「なあ、あいつ前からあんなだったか?」
ふいに問いかけられてコヨーテは首をひねった。
疑問形な上に主語が抜け落ちているため、話の先が全く見えない。
けれど視線の先を追えばすぐに話は飲み込めた。
(…あれか)
ルースターがフェニックスたちと飲んでいる。普段通りに穏やかで楽しそうな空気を醸し出している。
「あんなって?」
「こう…笑い方とか空気感?みたいなやつだよ」
思わず笑いそうになったが、隣に座る友人は大真面目なのだとわかっているので必死で噛み殺す。
(そりゃルースターの気を引きたくてロクな態度取ってなかったからな、お前)
極秘任務を経て、通常の他人に向けていたものと同じ表情を向けられるようになっただけの話で、本来であれば戸惑うようなことではない。
ないのだが、ハングマンは明らかに戸惑っている。
「ルースターは前からああだったぞ」
「…そんなわけ」
(あるんだよ)
笑いを噛み殺すのに失敗しそうになり、コヨーテは慌てて目の前のグラスの中味を煽った。
「らしくないのはお前の方だ」
空になったグラスを手のひらで転がす。
(本当にらしくない)
優秀で絶好調だと公言して憚らないハングマンがルースターの表情や態度が変化したからと戸惑うなんて。
「恋の力って偉大だな」
そう言ってやれば怪訝そうな顔をされたが、自分で気づいてもらわなければ何も解決しないだろう。
まだ自覚のない友人の思いが成就することをコヨーテはそっと祈った。