浮気を疑われるルスの話「これは浮気だと思うんだ」
真剣な面持ちでそう告げられれば釣られるように居住まいを正してしまうのは仕方のないことなのかもしれない。たとえ全く思い当たる点がなかったとしてもだ。
「浮気…」
「そう、これは浮気」
「誰と誰の?」
「お前と」
「俺と…?」
「こいつだ」
迷いなく言い切ったハングマンが浮気相手だと掴みあげたのは、ルースターが抱えていたクワッカワラビーの特大ぬいぐるみである。
ルースターが部隊で行われた親睦会で当てた景品である。
ふわふわとして手触りがよく、大きさも抱えるのにちょうどよく、そしてどことなく恋人を思わせる顔つきに親近感がわいてしまい、ルースターはそのぬいぐるみをベッドの傍らに置いていた。共に過ごす時間が増えれば自然と愛着がわくものである。
それを久しぶりにやってきたハングマンは本来自分が寝る時の定位置に鎮座するそれを見るなり、無言で壁に向かって投げたのだ。
当然ルースターは慌ててぬいぐるみの救出に向かった。抱きかかえてベッドに戻りながら当然苦情だって言う。
「なにすんだよ! かわいそうだろ!」
それが気に入らなかったのかハングマンは真剣な面持ちで言葉を発する。そして話は冒頭へと戻る。
「この辺とかお前に似ててかわいいだろ」
やんわりとぬいぐるみを掴みあげたハングマンの手からぬいぐるみを取り返すとルースターは上がった口角あたりを撫でてほらと見せてみるがハングマンの表情は変わらない。
「何で俺以外の男と寝てんだよ」
「……こいつ男だったのか?」
ルースターはぬいぐるみをひっくり返してあちこち見てみるが性別を示すようなものは何も見つからなかった。
「大佐については仕方なく許したが、それ以外は許さねえぞ」
大佐――マーヴェリックのハンガーにはベッドはひとつしかない。ふたりで寝られないほどではないのでルースターは泊りがけで遊びに行くたびにマーヴェリックと同じベッドで眠る。それ以外の選択肢は身体がはみ出るソファーか床に寝袋しか存在しない。町まで戻る選択肢もあるにはあるが効率が悪い。
ルースターはマーベリックと眠ると子供の頃から昔を思い起こして懐かしさを感じるのだ。
ルースターにとってのマーベリックは父親代わりとかそういう括りではなく『マーヴェリック』という枠なのだと説明すればハングマンはしぶしぶと言った風に大佐は例外にしてやると言ったのだ。
「……こいつ男?」
ルースターはタグを引っ張ってよく見てみるがやはり性別がわかるようなことは書いていない。
「前言撤回する。俺以外と同じベッドで寝るな」
このままでは話が進まないと気づいたハングマンが発言内容を訂正した。
「人間じゃなくても?」
「人間じゃなくても、だ」
「こんなにお前と似てるのに?」
「…………」
こいつお前と同じシャンプーで洗ってるから同じ匂いするんだよなと続けられてハングマンは言葉に詰まった。
「とりあえずもう寝るぞ」
明日はふたりで遠出する予定で出発は朝が早い。
ルースターをベッドに転がして自分もその隣に横になる。
「おい」
「なんだよ」
「ぬいぐるみが真ん中っておかしいだろ」
ルースターとの間に横たわるぬいぐるみを再び掴みあげようとすればそれより早くルースターは抱え込んで寝返りを打つ。
「乱暴するな」
ハングマンには背中を見せる形でぬいぐるみを抱きかかえる。
「とりあえずそれを離せ。そしてこっち向け」
渋々と言った様子でルースターは再度向きを変えた。
「心配するな、お前だってちゃんとかわいい」
「あ?」
ぽんぽんとハングマンの頭を撫でてルースターは笑う。
「おやすみ」
そう言ってブランケットを口元まで引き上げ目を閉じるルースターを見てハングマンはため息をついた。
「ああ、くそっ」
ハングマンはもぞもぞと動くとルースターの腕の中へ潜り込む。
「狭いんだけど」
「我慢しろよ」
ルースターが腕の中の温もりを抱きしめると、それに答えるようにハングマンもぎゅっと力を込めた。
「浮気すんじゃねーぞ」
そう呟いて眠りについたハングマンにルースターは小さく笑った。