秋の気配と「——というわけで。豆腐ハンバーグ弁当と、適当に惣菜を買ってきたぞ…です。」
ジャロップがフラワーアレンジで飾り立てた、貸切の【夜風】のなかで俺は言う。今日は少し遅れた『結成記念日のお祝い会』だ。ウララギの負担を少しでも減らすため、食事とケーキはそれぞれ俺とクースカで持ち寄りになっている。何故俺がケーキの担当でないかと言えば…『迷った挙句全て買ってこられると困る』とあいつらの顔に書いてあったうえ、そのあたりは自信がなかったので遠慮したというだけの話だ。
「ふぅん、行事食か。中々いいチョイスじゃない?見た目も華やかだし、何より一定のニーズがある。上手くやればかなりバズりそうだ」
「オレィ菊って食べるのハジメテかも!どんな味だろ?」
「あのお店のお弁当ですから、きっとどれも美味しいですよ。…あ、からあげもありますね。ふふ、楽しみですね!」
俺が広げた惣菜と弁当を見ながら各々が気になったものを指してコメントしていく。弁当はひとりにひとつあるけれど、追加で買ったからあげは2パックあるので左右に離して置くとして…他の惣菜はどう並べるべきだろうか。
……俺は少しの間考えて、さつまいもの煮物をそっと自分の近くへ引き寄せた。
「ボークはサヴァランとショートケーキを2つずつと…あと折角だから人気だっていうカヌレも買ってきたよ。心配しなくてもちゃんとウララギが冷蔵庫に入れてくれているから、あとでシェアして食べよう」
「ウェーイ!ケーキあるとまじアガるよね〜!ねえウララギちん、見せて見せて〜」
「はい、ジャロップさん」
流石、クースカの買い方には理性がある。最初からシェア前提で選べば良いのかと感心していると、ジャロップに急かされたウララギが箱を取り出す。中から姿を見せたケーキの姿に見覚えがあって、俺は思わず声を上げる。
「な……そ、それは…!!」
「え、なになにリカオちん?知ってるお店な感じ?」
「あぁ!その店のカヌレは特に絶品だ…!Fourthvalley駅からそう遠くないところにあるんだが…入り口が少し見つけにくくてな。クースカが記事にすれば絶対に流行るはずだ…です。」
「おぉ〜!リカオちんがキラキラしてる」
「なんだ、ユーも行ったことあったのか。口ぶりからして常連みたいだし、先を越された気分だ」
「おふたりのおすすめなら間違いなく美味しいんでしょうね。あぁ…これは食べるのがより楽しみです…!」
「…リカオ?……その顔は…もしかしてバズらせないほうがいいのかい?」
「…っ、あ、いや…!決してそういうわけではない…です。……ただ、お前のブログは影響力があるから……そ、その……。」
「ジャププ。リカオちんそのお店、本当にオキニなんだね」
「んなっ…!?……っ、あぁ、まあ、そうだ…です。」
「ワカル〜、他のコには教えたくないお店って、誰にでもあるよねー!」
「…なるほど。なら今回はペンディングするよ。今日の記事は弁当があるし充分でしょ」
「はいみなさん、ドリンク持ってきましたよ!」
「ウェイ!待ってました〜!」
「今日は初めの一杯は全員同じものにしてみました。言っていただければ割材もありますので」
「わぁ!なにこれ花びら?超キャワイイね♪」
「これはフォトジェニックだ。…もしかして菊酒?」
「ええ。お酒に花を浮かべるだけの簡単なものもあるんですが、僕は折角なら凝りたくて」
「菊酒か…。あぁ、確かに菊の香りがするな…です。いい香りだ…。」
「ほんとだ!いい匂い〜」
「うん、いいね。さすがウララギ。…ねえこれ、弁当と一緒に写しても大丈夫かい?」
「ええ、もちろんですよ。いつも通り僕や【夜風】の名前だけ伏せていただければ」
「ありがとう。あとでMIDIスタにもアップさせてもらうよ」
「よーしじゃあこれでおつまみもお酒も揃ったし、この辺でサクッと乾杯しちゃおちゃお〜!ねぇリカオちん、最初の音頭よろしく!」
「ぇお、俺か!?…です。」
「逆に聞くけど、ユー以外誰が居るの?」
「僕もリカオさんが適任だと思うのですが…」
「なんでもいいからはやく〜!オレィもうお腹ペコペコ〜」
「ジャロップさん、そう急かさないであげてください。今夜はまだ長いんですし……」
「いや、大丈夫だウララギ。言うべき事は決まっている…です。…まずは俺達【Yokazenohorizon】の、結成3周年を祝して、」
「「「「乾杯!(…です。)」」」」
「…ほう…これは…思わず飲み過ぎてしまいそうだな…です。」
「うわぁ〜!これすっごいね、グラス傾けるとメッチャ菊!」
「へぇ…。もっとキツいのかと思っていたけど…、なんだろう………梅酒に近いのかな」
「飲みやすくておいしーよね!ウララギちんが出すお酒ってほんと魔法みたい!」
3人で顔を見合わせながら、素直に感想を述べていく。
「梅酒と同じように、菊の花をリカーと氷砂糖で漬けておいたんです。みなさんの反応を見るに、これならお店で出してもいいかもしれないですね」
「え〜自家製なんだ!」
「…店で売るのか?」
「えぇ。来年はそうしようかと。届出はちゃんとしますので大丈夫ですよ。リカオさんのお仕事を増やすわけにはいきませんから」
口元に手をやったウララギが、いつものように微笑む。
「いや、そういう意味ではないのだが…まあ。それは良かった…です。」
「おや、勘違いでしたか? それは失礼しました。ふふっ、それよりみなさん。飲み方は如何なさいますか?」
オレィはソーダ割がいいな!
