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    BbearoneY

    聡狂作品おきば

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    BbearoneY

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    九話まで読んで死んでた時に思いついた話だったんですが供養させてください……バックハグにうわーーー!!てなってたけど読み返してたらなんで服、服って一人で大暴れした記録。十話読んで更に苦しんでします、楽しいね……

    #聡狂
    sagacity

    聡狂【彼の服】例えば、色のついた派手な服。狂児がそれを着ていたら、聡実は彼を彼と認識できるだろうか。制服のように、いつも似たようなスーツ姿。聡実は狂児のその姿しか知らない。狂児という男を聡実はなにをもってして、彼だと認識しているのか。
    そして、これはあくまで想像でしかないが、聡実がどんな普段とかけ離れた服装をして髪型を変えて歩いていても、狂児は難なく聡実を見つけ出すだろう。東京のど真ん中、スムーズに行き交うことも難しい人混みの中であっても、もしかしたら遠い異国の地でも、どこへ行くと告げなくても、そんな狂気ともとれるものを、彼から感じ取るのだ。

    「愛ってなんやと思います」
    「はぁ」
    食べかけのカレーに突っ込んでいたスプーンをそのまま置いて、問われた男はしばらく顎に手を当て視線を天井に向けて考えにふける。
    「……うーん、えっちなことが絡むのが恋、絡まん場合もあるのが愛、とか」
    「そういうのいらん」
    「けっこう真面目に考えたんやで〜……ほな聡実くんはどない思ってんの」
    汗をかいたグラスを持ち上げ、中身をぐいと飲み干して狂児は言葉を促す。カラン、と鳴った氷の音を聞いて聡実は口を開いた。
    「与える喜びがあることが愛、やと思う」
    「なんか、えらい大人びた答えやな」
    再びカレーにとりかかる狂児の口元を見ながら、聡実はその口に消えゆくカレーの気持ちに思いを馳せた。カレーにはもちろん意思はない。が、食物として狂児へエネルギーを与える。それも、大きな定義で言えば愛だ。カレーは狂児に見返りを求めることはないし、食べている本人はカレーから愛を受け取っているなんて考えてもいないだろう。このカレーは多くの人の手でここまでやってきた。そうなると、関わったすべての人間の愛を今この瞬間、食べているということになる。
    「狂児は、僕に何か求めてるん」
    「え、なんやの突然」
    「何度もわざわざ大阪から会いにくるなんて、なんかを求めてるからとしか思われへん」
    「お仕事のついでですー……でもま、そう思うんも無理ないわな」
    ごちそうさま、と手を合わせて紙ナプキンで口元を拭い、狂児は聡実に向き直った。けして交わらない二人が交わってしまってから、まだほんの少しの時間しか経っていない、というのはあくまで狂児の認識でしかない。人間、三十も過ぎれば瞬きする間に時間が過ぎていく。その中で偶然出会った天使は雨の中でもピカピカに光っていて、強く強く人生の中に刻み込まれてしまった。手放さねばと思いつつも、引いても踏み込んでくる彼に流されるまま、さてどうしようかと持て余していたのも事実だ。そこを見透かされて苦笑いを浮かべた。聡いコドモ、なところは変わらず成長しているらしい。
    「どうしてほしい」
    「うっわ嫌やわ……僕がどう言おうが、どうせあんたの言葉は決まってるくせに、それでも先に言わせようとすんのなんなん」
    「聡実くんが、俺の全部が知りたいとか、ほしいとか、そこまで考えとるとは思えへんのやもん」
    保険だ。大人は卑怯であり、そしてどこまでなら自分が傷付かずに言いたいことが言えるのかを知っている。こんな商売をしていて傷付くという感情が麻痺していても、好きな相手に決定打をうたれるのはなるべく回避したい。狂児はへらりと笑ってあえてじっと聡実を見つめた。これも、身を守るために覚えた術の一つだ。
    「思っとる言うたら」
    「……えっ」
    「どないしますか」
    オムライスの残りひとくちを口に放り込んで、聡実はまっすぐに狂児を見返した。瞬きもしない二人の視線が、テーブルを挟んで交差する。先に視線を外したのは聡実だった。場数を踏んでいる男の視線の圧に耐えられず、そっぽを向いて肘をつく。
    「狂児は」
    「うん」
    「……狂児は、いつも僕を見つけるけど、僕は狂児が今と変わってしまったら、たぶん見つけられへん」
    「ほなマーキングでもしとくか?」
    「そういうとこや……やから、どうしたいんですかて聞いてんのに」
    横目でちらりと様子を伺うと、狂児は相変わらずじっと聡実を見つめていてその表情からは何も読み取れない。のらりくらりと交わされて、なのにふとした言葉で、行動で、聡実の心をがんじがらめに縛るのだ。どうしたいのか聡実自身もよく分からないからこそ、その確認を狂児の口から聞きたいのに、それすらさせてもらえないのか。苛立ちから、だん、と、テーブルを叩いて聡実は立ち上がった。
    「もう会いません」
    「嫌われてしもたなぁ」
    「二度と見つけんといて」
    「……それは難しいわ」
    ぽつりと返された言葉に、思わず振り向いてしまう。狂児は、ソファの背もたれに腕を乗せて目を細め聡実を見上げていた。
    「聡実くんは、ずっと俺のピカピカの一番星やからな」
    「……なんですかそれ」
    「はいはい、まぁとりあえずこっちきて座り〜」
    ほら、と隣を叩いて狂児は促し、聡実が固まったまま動けずにいると立ち上がってやや強引にその腕を引いた。中学生のあのときのように、鞄を抱いて顔を伏せていると耳共で声がする。
    「聡実くんが、俺をいつでも見つけられるて思えるようになったら、答え、教えたる」
    「思えへんかったらどないすんの……」
    「思えるよ、聡実くんやから」
    そんな会話をして、結局先に店を出ることも出来ず、結局狂児に奢られて見送られ解散した。


