しそうだけれど、今はその優しさが憎い。カフェのご飯って何でこんなにおいしそうに見えるんだろうなぁ。

    綺麗な盛りつけのパスタの向こうで、その人はきょとんとした顔をしていた。

    「具合でも悪いのか?」
    「い、いえ……」

    ダイエットしてるだなんて、この人──トレイ先輩には言えそうにもない。言った日には、「そんな必要はないぞ」と上手く言い含められて、けっきょく諦めるほかなくなってしまうからだ。これまでのそれなりに長い経験つきあいから、私はそのことをよく分かっていた。

    日当たりの良い窓際の席。対峙しているのは、学園時代の先輩だ。学生時代から何度も一緒に出掛けてきたけれど、こうして意味もなく会うようになったのは最近のことである。

    〇〇

    トレイ先輩は薔薇の王国に位置するこの街の、とある製菓店で働いている。彼の実家は薔薇の王国のケーキ屋さんだけれど、修行と称して家族とは別れて住んでいるのだ。

    『まあ、うちは両親も健在だし。今のうちに余所で働くのも良い経験かと思って」

    いつか、本人は事も無げにそう言っていたっけ。照れくさそうで、けれど誇りに満ちたその表情を今でもよく覚えている。

    薔薇の王国の首都からちょっと離れた街。トレイ先輩と同じ街で、私は働いている。意図してやって来たわけではない。学園を卒業して、どうにか仕事を得たのが此処だったのだ。

    「お前は……」
    「! トレイ先輩」

    再会したときのことは今も忘れられない。私よりも2年早く卒業してしまった先輩は、すっかり大人びていた。いや、もともと実際の年齢よりも年上に思えてしまう人ではあったけれど……身長も僅かに伸びたようだったし、面立ちはよりシャープになっていた。

    それから何となく一緒にお茶をしたり、食事に行ったりするようになった。曰く「この街にはあまり知り合いがいないから」とのことで、先輩のほうから誘ってくれることが多かった。

    それはあまりにも幸運で、しかし残酷なことでもあった。好きな人に会えることは嬉しいけれど、ご飯を食べる以外に私たちにすることなんて無いからだ。

    あれから2年が経っても、私たちは良くて友人、といった関係である。普通、これだけ一緒に出掛けていれば付き合っていると言ってもいいんじゃないかと友人に零されたことはあるけれど、そんな烏滸がましいことができるわけもない。
    そんなこんなで、私とトレイ先輩は休みが会うたびに出かけているのだった。

    〇〇

    閑話休題。今回のダイエットは何としても邪魔されるわけにはいかない。20代に差し掛かり、微妙に代謝が落ちてきた自覚はある。だからこそ、できる努力はしておきたいのだ。

    『お前が食べ過ぎって言うんなら、それより食べてる俺だって問題だよ。だから、気にしなくていいんだ』

    いつだったか、そんなことを言われたなと思い出す。トレイ先輩は大食いではないけれど、割としっかり食べるほうである。
    それにしても、この人の身体は引き締まってるように見えるんだよなぁ。今日もリブニットの薄手のセーターを、美しいラインで着こなしている。シンプルな服が似合うかどうかは案外、体型に左右されるものなのだ。
    きっと、他人の見ていないところで色々とやっているんだろうなぁ。このトレイ先輩はそういう人だ、いつだって。親切でフレンドリーなようで、自分の心の内を見せることは滅多にないんだから。

    早めに出してもらった食後のアイスコーヒーを、ストローでゆっくりかき回しながら、私はそっとため息をつく。普段はガムシロップを入れるけれど、今日は苦いままで飲むことにした。

    〇〇

    学生時代、ふと立ち聞いてしまった会話のことを今も思い出す。ナイトレイブンカレッジは男子校だったから、そういう会話は様々なところで繰り広げられていたのだ。

    「なあ、クローバーはどのが好み?」

    普段なら聞き流すその話題だが、この時ばかりは思わず足を止めてしまった。半分だけ開け放たれた観音開きの扉の向こうから、何人かが話している声が聞こえてくる。どうやら空き教室で、上級生たちが談笑しているようだった。
    クローバーなんて苗字の生徒は、この学園に一人しかいなかったはずだ。思わず息を呑み込み、その会話の続きを待った。いけないことだとは分かっているのに、どうにも足が動かない。

    「うーん、そうだなぁ」

    彼らは雑誌か何かを見ているのだろう。きっと可愛い女の子がいっぱい載っているやつに違いない……その中で、クローバー先輩──トレイ先輩はいったいどんな子を選ぶのだろうか。心臓はばくばくと大きく鼓動していた。聞きたいような、怖いような……。
    先輩はしばらく迷っていたようだったけれど、ふと思いついたかのように呟いた。いつもと変わらない、落ち着いた低い声だった。

    「健康的な子かな」
    「なんだよ、それ」
    「つまんねー奴だな」

    他の先輩たちは笑いながら、口々にトレイ先輩を非難していた。けれど、私はとても笑う気分にはなれなかった。

    気がつけば、その場で踵を返していた。先輩たちがいた教室よりも向こうに用事があったというのに、私の足は急いで反対方向へと戻り始めていた。とにかく目的もなく走っていなくては。そんな観念に取りつかれて、いつの間にか息が切れていた。

