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    いなほのほ

    @hokahoka_inaho

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    主な生産は🍱⚖️、気まぐれでほか色々。
    大体いつでも気は狂ってる。

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    いなほのほ

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    🍱⚖️。かきかけのような半分供養のようなアレ。
    6月くらいから書いては消しを繰り返してるのにいまだに完成しないやつ。遊びに行ったら雨で帰れなくなっちゃったどうしよう大変〜!みたいなはなし。

    ##ヤスリカ
    ##書きかけ

    ただの夕立だと、初めは誰もが思っていた。日暮れ前に降り出したその雨は、いつしか土砂降りになり、やがて雷を伴う豪雨になった。
    帰宅ラッシュのMIDICITY交通網に影響が出始めると、タクシー乗り場や駅構内は必然的に帰宅困難者で溢れていく。
    そしてホームの柱を背に立つヤスとリカオもまた、行き場をなくしたミューモンのうちのふたりだった。

    「…止みそうにねえな」
    「……そうだな。」
    「あんま濡れなくて良かったな」
    「あぁ。」
    「…ああいうショーって、あんま見た事なかったけど、案外悪くなかったよな」
    「俺も、子供の頃以来だった。勝つと分かっていても応援したくなるあの感覚は…少し懐かしい気分になった…です。」
    「あ、それちょっと分かるわ。シナリオとか決まってんだろうし、ぜってえ負けるわけねえのに『レッド頑張れ‼︎負けんな‼︎』ってなるの不思議だよな。…あと演奏も良かったし」
    「彼に感謝しなければな…です。」
    「あぁ」
    「検査結果…何事もないといいな。」
    「そうだな。……でもあいつも災難だよなぁ。入院とか慣れてるだ何だの言ってやがったけど、でも…折角チケット取れてたってのにな」

    「ま、その代わりバイガンは俺たちがバッチリ見てきたから良いか。土産もあるし」
    「そうだ、俺の分も忘れないうちに入れさせてくれ…です。」

    そう言ってリカオが取り出したのは、入場特典のブロマイドと缶バッジ。2種類の図柄がそれぞれランダムに配布されると聞いて、開封するまでふたりで戦々恐々としていたのだ。被らなくて、本当に良かった。

    「お前が誘ってくれたおかげで、今日は楽しかった…です。ありがとう。」
    「おう。俺も楽しかった」

    時間と共に増えてゆくミューモンの群れの中。
    未だ友でも恋人でもないちぐはぐなふたりは、はぐれないようにと言い訳をしながら身を寄せ合って、そっと手を繋いだ。

    頭上から流れる幾度目かの遅延アナウンスに、ちらほらと落胆のため息が聞こえる。
    ざわざわと静まらないミューモン達の中で、ふとヤスが顔をあげる。

    「………どうしよう、家まで帰れっかな」
    「……このまま動かないようなら、家へ連絡して迎えを頼んだ方がいいかもしれないな…です。」
    「母ちゃん、今旅行中」
    「ん? そうなのか? …です。」
    「あぁ、商店街のくじ引きでさ。明日帰ってくるんだ。……今頃は、ポロサッツーで美味いもんでも食ってんじゃねえかな」
    「ポロサッツーか…。なら、雨の影響はあまりなさそうだな。」
    「ああ。店は閉めてるけど心配しなくて済むように、在庫チェックも掃除も俺がいつもよりしっかりしといたし。多分、ちゃんと楽しんでると思う」

    ヤスは、その瞳に母への心配を滲ませながら、自分に言い聞かせるように呟いていた。

    「お前は本当によく出来た息子だな…です。」
    「…………うるせ」

    頭上から再度アナウンスが鳴りはじめる。

    「あ、動いたのか。よかった……」

    混雑具合を加味しても次の電車には乗れそうだと、リカオも胸を撫で下ろす。

    ホームの端から、雑踏へ指示を出す拡声器の音が響いている。これから来る電車に備え、降車の邪魔にならぬよう善意によって場所が空けられていく。
    前列のミューモンを押さないように各々が少しずつ乗車列を詰めて、リカオたちもそれに倣う。密度を増した喧騒に呑まれぬよう、ふたりは繋いだ手をぎゅっと握り直した。


