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    いなほのほ

    @hokahoka_inaho

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    主な生産は🍱⚖️、気まぐれでほか色々。
    大体いつでも気は狂ってる。

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    いなほのほ

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    VD過ぎてしまったし作中はVDじゃないしなんならチョコレートも一切出てこないんだけど、チョコレート(概念)みたいな話が書きたくて書いた、X年後の🍱⚖️のはなし。最高に最高なはなしになった気はする。縦書きなのでスクロールして読んでね。

    #ヤスリカ
    ##ヤスリカ

    まねごと記念日「……っ」
     不意打ちで殴られたときのような強い衝撃に、胸を抑えてよろよろとしゃがみ込む。
    「おい、急にどうした? 大丈夫か⁉︎」
     目線を合わせようと屈んだリカオが、心配そうに俺の顔を覗き込む。……大丈夫。
     俺は両手で頬と口元を覆ったまま、何度も必死に頷き返す。
    「どうしたんだヤス、本当に平気か? ……です。」
     本当に大丈夫なんだ。大丈夫なんだけど、心臓が狂ったように脈を打ってる。あと全身が燃えるように熱い。ついでに色々と堪えきれなくて体勢がどんどん崩れていくけれど、正直そんなことに構っているだけの余裕がない。
     それでも一秒だってリカオの心配を長引かせたくなくて、震える声を絞り出す。
    「…………け」
    「け?」
    「……結婚してくれ…………」
    「お前は何を言っているんだ…です。」

     心底呆れたみたいな声色だけど、まあ一応は安心してくれたらしい。細められた瞳はひどく優しい色だし、差し出された両の手のひらはとてもあたたかい。
    「ほら、立てるか? まったく……。」
     リカオの手をグッと掴んで、ようやく立ち上がる。ありがとう、と離れようとしたところで、引き留めるみたいに彼の腕に力が入った。
    「心配させて悪かったって。大丈夫だから、ほら。どこも何ともねえよ。いや、うん。あんたがあんまり格好良かったから、なんかこう……な?」

     普段外ではきっちりしているはずのリカオが、俺やバンドの奴らの前でだけ見せるポンコツな姿を、いとおしいと思う。けれどポンコツで愛らしいこの男が、時たま見せる『格好良い一面』に、俺はどうしようもなく弱かった。
     たまたまリカオの仕草が効果抜群で、それがうっかり急所に当たっただけだ。瀕死の一歩手前で耐えたから大丈夫だけど、どっくんどっくん鳴る心臓はまだ痛い。
     俺が素直にそう白状すれば、リカオは苦い顔をしながら嬉しそうに口元を緩ませた。……器用だな、俺には多分出来ねえ。
    「言いたいことは色々あるが、ひとまず何ともないのなら良い…です。」
     リカオは絡めた指先をゆっくり解きながら、俺の左薬指に嵌る輪にそっと触れた。そしてつぅ、と慈しむように銀を撫でながら、思案するように泳ぐ目を伏せる。何を考えているかまでは分からないけれど、きっと何か言いたいことがあって、その為の言葉を探しているんだろう。俺はただされるがままに、じっとリカオの言葉を待つ。
    「その、ヤス。結婚の、申し出だが。」
    「うん? ……ん」
     囁きながらリカオがおもむろに俺の指輪を外す。一体どうしたのかと首を傾げる俺に構わず、彼は独白のように続く台詞を紡ぐ。
    「出来ることなら、叶えてやりたいとは、思う…です。」
    「お、おう」
    「ただ、同じ相手と……お前ともう一度結婚するには、離婚が必要だろう?」
     するりと、今度は彼自身の薬指から、揃いの指輪が——俺達の、結婚指輪が引き抜かれる。
    「んぇっ⁉︎ えっ、な、り、離っ……は⁉︎」
     斜め上過ぎる発言と行動に、サァっと血の気が引いていく感覚がする。もはや復唱すらままならなかったけれど、ぎゅっと握りなおされた手の温もりが、なんとか俺を引き戻してくれる。
     
    「例え書類上の、一瞬の事だとしてもそれは……俺が、嫌だ……です。」
     ほんの少しだけ拗ねたように尖る、リカオの唇。
     出会った頃よりも幾分か近くなった目線をつま先で調整しながらさらに近づける。覗き込んだ赤い瞳は、微かに潤んで揺れていた。
    「指輪を嵌め直すだけの、真似事・・・で我慢してくれ……です。」
    「っ、よ、良かった……。いや、離婚とか言うから、もうマジでビビった……」
     脅かさないでくれと苦笑すれば、眉根を寄せたリカオがお互い様だろうと俺を詰る。
     確かに彼にとって『結婚』という名の関係性の法的な縛り・・・・・・・・・は、俺が特別だと思っているよりもずっとずっと、特別なものなんだろう。
     俺ともう一度結婚するための手段として、離婚なんてとんでもない単語が出るとは思わなかった。……法律としてはそれも正解なのかもしれないけれど、本当にどこまでも真面目で斜め上を行く思考回路だ。
     一瞬でも離婚したくないと言ってくれただけで嬉しいのに、せめて真似事でも結婚は叶えようなんて。まさかそんな愛おしい提案をして貰えるとは。