    校舎の外までやって来て、ようやく足が止まった。俯き、ぜえはあと荒い息を吐きながら、自分の手を見る。この世界にやって来る前は腕についた贅肉を気にしていたというのに、今やすっかり細くなっている。ただ細いだけなら良いのだけれど、栄養が足りないせいか肌はかさついていた。

    「……健康的、とは言えないよね」

    先輩が好きなのは、健康的な子。妙な痩せ方をして、肌も髪もぱさぱさな私のことを、好きになってはくれないだろう。そう思った途端、頬を汗と一緒に涙が流れていった。

    乾いた道に涙が滴る。そこでやっと、気がつくことができたのだった。私、トレイ先輩が好きだったみたいだ。

    人当たりが良くて、穏やかな先輩。ハーツラビュル寮の二人と一緒にいるせいか、何かと私にも声をかけてくれた。ケーキを扱う丁寧な手つきを見るのが好きだった。その大きな手が、たまに私の頭を撫でてくれた。たったそれだけで、私は先輩のことが好きになってしまった。

    けれど、この恋は諦めよう。

    〇〇

    あくる日の昼休み。スマホに着信が入っていることに気がついた。発信者を見て、忙しい時間だろうにどうしたんだろうかと首を傾げる。しかし出ないという選択肢はそもそもないので、折り返してみることにする。オフィスからちょっと離れたところに出て行って、震える手で液晶画面を操作した。
    数コールの後、通話に切り替わった。電話の向こうから、いつも通り落ち着いた声が聞こえてくる。私はいつも、この人に電話するだけで心臓が破れそうだって言うのに。

    「ああ、忙しい時にありがとな」

    こちらも冷静を装いながら、何でもないように答える。声の震えが伝わってしまっていないかなぁ。

    「いいえ。どうしたんですか? 急に電話だなんて」
    「聞きたいことがあってな」

    答えになっていない答えを返しながら、トレイ先輩は少し笑ったようだった。目を伏せれば柔和な笑顔が思い出せるほどに、私は先輩のことをよく見ている自覚がある。

    「次の土曜日、休みだったりするか?」

    その問いかけに一瞬、息を呑んだ。私たちの休日はたまにしか重なることはない。私は土日休みだけれど、トレイ先輩の方はシフト制で、それも平日に休むことが多いからだ。なので一緒に出掛けるのはそれぞれ仕事が終わった後ということが多い。しかしこの聞き方は、もしかして……はやる胸を手で抑えつけながら、私はできるだけ冷静を装って返事をした。

    「は、はい」

    けっきょく声が震えてしまったけれど、トレイ先輩は特に気にした様子はなく「そうか」と呟いた。また出かける約束だろうか。先輩と約束を積み重ねるたび、私の心には溢れるほどの嬉しさと、ほんのちょっぴりの寂しさがやって来る。とはいえ断る理由はない。飛び跳ねて落ち着かない感情を悟られないように息を深く吸って、先輩の次の言葉を待った。

    「突然なんだが、次の休みは俺の家に来ないか?」
    「え?」

    ツギノヤスミハオレノイエニコナイカ? 一瞬、何を言われたのかが分からなかった。広い広いこのツイステットワンダーランド、私の分からない言葉の一つや二つや百個くらいあってもおかしくはない。いや、でも冷静になって考えてみると、先輩がそんな不規則なことを言う訳もない。ということは、文字通り……。

    「先輩の家、ですか?」
    「ああ。都合が悪かったら断ってくれて構わないぞ」

    そうやって逃げ道は必ず用意してくれる。けれど、今の私にそちらを選ぶ気はなかった。耳や頬が変に熱い。

    「……行きます」

    私がそう返事をすると、トレイ先輩は満足そうに言う。

    「いつものところに迎えに行くから」
    「わかりました」

    そうやって口調だけはいつものように約束をして、「じゃあ、また」と電話は切られてしまった。あとには、心臓が破れそうなほど緊張したままの私だけが残された。
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    Replies from the creator

    kinoko12069

    MAIKINGどうやらワンナイトしちゃったらしいルク監の話。かきかけです。

    卒業後設定、女監督生、捏造過多にご注意ください。まだまだ全年齢ですが、この手の話題が苦手な方はご注意ください。

    今回の狩人:相手から許可をもらうまでは絶対に自分からは触れないが、しかし一度許可を貰うとヤバいタイプの紳士狩人。
    目が覚めた時、いつもより太陽の光を強く感じた気がした。せせこましい住宅街にあり、東向きで日当たりのちょっと微妙な自宅では、朝にこれほどの陽光を浴びるという経験がなかったのだ。お隣の古い空き家がついに崩落したのかな……そんな寝ぼけたことを考えながら、気怠い身体をベッドから起こす。

    そこで私はもう一つの違和感に気が付くことになる。身を起こすと同時に、掛け布団が肩からお腹の辺りまで滑り落ちていく。瞬間、とんでもない寒気を感じた。
    風邪でも引いたのかな? いや、それにしては感覚が違うような……寝ぼけ眼を開いて自分の身体を見やれば、今朝の私はシャツ一枚を着ているだけだった。
    一般的な寝間着としては、特別おかしい格好でもないかもしれない。けれど、この季節は妙に花冷えがしていたので、冷え性の私はもっと着込んで寝ているはずだった。それが、今朝に限って薄手のワイシャツたった一枚きり……しかも妙にサイズが大きいような……それに、いつも同じベッドで寝ているはずのグリムもいない。ちょうどいい湯たんぽにしているというのに……違和感はまだまだ続く。
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