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    いなほのほ

    @hokahoka_inaho

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    いなほのほ

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    親子喧嘩のはなし。あまりにも進まないから一度供養しておこうかなと。書きかけのままメモ帳からダイレクトにコピペしたので誤字も謎改行空行も全部そのままです。描写を足したかったりしたんだと思ってください。

    ##書きかけ

    ただいま、ごめん、ありがとう

    随分と、日が短くなった。夕景なんてものはとうの昔に置き去りになって、午後6時過ぎのMIDICITYは夜の帳に包まれていた。
    自転車のカゴには財布とスマホ、背中にはギターケース。それだけ。夕食にと用意されていた弁当でさえ、置いてきたまま。

    母と、喧嘩をした。
    ほんの小さなきっかけがたまたま大きなすれ違いを産んで、一世一代の大喧嘩になってしまったのだ。あのまま来客がなければどうなっていただろうか。
    ヤスの脳内を後悔と情けなさと、今なお割り切れない苛立ちがぐるぐると回る。
    今は母のいるあの家から少しでも離れたくて。そのくらいには、自分が正気でない自覚があった。だから頭が冷えるまではと、黙って家を出てきたのだ。

    ——だって…うっかり突き飛ばしでもしちまったら……母ちゃんのあの身体じゃひとたまりもないだろ。


    11月ももう下旬を迎え、冷え込むUnderNorthZawa商店街のなか、楽しげに道行くミューモン達。ヤスは彼らをけながら、カラカラと自転車を押して歩いていく。
    しきりにぼやける視界と、やたらと頬にまとわりついてくる水滴が鬱陶しい。バンデージの巻かれた右腕で乱雑に拭えば、ようやく視界がクリアになった。小さく溜息を吐いたところで混雑を抜けて、ヤスはペダルへと体重を乗せた。

    街灯と店灯りの隙間を縫いながら、まだ月のない星空の下を進んでいく。雑踏をけて、行き着いた幹線道路に沿って気が済むまでペダルを回す。声のひとつでも吐き出せる場所が見つかればと、そう願いながら。

    そうしてしばらく夢中で自転車を漕いで、気が付いたらFourthValleyのあたりまで来ていたようだった。
    信号で停まって辺りを見渡したら、遠くの方に細い路地へ入っていくリカオの尻尾が見えた。追いかけた道の先にひっそり佇む『BAR【夜風】』の看板サインを見て、ヤスはそこではじめて自分がどこに居るのかを正確に理解した。


    高校生という己の身分には到底見合わない場所。
    『BAR』という未知の空間への入り口で、悩むことおよそ6.9秒。
    意を決して手をかけた扉は存外に軽く、いざ開けてみれば何ということもなかった。その開閉に伴って、設置されたドアベルが軽快なメロディーを奏でて揺れる。
    ぐっと一歩踏み出せば外とは違う、あたたかく整えられた空気がヤスの身を柔らかく包み、思わずほぅと息が漏れた。

    「いらっしゃいませ……おや?」

    カウンターの向こうに居たウララギと目が合った。グラスを磨いていた彼が手を止めにっこりと笑むと、リカオがそれに反応して振り返る。相変わらずクマの浮かぶ目でこちらを認識するなり、リカオはキュッと眉根を寄せる。

    「………なぜお前が【夜風】ここに居る?…です。」
    「あ……。いや、別に…ちょっと、な。リカオの尻尾が見えて、追いかけて、そしたら看板があったから…ええっと、俺、」
    「…外は寒かったでしょう? 改めてようこそ、ヤスさん。どうぞこちらへ」

    視線を彷徨わせながら紡ぐ、稚拙でたどたどしい言葉をウララギが優しく遮る。リカオ以外客のいない店内はとても落ち着いていて…それはきっと内装だけが理由ではなく、店主が彼であるからこそなのだろう。

    「…いい、のか? だって俺……」
    「ええ。今、温かいものをお出ししますので」
    「あ…ありがとう」

    さあどうぞとウララギが指した席はリカオのすぐ隣で、ヤスはそこへ恐る恐る腰掛ける。

    「俺が居ても、迷惑じゃないのか?」
    「………まあ、今夜の【夜風】は営業日ではないからな。」
    「え…」
    「……? 『CLOSED』のプレートが下がっていただろう?…です。」
    「全然、見てなかった…」
    「…そうか。」

    リカオが口の端に、ほんの僅かな笑みを浮かべながらコーヒーカップを置く。彼は前を向いたままこちらを一瞥して、そのまま言葉を続けた。

    「ウララギは間違ってもお前に酒は出さないから安心すると良い。…ただ。家への連絡を必ずする事、遅くならないうちに帰る事は約束してくれ…です。」
    「そ、れは、…………嫌だ。帰りたく、ねえ」
    「…なんだと?…です。」
    「帰りたくねえって、言った」

    向き直ったリカオの双眸が、ほぼ正面からこちらを向いた。途端に見開かれていく赤い瞳に耐えきれず、ヤスは目を伏せる。

    「お前…その目元はどうした?」
    「………さあな。…さっきゴミが入った」



    「なあヤス。本当に何があった? 俺が力になれるのであれば、」
    「リカオが思ってるような事じゃねえよ、多分」

    ヤスは首を振りながら答える。
    ウララギがそっと置いたココアを包み込むようにして持てば、冷え切って痺れた指先がじんわりと熱を取り戻していく感覚がした。大人達が、言葉を探し損ねている気配がする。
    目を伏せたまま沈黙を持て余していたら、ふいにぽつりとぽつりと自然に言葉が溢れ出た。

    「母ちゃんと、ケンカしたんだ」
    「……喧嘩、ですか?」
    「ただの、口喧嘩だけどな。きっかけだって、本当に…っ! ……小せえ事、だった…はずなんだ。だけど気づいた時にはもう、手遅れで。すげえ大喧嘩になってて、それで。……ダセェ事してるってのは分かってるけど。俺…逃げて、きたんだ」
    「ヤスさん………」
    「だから…帰りたくねえ」

    そう言い切った瞬間【夜風】に静寂が満ちる。張り詰めたその空気を崩したのは、リカオの胸元で鳴る着信音だった。

    「すまない。………クースカ…? ふたりともすまない、少し外す…です。」

    スマホを耳へ当てながら、リカオが店外に出ていく。

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