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    ex_lolipop

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    ex_lolipop

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    この夢が終わるまでは

    シャイン×シン
    失踪軸誕生日のはなし

    (壊れかけたシャインを連れて失踪したシンちゃん、なんとか毎日生きています軸)

    これと同じ世界線
    https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=18349496

    この夢が終わるまでは夜の帳が下りてからもう随分と時間が経って、静寂に包まれた道をシンは歩いていた。ポツポツと灯る街灯や暖かそうな窓灯りが照らす道を、無心に歩いていた。カンカンと音がする漫画にでも出てきそうな階段を昇り、鍵を開け立て付けの悪いドアを開く。

    「……、」

    ただいま、という声の代わりに疲労を詰め込んだため息が出た。
    玄関に脱ぎ散らかした靴も気にせずシンはキッチンが備え付けられた短い廊下を通り、倒れ込むようにして部屋のドアを開けた。冷えた指先で辛うじて電灯のスイッチを入れると見慣れた簡素な部屋が、やけに白っぽい光の中に浮かび上がる。持っていた荷物をその辺に放ると、少しだけ肩の荷が降りたような気がして、シンはホッと体の力を抜いてその場に座り込んだ。意識していなかった疲れがどっと押し寄せてきて、うつむいたシンの顔から元々希薄だった感情を奪っていったようだった。
    ふらふらになって帰ってきた狭い部屋。全てから逃げてたどり着いた小さな居場所。それでも今では唯一の落ち着ける場所だ。明日のこともおぼつかない日々に、よれた体を似合いの擦り切れた畳の上にそうっと横たえる。
    今日もなんとかやりすごすことができた。
    そして、胎児のように丸まって細い息を吐き出す。

    「……だいじょうぶ」

    きっと明日もなんとかなる。なんの根拠もない言葉を自分に言い聞かせながら以前より硬くなった指先を握り込んだ。もう少し、もう少し頑張れば今よりはよほど安定した生活が手に入る。そのためなら、どれだけだって体も心も酷使することができた。
    しかし、それと現在感じている疲れはまた別の話だ。
    シンは降りてきたまぶたに抵抗せず、全身の力をゆっくりと抜いていく。もうこのまま眠ってしまおうか。布団すらひかれていなくとも、そんなことはもうどうでもいい気がしていた。

    「ねぇ、体を痛めるよ」

    その台詞には心配の色など微塵もない。あるのはただの事実と平坦な声音だけだった。それでも、『めずらしいなぁ』とシンは落ちかけていた意識を引き上げる。
    それに応えて、滲むように、夢か何かのように、シャインが向かい合うように現れてシンを現実に引き戻す。同じように畳の上に身を投げ出して、シャインはうろんげにシンを見ている。ここ数日見ていなかったその姿を目の前にして、自然、シンは笑顔になった。

    「しゃいんさん」

    力無い舌足らずな言葉、ゆるゆる伸ばした手はシャインの頬を大切そうに撫でる。
    その腕を取って、シャインがずりずりとシンに近づいてきた。かと思えば、寝転んだまま、全身を使って抱きしめられる。シンは一瞬だけ全身を硬直させて、けれど反射のようなそれを意志の力で跳ね除け、すぐにシャインに全てを明け渡す。シャインはそれについて今はもう何も言わないので、シンはいつも通りに安心して身を任せる事ができた。体に遠慮なく乗る腕や足の重みがずっしりとして愛おしい。怠惰な動きで足をからめられて、冷えた部分が熱を取り戻していく。

    「また何も食べないつもり?」
    「さあ、どうでしょう」

    眠気と疲労は酩酊感すら伴って、シンの張り詰めていた理性的な部分を簡単に溶かしてしまっていた。ふわふわとしたシンの答えに、シャインがどうしようもないなと言わんばかりにため息をつく。そして、同じ類の呆れと諦めの混じった声で言う。

