幽霊の噂ただの肝試しになるはずだった。
今は使われていない旧エーデルローズ寮。その地下、練習用のリンクには幽霊がいる。その噂を確かめようと僕達は好奇心を抱え、草木が自由に茂る庭を抜け年を経て傷んだ建物に忍び込んだのだった。
地下練習場の古ぼけた扉を開け、先頭を切って僕はリンクの暗闇に向けて懐中電灯のぼやけた光を向けた。背後で誰かが声を上げる。
光の輪の中に、確かに足があったのだ、それも4本。つまり2人。
腰を抜かして動けない自分を、無情にも置き去って足音が背後に遠ざかっていく。
ぼやけた光の中でぼやけた足の持ち主達はリンクを滑りはじめた。まるで寄り添い合うように滑る姿から目が離せない。
長髪の青年が短髪の少年の手を引いて跳ぶ。そして次は短髪の少年が長髪の青年の手を引く。それは僕の目を奪うほどのきらめきを放って。ぼやけてはっきりとは分からないはずなのに、心からそれを楽しんでいるのが伝わってくる。何よりもそれが直接心に触れられているようで気持ちが悪かった。
不意に足が光の輪の外に消えて、そしてそれは二度と戻ってはこなかった。
丸い光がまたたいて、慌てて僕はそこを逃げ出した。
目の裏に焼きついたのは夢のような光景だった。けれど決してそれを目指してはいけない。僕は泣くのを我慢しながら、それだけを思ってただ走った。