    (はぁ!?)
    焼肉行こう〜と現れた男は、想像もしなかった装いだったのだ。見慣れない黒のトレーナーに少し大きめのカジュアルなジャケット。ファッションに疎い聡実でも、その格好が狂児によく似合っていることはわかった。いつもの雰囲気と全く違う姿に一瞬動揺してしまうが、狂児はそんな聡実には構わずいつもどおりに振る舞っている。言いたいことが沢山ありすぎて、しかしとりあえず一番の懸念材料について報告し相談が出来たところで、もう一度聡実は目の前の狂児を眺める。
    (……見つけられんと思ってたけど)
    『いつでも見つけられるて思えるようになったら』
    「……これはそれに入るんか?」
    「なにー?」
    「なんでもないです」
    肉が焼けている。こうやって会って、話しをして食事をして、……そして?
    あの頃のようにカラオケに行くことも減った。そもそも、こちらに来て狂児とカラオケにいったのは再会したあの日限りだ。聡実はもう歌は歌っていないし、狂児も昔のような切羽詰まった風ではなかった、もう聡実が聞かなくても大丈夫なのだろう。あの言葉はきっと、出会った時を模しただけだ。会わないほうがいいという思考に被さるように、本当にそれでいいのかと叫ぶ声が聞こえる。
    「なんで、スーツやないんですか」
    「へ? あー……いや、スーツやったんよ。 だたまあ、ちょっと汚れてな」
    「はあ」
    「聡実くんに会うのに変な恰好できんやろって、え、似合わん?」
    「そういうの、僕にはわからん」
    わからない。なにもわからないことが腹立たしい。聡実は狂児と会う時いつも何かに怒っている。ほんの少しの苛立ちを抱えて、それでも会ってしまうのだ。何か理由を作って。自分のなかでは筋が通っているつもりでも、狂児がなにかをいうとそれが揺らぐ気がして、それでまた同じことの繰り返しで、なのにどうして自分は狂児を見つけたいと思ってしまうのだろう。目線を伏せ、網の上を睨みながら思い切り白米を頬張りその葛藤を打ち消すように噛みしめていると、その肉がトングで掴まれ宙に浮かぶ。つられて視線を上げた先には見慣れた、不思議な関係の男。
    「なあ、見つけられたやん、ちゃんと」
    煙の向こう、狂児がニカリ、と笑っていた。
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