    「誕生日、おめでとう」

    予想もしていなかった台詞に、それと見合うだけの驚愕を込めてゆっくりと目を見開きつつ、シンはシャインを見た。脈絡がなさすぎたし、何を言われたのか単純に理解できなかったのだ。なにせ、「おめでとう」というには程遠いどうでも良さそうな声だったのだし。
    空っぽになった頭の中に最初に思い浮かんだのは『そういえば、そうだったかもしれない』というなんとも間抜けな感想だった。
    こんな生活を始めて何度かその日は巡ってきたが、そんなものに割く時間も余裕もなく日々をやり過ごしてきたシンである。もちろんシャインがこんなことを言うのは初めてで、シンはポカンと間抜けな顔を晒してしまった。

    「……え、あ」

    何を言えばいいのか咄嗟に言葉が出てこなかった。カレンダーも、時計さえもかかっていない薄汚れた壁に囲まれた部屋で現状を維持しようと必死だったシンにとって、それは忘れてしまっても構わない些事だった。
    以前はきっとそうではなかったのに。少しだけそれが悲しいと思った。

    「感想とかないの?」

    身長は伸びたのに歳の割に肉付きの薄いシンの体を、シャインはさらに抱え込む。

    「その、忘れてた…し、びっくりして」

    置き去りにしてきた仲間達のことを思い出して表情を緩めたのが気に入らなかったのか、シャインの拘束が強まり、ぎゅうぎゅうと締め付けられシンはこっそりと笑う。あの薄ら笑いより、素直に不機嫌さをぶつけてくるシャインの方がすきだ。
    知ってか知らずか、シャインは気だるそうに、シンの頬に指を滑らせ軽くキスを贈る。深い意味はないと分かっていても、甘えられているのか甘やかされているのか分からないような曖昧な触れ合いに、シンはくすぐったくて嬉しくて、目を細める。いつまでだってこうしていたいと思わされてしまうのだから、始末に負えない。

    「もう君には僕しかいないからね」

    特別に祝ってあげるよ。
    淡々と事実のみを告げるそれ以上の意味を持たない残酷な言葉。それにそぐわず、シャインの大きな手が優しささえ感じさせる柔らかさでシンの頭を撫でる。
    真実、シンの中にいくらか残っていた様々なものへの執着も今ではほとんど風化してしまった。大切なものでも長く野ざらしにしてしまえば、そうなるのも当然で。大切なものなど、もうたったひとつだけだ。本能的にでも、シャインはそれを感じ取っているのだろうか。上目遣いに整った顔を見上げても、つんとすました顔があるだけで、何を考えているのかまでをシンは読み取ることができない。
    きっと、シャインの何かが変わったわけではない。彼はもう進むことも戻ることもできないのだから。気まぐれと偶然が今日という日に重なっただけだ。
    それだけで、十分だった。
    シンはしがみつくようにシャインの背に腕を回す。

    「ありがと、ございます」

    肩に顔を埋め、額を擦り付けているせいで、掠れた声はくぐもっている。シャインが何を思ってこんな気紛れを起こしたのか、シンには想像もつかない。ただ、慰めるように擦り寄せられた自分を包み込む体だけが真実だった。

    「……ふふ、」

    思わず声が出ていた。

    「なに?嬉しくないわけ?」

    不機嫌さを隠さずさらに低くなった声がくっついた体を通して響く。このよろこびもそうやって伝わればいいのに、と夢見るようにシンは笑う。
    自分が生まれてから、ずっとその中に押し込められてきたという彼にとって今日はどういう意味を持つのだろう。そこまで複雑な思考を放棄したのか、そもそも失ってしまったのか。シンにはもう関係のないことだった。

