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    きょう

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    きょう

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    バス保。付き合っていない二人。卒業式前の会話です。元ネタとタイトルはマ◎みてです。

    #カラ一
    chineseAllspice

    いとしきとしつき卒業式を間近に控えた校舎はがらんとしていた。夕日が誰もいない廊下を照らす。下校の時間だというのも閑散としている理由だろう。
    保健室への引き戸をガラガラとあけ、中に入る。
    三年生は自由登校の期間となって、生徒たちは思い思いに卒業までの僅かな時間を過ごしている。
    保健室に寄りついていた生徒もそれは同じようで、毎日のように見ていた姿は週に何度かに落ち着いていた。

    (こうやって、卒業していくんだよな)

    思い出す。まだあどけなさの残る顔だった。それが精悍な青年へとなっていった。ぐんと背も伸びた。今では同じくらいの背丈になって、力もそう大差ない。
    カラカラと窓を開ける。換気をしましょうと貼ったガラス窓のポスターの通りに、少しだけ風が通るようにあけておく。さすがに全開にするには寒すぎる。
    風にのって、どこからか卒業式に歌う合唱歌が聞こえた。数人の女生徒がふざけ半分に笑いながら歌っているのだ。

    「思えばいととし、か」

    もう三年。早いものだ。

    「大胆だな、先生」

    後ろから声がした。見ると松野が後ろに立っていた。音もなく忍び寄ったのか。心臓に悪い。

    「松野…!?おまえ、なんでこんなとこに。今日三年生は来なくていい日だろ」
    「先生に会いに来たに決まってるじゃないか」
    「ハイハイ」

    信じてないな、と松野がムッとした声を出した。慌てて窓をピシャリと閉める。誰かに聞かれては困るようなセリフを、人目を憚らずポンポンと吐くものだから、こっちはヒヤリとして仕方がない。
    幸いにも周囲は生暖かい目で見てはくれているが、事情を知らない人間が通りかかったらどうするというんだ。
    ……まあ、もうこんなに慌てる必要もないか。
    松野はあと数日で卒業する。
    入学して一年目の夏、所属するバスケット部で怪我をして運び込まれたあの日から、松野はなにかと保健室へ来るようになった。最初は良いサボり場所程度にしか思っていなかったと思う。
    そこにいつからか、好意を匂わせるようなことを仄めかすようになっていた。
    最初こそ戸惑いはした。
    しかし、ここで狼狽えては生徒にナメられる。すぐにハイハイ、と冗談として流せるようになった。
    そんな関係を続けて――、もう、終わる日が来る。

    「そういえば、さっきの大胆って何」
    「……ン?ああ。だって先生、好きだって言うから」
    「………………は?言ってないけど」
    「言ってた!思えばいととし、って。あれ、愛しいってことだろ」
    「違う。あれは、『いと疾し』。思い起こせば早かったなぁってコト」
    「なあんだ。そうなのか。思い起こせば愛しかった、って中々いい歌詞だと思ったんだが」
    「……詩人だねえ」

    思えば愛しかった、か。たしかに思えば松野と過ごした年月はおれにとって早く、そして愛しいものだった。
    自覚していたところで、それを伝える気はないのだけれど。
    好意を仄めかされた。仄めかすどころか直球で「好きだ」と言われたこともあった。
    教師として、年上として、真に受けるわけにはいかなかった。
    多感な年頃の生徒が年上の教師に惹かれるのは決して珍しいことじゃない。
    厄介だったのが、おれも満更じゃないと思ってしまったことだった。満更どころか、好きだった。
    「おれもだよ」。そう言えたらどれだけ楽だったろう。
    しかし、松野が卒業し、世界が広がれば若さゆえの過ちだったと気づくことだ。これで良かったんだと思う。

    「なあ先生」
    「ん?」
    「卒業したら……お別れになっちゃうな」
    「……そうだね」
    「そしたら、オレ……、ああ、いや、なんでもない。卒業式のあとに先生のところに行くから」
    「ああ、卒業アルバムに書く寄せ書きかなんか?写真は勘弁してくれよ」
    「うーん。そんなところだな。先生、楽しみにしていてくれ」
    「ハーイハイ」

    卒業式の日、おれは少し泣いてもいいだろうか。世話の焼ける生徒が卒業してくれたんです、と教師らしい理由をつけて、お前との別れを惜しんでいいだろうか。
    思えば愛しかった年月。いまこそ別れめ。いざ、さらば。







    「なーーカラ松ぅ。おまえ、アレほんとにやんの?」

    帰り際、おそ松と一緒になった。先生に会いに来たオレとは違い、進路のことで呼び出されていたんだと思う。

    「当たり前だろおそ松。そのために受験そっちのけでバイトして足りない分はお年玉貯金下ろしたんだから」
    「お前結局バスケのアレで大学行けたから良いけどさあ、それで受験失敗したら先生泣くぞ」
    「ノープロブレムだ。先生には嬉し泣きしかさせない」
    「ひゅ〜~っ、さすが。アバラ折れそう」

    ゲラゲラと下品におそ松が笑った。なんとでもいえば良い。高校生の安い時給じゃ、大したものは用意できなかった。先生にはコドモのオモチャに見えるかもしれない。だが、いつか働いてきちんとしたものを用意してみせる。それまでの言わば代用品だ。

    「卒業式、オレは先生にプロポーズするっ!」

    決意を固め、大声で叫ぶ。先生。素直じゃない先生。オレのことを好きなことを隠そうとして、バレバレな先生。
    オレは本気なんだからな。先生。
    ―――今こそ分かれ目。先生と生徒との関係に、いざさらば。

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