迷彩 ぼんやりと、そこに立っていた。
ふと視線をおろせば体を包む迷彩柄の服、重たいジャケット…だが、厳ついブーツがどこか薄ぼんやりして見えない。道行く人々は浴衣姿やラフな格好で手には鮮やかな水風船や、美しい細工の飴やら…。
ここは祭りの会場のようだ、なら何故こんな異質な姿をした人間がポツンと立っているのに誰一人としてこちらを見ない…?
『珍しいな、はじめて?』
どこからか声がしたが、見回しそうともその姿を目視することができない。
『…まぁ、たまいるんだよな。楽しめよ』
何を、言っている…
声を出そうにも、喉につかえて何もでてこなかった。体にぶつかってきたはずの子どもが"すり抜けた"のを見てしまったからだ。
ーーーああ、俺は………
『鉄漿!』
ハッとして、声の方を見た。
日本人離れした浅黒い肌、青の色がさされている銀の髪、黒字に一線の流水紋が描かれた浴衣をまとった中年の男がこちらを見ている。
誰だ………?
身に覚えがない、
だが、
だがいま口にしたその[名前]は………
『こっちです師匠!早く早く!』
後ろから声がした。
揃いの柄の甚平に襟巻きをした少年が、俺を横切り正面の男の手を握った。
『お神輿に白膠木さんと碧棺さんが乗ってラップバトルしてるそうなんです!』
『なんだそりゃあ。』
うんざりとした表情の男の手をしっかりつかんで急かす少年には、どこか覚えがあった。
『盧笙先生や、四十物さんもいるみたいですよ!一郎さんも屋台のお手伝いしてるっていうし、皆さんがいるお祭り楽しいですね!』
『トラブルの予感しかしねぇな…。まったくお前の思い付きにはろくな事が…』
『師匠じゃがバターやさんがあります』
『聞けやクソガキ~ああもう、しょうがねぇ』
いくらでも振り払えるだろうその手に、男は引きずられていく…。前しか見ていない少年の目にはその男の表情は見えてないだろう、それがとても勿体無いように思えた…。
「………は………ろ………」
『はい?』
『あ?』
『……いま呼びました?』
『呼ぶわけねぇだろ、クソガキ。ビールも買うぞビール』
『はい!じゃがバター買いましょう!』
ーー良い、名前だろ……?