    「ほらリカオ、電車来るぞ」
    「あぁ。」

    電車を降りていくミューモンが途切れると、乗車列は一気に動き出す。リカオはヤスに手を引かれながら、既にミューモンでいっぱいの車両へと、身体を滑り込ませた。

    ふたりはぎゅうぎゅうに押しつぶされながら運ばれてゆく……はず、だった。

    別の駅で起こった混雑によるホーム転落。その影響を受けて停車したきり、ふたりを乗せた電車はかれこれ1時間、駅間から動き出せないままでいる。

    詰め込まれていたミューモン達が、駅員の誘導に従いぞろぞろと降車していく。聞くところによれば、停車中に落雷による送電線トラブルが重なったらしい。どちらも怪我人が居なかったのがせめてもの救いだった。傘の下で寄り添いながら、狭く足場の悪い線路を伝って、駅まで歩く。

    MIDIドームCITY最寄りから、わずか3駅。
    ふたりがやっとの思いでたどり着いたのはFourthValley。
    『復旧の目処立たず』のアナウンスがそこかしこで響いていた。

    「…ここからUnderNorthZawaへのバスは無い。タクシー乗り場は向こうだ、行くぞ…です。」
    「え、ちょ」

    繋いだままの手に心の中で言い訳を重ねて、今度はリカオがヤスを引っ張って歩く。勝手知ったる駅構内で、混んでいるからといって今更迷いはしない。
    ……そしてたどり着いたタクシー乗り場はやはり、ふたりと同じように家路に着きたいミューモン達によって占拠されていた。

    「……あーあ。こりゃあ当分帰れねえよな」

    タクシー乗り場の端の端で、どうすっかなぁとヤスが呟いた。

    「「なあ。」」

    同時に口を開いたふたりは、これまた同時にどうぞどうぞと譲り合う。もう一度リカオが促してやれば、ヤスは素直に言葉の続きを発した。

    「カラオケのオールってやろうと思えば出来るもんなのか?」
    「いや…高校生の22時以降のカラオケ店利用は、MIDICITY健全育成条例で禁止されている…です。例え、保護者同伴でもだ。」
    「…………マジか」
    「……マジだ…です……。」
    「そっか。ならしゃーねえな。……んで? あんたの話、何だって?」

    先頭の見えない行列を横目に、彼がこちらを見上げた。本当は不安だろうに、ヤスは目を細めて微笑んでいる。だからこそ、これから発する一言はきっと、彼の不安を和らげる一手になるはずだ。

    「…歩きはするが、車なら出せないこともない。」
    「………………マジか」
    「マジだ…です。」
    「それって、もしかしてリカオん家だったりすんのか?」
    「……する。」
    「…マジかよ……」
    「マジだ……です。」
    「「……………。」」

    紡がれたのは先程と同じ掛け合い。思わず見つめ合った数秒の沈黙に、どちらからともなく吹き出す。ふたりはせめて迷惑にはならぬようにと必死で声を抑えながら、腹を抱えて笑い合った。



    「さて……一時的とはいえ、お前を上げるにあたって許可を貰いたいのだが…お袋さんに連絡はつくか?…です。」
    「……! 許可、出たら…上がってもいいのか…?」
    「…あまり、良くはない、かもしれないが…その、緊急事態だからな…です。濡れたまま帰すのも良くないだろう。」
    「わ、わかった。俺ちょっと、母ちゃんに電話してくる!」

    ヤスが母親へ事情を話し、リカオが代わる。

    「…本当に良いんですか?ヤッちゃんの事、お願いしても」
    「ああ。俺が責任を持って預かる…です。」
    「リカオさん、ありがとうございます」
    「必ず何事もなく、彼をあなたの元へお返しすると誓おう。……それに、天気が崩れた段階で帰宅を勧めなかった俺にも、責任の一旦はある…です。」
    「…あなたのおかげで、あの子はひとりで濡れながら朝を待たなくていいんですから、それだけで充分ですよ。どうか気負わないでください」

    それにね、と彼女は付け加える。

    「私はいつでもリカオさんとヤッちゃんの味方なのよ?」

    そう言ってスマホ越しの彼女は笑う。

    「…リカオさん、大丈夫よ。あなたが息子を大切にして下さってる事は、もうよ〜く分かっていますから。だから…」

    「…息子を、どうかよろしくお願いします」

    電話口から放たれたその台詞は、酷く真剣な声色で。
    …だからリカオも、真っ直ぐに返した。

    「——はい。」



    「なあ。母ちゃん、何だって?」
    「なんでもない。お前をよろしくされただけだ…です。ほら行くぞ。」

    一向に先頭が見えないままの行列から抜け、ふたりは銀糸の雨が降り注ぐ街へと駆け出した。

    ———

    土砂降りの中を駆け抜けて、ふたりで家の中へ転がり込む。ヤスをドアの前に待たせたまま、リカオは真っ先に風呂場へ向かう。
    通りがかりに湯張りボタンを押してから湯船を覗くと、栓が閉まっているのを指差し確認。バスタブに蓋を乗せ、脱衣所からバスタオルだけを引っ掴んで再び玄関へ戻っていく。

