Love Letter一
鍛錬や朝食を終え、一息つける午前九時。
(さて……)
渡辺綱は自室の机に向かっていた。原稿用紙を拡げ、鉛筆を手にする。アイディアはまとまっていた。あとは、それを出力していくだけ。彼は執筆の際、その名を一時的に変化させる。「満月れもん」というペンネームに。
***
渡辺綱という人物は、基本的には戦いに身を捧げた人生を送ってきた。源頼光の四天王と謳われ、鬼をも斬り伏せる平安時代最強の武者。それゆえ、文学とはほとんど縁がなかった。
サーヴァントとしてカルデアに召喚された綱も、初めは己をただの包丁としか認識していなかった。人理を守るという使命のため、彼の主・藤丸立香に仕える忠臣。しかしカルデアでの日々を過ごすうち、やがて綱の心境は徐々に変化していった。もちろんその使命は胸に抱き続けていたが、ただの道具から一人の人間へと、感受性が育まれていったのだ。
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