    「貸せよ、リカオの指輪。すぐ返してやるから」
    「……あぁ。」
     彼から受け取った指輪は、一度目の交換時とほとんど変わらぬ輝きを纏っている。きっと普段から丁寧に扱ってもらえているんだろう。
     喜びのあまりふにゃふにゃと上がった口角を引き締めて、咳払いで喉を整える。
    「……リカオ。あんたは、病める時も、健やかなる時も……、えっと、あー……、」
    「んぐっ‼︎ ……ふ、くく……、」
     言葉に詰まった俺から顔を背けて、ぷるぷると震え始めるリカオ。差し出された左手がひどく揺れるせいで、指輪がすんなり入らない。
     ……え、なんか俺今、めちゃくちゃ格好悪い奴みたいになってる。

    「ちょっ、しょうがねえだろ口上なんか覚えてないんだから! おい、そんな笑うなって! あーもう、全然締まんねえじゃねえか。……仕事とか忙しい時でも、俺を愛して、えーと、その、いっ、一緒に、居てくれるって、誓ってくれるか?」
    「ぶっ……ふ、んふ、くく、ははは‼︎」
     こうなったら今日はもうだめだな。まあ、リカオが楽しいならそれに越したことはないけれど。でも笑い出すと本当に止まらないから、過呼吸にならないか心配になるんだよな。
    「ん、はは、ふっ……ぅ、ふは、ふ、……っ、……ふぅ。……勿論、誓う…です。」
     よくもまあそんなにキリッとした顔で言えるもんだ。さっきまであんなに笑い転げてたのに。まあ、そういうところも好きなんだけど。
    「今度は俺が問う番だな……です。」
     
     リカオが俺の手をとって、薬指に指輪が返ってくる。あぁ畜生、スムーズに嵌めやがって。
    ……格好良いなぁ。

    彼の体温が移った金属の重さで、今までの出来事がひとつひとつ思い浮かんでくる。
     長い片想いから必死に口説き落として、やっと両想いになれたと思っても結局成人するまでは付き合えなくて。あまりにも不器用すぎた俺達は長いこと、友人にも恋人にもなれないまま、俺達なりの距離で生きていた。
     付き合えてからだって器用にはなりきれなくて、言葉が足りずに傷付けたことも、余計な一言に傷付いたこともあった。リカオの発言に救われたこともあれば、無言で寄り添ってくれたことに泣くほど感謝したことだってある。
     なるべく対等に近付こうと努力して、それなりの苦楽をふたりで乗り越えて、それで。本当にたくさんの想いを積み重ねて、ようやく漕ぎ着けた結婚だった。
     左手に戻ってきた銀色にはきっと、俺達の今までが詰まっている。
     
    「——色々、あったなぁ」
     指輪を見つめながらそうこぼせば、視界の端でリカオがそっと頷いた。
    「そうだな…です。……さて。ヤス、お前は、」
    「誓います」
    「っ……く、ぅ、ふぐ、くく……。そ、即答っ! ふ、ふはははは‼︎ それにしたって、くっ、ははは‼︎ 早すぎるっ…です! あっははは!」
    「別にいいだろ。カミサマに誓ってる訳じゃねえんだし。あんたのこと一生大事にするってのも、ずっと前から変わってねえよ」
     それよりも、と続ければ、苦しそうに笑い続ける彼がようやくこちらを向く。込み上げる笑いを押し込めようとしているらしい。震えながら俺を映す瞳から、ぼろぼろと溢れる大粒の涙。
    「いや、笑いすぎだろ」
    「んっ、ふ、すまな、あは、ふふはっ。」
    「…………はぁ」
     すっかりぶり返してしまった彼の両頬に手を添えて、戦慄わななく唇に優しく噛み付く。
    「んむ、ぅ⁉︎」
    「誓いのキスは、一応必要だろ」
    「……ヤス。」
    「ん? なんだよ、文句か?」
    「ちっ、違う…です。不意打ちだったから、その、……上手く誓えなかった…です。」
     ——だから、もう一回。リカオはそう言って真っ赤になった。
    「ふ、しょうがねえなぁあんたは」
     お互い見つめあって、やっぱ好きだなぁって微笑んで。
     それから俺達はもう一度、嬉しさを噛み締めながらキスをしたんだ。
     
     なんでもない今日は、俺達の二度目の結婚……の、真似事記念日。
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    いなほのほ

    DONE🍱⚖️。両片想いだけど倫理観がガチガチで付き合えない話の幻覚。コピペするメモ間違えてるとかいう信じられないミスがあったのであげ直し。
    Q:そんなことある???A:残念ながらありました。
    5回読み返したからもう平気だと思う。平気であってくれ…。
    それは、時間でしか解決できないその日、俺はリカオとカラオケに来ていた。
    リカオの隣に腰掛けたら、こいつは俺を遠ざけるみたいに、俺から離れるみたいに、10cmくらい遠くに座り直した。別にショックだったわけじゃねえけど、あぁまたか…とは思った。

    リカオが好きだ。でもリカオが俺をどう思ってるかは、正直全然分かんねえ。
    俺の気持ちはもう何十回と伝えてきたけど、でもその度にこいつは困った様に『そうか』とだけ言って話を切り上げるから。付き合うとか付き合わないとかの話、めちゃくちゃ避けられてる気がする。
    リカオからしたら俺はまだ子供だし、第一こいつは弁護士だから、そういうの、余計に難しいのかも知んねえけど。
    …それでもたまに、忙しいだろう仕事の合間を縫って弁当買いに来るし、こうやって誘えばカラオケなんかにもついてきてくれるから、俺は今日もこいつを諦められないままでいる。
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