    「これを使え。今風呂を沸かしているから少し待っていて欲しい…です。」
    「ん、サンキュ。…ってリカオお前しっぽ! 水めちゃくちゃ垂れてんぞ…!」
    「あ、いや俺は…。」

    渡したタオルがそのまま尻尾に押し当てられる。滴っていた水分がじゅわりとタオルに吸い込まれていく。

    「…?………??」
    「…いや……どうせタオルでは足りないから別に良かったんだが…まあ、気持ちは嬉しい。ありがとう…です。」
    「………え?…………うわ…まじか…」

    ヤスの手に残るのはべしょべしょに変わり果てたバスタオルと、未だ水分をたっぷり含んだままのリカオの尻尾。双方を見比べて呆然としているヤスに、リカオはくすりと笑う。

    「…タオルも絞ってくるから、少し貸してくれないか?…です。」
    「…タオル『も』?」
    「タオル、も、だ。」
    「…お、ぁ…やばい! ま、待ってくれ。これ、動かしたら垂れそう、つか垂れる!」
    「…あー…床はあとで拭くから、多少濡らしても大丈夫だぞ…です。」
    「わ、悪い…」
    「別に構わない…です。ほら、タオルを貸してくれ。」

    ヤスを洗面所に招き、リカオは靴下をカゴに放り込んでから、裾を捲って浴室に立つ。受け取ったタオルを数回に分けてきつめに絞り、再びヤスに手渡す。

    「大きなタオルは替えがなくてな…です。尻尾の後で申し訳ないが、とりあえずそれを使って欲しい…です。」
    「ん、大丈夫。気にしてねえよ」
    「言ってもらえればすぐまた絞る…です。」
    「あぁ、分かった。ありがとな」

    素直に頭や尾羽を拭き始めるヤスを横目に、リカオは軽くしゃがみ込み、自分の尻尾を両手で握った。そのままタオルと同じ要領で絞っていると、脱衣所から見ていたらしいヤスが声を上げた。

    「うわ」
    「なんだ、どうかしたか?…です。」
    「いや、しっぽ……それ、痛くねえの?」
    「……流石に加減はしているので痛くはない…です。」
    「そういうもんか…?俺のと違うから分かんねえな…」

    自分の尾羽を見つめながらヤスが言う。

    「俺やクースカのように、尻尾も毛足も長いミューモンは大体雨に難儀しているはずだ…です。」
    「……あ〜…双循も梅雨は毎日機嫌悪かったな…。いやまあ、ジョウに突っかかってる時は楽しそうだったけど」
    「喧嘩は、ほどほどにな……。」
    「これでも前よりマシになったんだぜ」
    「…そうか。あぁ、そうだ…風呂が沸く前にお前の着替えを出そう。確か新品のTシャツがあったはずだ…です。」
    「借りて良いのか?」
    「勿論だ。濡れた服を着直しても風邪を引くだけだぞ…です。」
    「そっか、ありがとな」
    「どういたしまして…です。」


    「ほらあったぞ。これを着てくれ…です。」
    「サンキュ。…一応…彼シャツってやつになんのか? これ。めちゃくちゃバンTだし新品だけど。つーかそもそも俺ら付き合えてねえけど」

    収納から引っ張り出したTシャツを手渡したところで、リカオはひとつ、失念していた事柄に気がついた。

    「………そういえば、脚の装備を全く考えていなかったな…です。」
    「…あ〜……」

    リカオは収納の更に奥へと手を伸ばす。

    「見つかんなくても別に良いぜ。コンビニで下着は買えてるし、別に困りはしねえだろ」
    「…お前は良くても俺が困っ、あ、いや…なんでもない。」
    「……ふ、…なに想像してんだよ」
    「も、黙秘する…です。」

    ヤスは半笑いのままで、すけべ とリカオを詰った。

    「ま、あんたが困るんなら探してもらうしかねえな」
    「あぁ。だから今探して……お、水着が出てきたぞ。新品ではないが…。」
    「おぉ、じゃあそれ借りていいか? 俺の為に、色々ありがとな」
    「構わない。俺がやりたくてやっているだけだ…です。…ん?」

    リカオがぴこっと頭上の耳を傾けて聞こえたのは、湯張り完了を知らせる音声通知だった。

    「…丁度風呂が沸いたな。よく温まってくるといい」
    「ん、悪いな。…あ、石鹸とか適当に使って平気か?」
    「問題ない。俺は書類を片付けているから、上がったら声をかけてくれ…です。」
    「おう、分かった。じゃ、行ってくる」


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