THE SHIMMER「今日は助かったよ。ありがとう」
主の言葉に、なんでもないような顔で「当然のことをしたまでだ」と答える。
日頃、鍛錬を怠らずにいた賜物だろう。久々の出陣だったが、大きな戦果をもたらすことができた。このくらい、主に仕える身としては当然だと思っているのだが。しかし。
「何か、お礼をさせてよ。オレにできることなら何でも」
そう言われると、心はぐらついてしまう。
数多く所属する英霊たちが、主を慕っていることはよく承知している。公にするものから心に秘める者までさまざまだが。俺も後者のうちの一人だった。美しさや華やかさもなければ、何かに秀でているわけでもない俺など、主のかたわらに置かれる存在では到底ない。だからと諦めて、主のためにできることを為すだけだった。幸い、俺には剣がある。忠しき臣下として、主に仇なす者を断つ。そうして役に立てていれば、何もいらない。何も望むものはない。
と、思っていたが。
せめて一度くらいは褒美を賜ってみたいと、気持ちはそちらへ大きく傾いたのだった。
「オレの見ていた景色、か……」
「ときおり話に聞く、未来のひのもとが気になってな。厚かましい願いだっただろうか」
「ううん、そんなことないよ。オッケーが出たら、行ってみようよ」
俺が望んだのは「主の生きる時代を見てみたい」というものだった。純粋に、俺の生きた時代から長い時を経た日本がどうなっているか知りたいという興味もあったが、それ以上に、かつて主の過ごしていた景色の中を二人きりで歩いてみたいという欲求があった。当世風に言えば、でーと、というやつだろうか。もちろん、主と俺はそういう関係ではないのだが。
俺の願いは了承された。しかし、主が長くここを留守にするわけにもいかないということで、一日のみ、という条件がついたが。それだって十分だ。
普段の装束から、用意してもらった当世の衣装に着替える。鏡の中の自分には見慣れず、やや居心地が悪い。
「よく似合ってるよ」
「そうならいいのだが……」
「大丈夫、自信を持って」
そう言う主は、普段身に付けている魔術礼装から、こちらも当世の格好へ様変わりしていた。おそらく、これが年相応の装いなのだろう。いつもよりもやや幼いが、新たな一面を覗き見られたようで嬉しい。
「行き先は東京にしてもらったんだ。ごめんね、京都ではなくて」
俺が望んだことだ。主の見ていた景色を、というのは。
「よし、じゃ、行こう。せっかくだから、たくさん楽しんでこようね!」