ボークは…お湯割りにしようかな
俺はこのまま、割らずに飲みたい。ジャロップ、そこの氷を貰えるか?…です。
ウェイ、どーぞリカオちん!
助かる…です。
(ウララギが手早くふたりの酒を割る)
みなさんお写真はもう大丈夫ですか?
あ、待って。もう一枚撮りたいかな
じゃあオレィは写真撮ってるクースカちんを撮っちゃおちゃお〜!
ちょっとジャロップ、待って邪魔しないで。あぁもう。そこだと影になるんだ、せめて半歩下がって。…うん、これでよし。
……ウララギ、少しいいか…です。
…?………ふふ、これでいいですか?
あぁ、ありがとう、助かる…です。これはあとで共有しておく。
ええ、ありがとうございます
(弁当の写真を撮るクースカを撮るジャロップをバックにウララギとリカオが映る自撮り写真。(ウララギ撮影))
……では!お料理もいただきましょうか
そうだね。……ん。これは中々…
美味いな…です。
栗ほくほくでテンションアガる〜!
あぁ、このハンバーグ、ふわふわですね…!
あーおいし!箸もお酒も進んじゃう〜!!
おい…あまり飛ばしすぎるなよ…です。
だーいじょうぶじょぶ!ウララギちんがちゃ〜んと水用意してくれてるから♪…てかクースカちんはさっきから何やってんの?またブログ?
…そう、ブログ。酔わないうちに骨組みくらいは作っておかないとね
まずヤスに連絡しておいたほうがいいんじゃないか?……です。
あぁ…食材の在庫とか色々ありますからね……
ワカル〜!発注って大変だよね〜
今日は本当にわかっているのか…珍しいな……です。
も〜リカオちん失礼すぎっしょ!
…すまない、つい…です。
……分かった。ちょっと席外すよ
はい、行ってらっしゃい。
……
2杯目はクースカちんね!
え?なんでボーク?
持ち回りじゃないの〜?クースカちんが嫌ならオレィがやるね!え〜…ウェッヘン!
…今のは咳払いなのか?……です。
あ、チェイサー足しておきますね
ありがとうウララギ
すまない、こっちにも頼む…です。
ちょっとふたりともずるーい!ウララギちん、オレィにもヨロシク〜!
はい、任せてください!
よーしじゃあ…、んと、じゃあね、オレィ達の4年目が、もっともーっとハッピーになりますよーに!!ほらせーの!
「「「「乾杯〜!(です。)」」」」
ふふ、折角ですし3杯目は僕がやりましょうか
おっ!いーねウララギちん!がんばがんば〜♪
そうですねぇ……今年は…4人で沢山色々なところへ行って、色んなものを見て、色んなことをして……えぇと、4人でもっと沢山…演奏したいです
「「ウララギ…。」」
……ですので!そんな一年になる事を祈念して…!はい、せーの、
「「「「乾杯!(…です!)」」」」
ふふふ、自分から申し出たのにジャロップさんと大体同じになってしまいました
だいじょうぶじょぶ!こーいうのはキモチが大事っしょ♪
……次で4杯目だな…です。
はぁ…どうせボークにやれって言うんでしょ。
うんうん。記念だし折角ならみんなやろう的なー?
だいじょぶだってクースカちん、みんな酔ってるし何言っても平気っしょ!
いやもう誰もアルコール飲んでないでしょ
ふふ、そうですね
………クースカ。
…あぁもう、分かった。分かったよ。ボークの負けだ。ふぅ…。そうだね……こうやって、4人で過ごす時間は悪くないと思うから…それがこれからもずっと続いていくように…って、これでいいかい?
うんうん、ばっちし!じゃあほら音頭とって!
あ、そうか。じゃあいくよ、せーの…
「「「「乾杯!」」」」