    「いえ、嬉しいですよ、もちろん!だってこれって…サプライズ、ですよね」

    そうだ、もう関係無い。
    シャインの意志も何もかもを無視をして、一方通行の思いを抱えたまま身勝手にも自分のためだけに彼の手を取って引き摺り下ろしたのはシン自身だからだ。シャインがシンにずっとそうしてきたように。
    彼にとって生きる指針であった、生きる目的そのものだったものを取り上げたのは誰であろう自分なのだ。そこに罪悪感と昏いよろこびを持って、今ここにいる。誰かを悲しませ、誰から指を刺され愚かだと非難されようと、今この瞬間、シンにとって価値があるものだけしかここにはない。シンが選んだものが目の前にあるのだ。

    「勘違いしないでほしいな、僕はあくまで君を憐れんで」
    「いいんです、もうなんでも…いいんですよ」

    わざとらしく無粋な言葉を遮って、宥めるようにシャインに強く抱きつく。憐れむだなんて、表面的な意味しか知らないくせに、わざわざそんな捻くれた言葉を選ぶところがシャインらしいとおかしくて、くすくすと小さく笑ってしまう。

    「……」

    何を言っても無駄だとでも思ったのか、シャインはシンの髪に鼻先を埋めて嘆息したようだった。シャインは簡単にあきらめて、何もかもを手放すようになってしまった。だからこそ、自分がその手を握っていなければ。シンはそうっと逃げられないように、シャインの手をとって弱々しく握りしめる。それが限界だった。

    「ぼく、生まれてきて良かった」

    しあわせだ、とても。なんてしあわせな誕生日なんだろう。頬がほてって口元が緩む。大切な人にに抱きしめられて、誕生日を祝ってもらう、そんなよくあることが今のシンにとってどれだけ嬉しいか。

    「だから、ありがとうございます」

    自分でも呆れるような甘えた声が出て、シンは絡み合っている足をもぞもぞと動かしたが照れ隠しにすらなっていなかった。

    「……そう、よかったね」
    「はい!」

    ケーキもない、歌もない、暖かな灯もない、祝福も何もない誕生日。薄暗く温度のない部屋の中、気まぐれな一言だけがなによりも大切だった。
    壊れかけの二人は終わりが来るその時もきっとこうして抱き合って慰め合っているのだろう。あとは何処へとも知れず、どこまでも沈んでいくだけ。海などよりよほど暗くて深いどこかへと、ふたりきりで。
    他には何もいらない。
    かたい床の上にふたり倒れ込んで、沈んでいく夢を見る。
    いつか、この夢が終わることを知っている。だから、どうか、それまでは。
    生まれて初めてすきなひとに誕生日を祝ってもらえた。
    その事実を噛み締める。
    シンは穏やかに微笑んで、今度こそ目を閉じた。
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    😭👏👏🙏🍰💞
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    Replies from the creator

    ex_lolipop

    MEMO臨帝、絶対何回かは別れて元さやに戻ってを繰り返すよね
    その度に周りに甚大な被害が及ぶので二人の仲を知ってる人たちは毎回迷惑を被る感じ
    最終的には熟年夫婦みたいになって、本人達より周りがホッとする迷惑な二人
    臨也も帝人くんも分かりやすすぎる感じで荒れるし、なんやかんや深刻な時はお互いのことしか目に入ってないので、ガチで周りへの被害がすごくて「またか」とか軽々しく放っておけないのだ
    臨帝がガチ喧嘩、または別れた時の反応についてセルティ『なぁ、帝人、私はもうお前がこれ以上傷つくところを見たくないんだ。もう奴を見限ってしまってもいいんだぞ?それが難しいのは分かるが、帝人には笑っていて欲しいんだ』
    お母さん目線的な、悲しそうな感じで諭してくるセルティに苦笑いで「すみません、心配かけちゃって」と返す帝人くん。その後セルティは食事とかに誘ってくれて元気づけようとしてくれる。新羅が「え!またなのかい?臨也の手綱を握れるのなんて帝人くんだけなんだよ、どうか私とセルティのため、ひいては世界平和のためにも元鞘に戻ってくれないか?あいつの気味の悪い泣き言はもう勘弁願いたいんだよねぇ」と笑顔で言ってセルティから鳩尾に一発もらう。セルティが一番漢前。
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