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    Kurone34

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    #L社同名職員さん一堂に会する定期ワンライ
    メイドさん/自職員
    (大遅刻 1時間+30分)

    『雪解け私の涙を拭って』メイドさんは偽名である。と、数名は知っている。
    それでもそう呼ぶのはこの会社の規則だからだろう。
    いくら知っていたところで彼女が喜んで返事をするとは思わない。

    メイドさんは安全部署のチーフであり、管理人曰く第3回雇用職員に分類される。自分達が来るよりも先に、何人も職員がいたのではないか?と問えば、今管理しているのは君達だから。

    「な〜っとく出来ないわ!」

    と、同部署のオーロラが紙を撒き散らす。彼女は反省文を書いている。彼女が巻き込まれて、書く羽目になっている……のではなく、彼女自身が問題を起こし、メイドさんはその問題処理に当てられただけだ。一応同期とはいえ、チーフクラスの職員を連れ込もうとするなんて……全くとんだ生命知らずなのだろう。

    「オーロラ様、あなたの問題ですわ。」

    「私、フランちゃんの事、連れ込むまではしないわよ!!宇宙ちゃん達が好き勝手に言っただけでしょう!?」

    「情けない。私が情報部署全員に頭を下げ、セフィラにも謝罪をしたの見てないのですか?心に何を買えば、精神保護フィルムでも装備出来るのでしょうか?私には理解いたしかねます。」

    メイドさんは拾い集めた紙を再度机に置いて、書くように爪でコンコンと軽く叩き、項垂れていたオーロラをじっと見つめる。困った顔をするのかと思えば、見つめ返すように目の中心はブレず、彼女を貫くように見ていた。何ら迷うことはないと言わんばかりに。

    「フランちゃんは私のって思えば。」

    「……全く、早く書きなさい。」

    「メイドちゃん、酷いわ。私、真剣なのよ。」

    彼女が狂っているなんて常識的な事だろうと、見つめてから視線を逸らした。オーロラは反省文へとペンを進め、メイドさんは最終確認のチェックに目を通す。……安全チームは静かになったのだ。数日前までは、ムォイロンノとリンの後輩コンビが慌ただしくも、明るくしていた部署内も2人きりでは紙を擦るインクの音、紙をめくる指の音。オフィサー達の足音だけが響く。虚しいかと言われればそうでもなく、かと言って寂しくは感じている。

    「イザベルちゃんは〜、私のこと嫌いなのかしら?」

    「……何を唐突に。」

    突然話題に出ると思わぬ名前に思わず作業の手を止めて、顔を見た。その顔はしてやったりの顔で、効かないと分かりつつも、この悪戯っ子と睨みを効かせた。イザベルは2人が部署に入ったばかりの先輩であり、チーフも担当していた。『銀河の子』がかなりあの人を好いて困るぐらいには、安全チームの要だった。

    「オーロラ様が好かれてるか……分かるわけないですよ?イザベル様はお人形さんみたいに、感情が出ない方ですから。」

    「お人形さんなら、お人形さんらしく……って言いたいけど、強いから文句は言えないわ〜。泣き顔ぐらいみたいものだわ。」

    なんて失礼な会話をしているのだろう。否、オフィサーがエージェントの陰口をコソコソ言っているのを嫌でも聞いている。面と向かって言われた事さえある者もいる。その事を理解しているメイドさんは、ただ苦笑いするしかなかった。オーロラだって、笑顔を見たい故に先に涙が見たいと言っているのだと彼女は何とか理解しようと心の中に整理しておく、完全には理解はしないが。

    瞬きをするように、瞼を閉じると同時に一瞬ないはずの記憶がフラッシュバックした。メイドさんを見て、目を丸め悔しそうな苦しそうな顔をするあの人、彼女の手を掴んで必死に止めようとするあの子の劈く悲鳴。見覚えがあるような、握った事がないような斧をしっかり掴み、オフィサーを残虐する記憶。赤がお似合いだった。

    「イザベル様には泣いて欲しくないわ。胸が痛いもの。」

    「見たことあるのかしら、その口調だと。」

    「そうですね……秘密、としておきます……が、何となく、元チーフの泣き顔を見たくはないだけです。」

    あの時の自分は死んだのか、わかるはずがない。メイドさんはやっと資料を確認終え、気が付けばフラフラと一般通過しようとしたセフィラを掴み押しつける。オーロラも遅れて出来たようでセフィラへ提出を押し付けた。セフィラ宛ではあるが、そうするものかと。

    「……あ、愚妹。」
    「あら、愚弟。」

    部署から出て、あとは寮に戻るだけだとエレベーターに乗れば、反対側から幹細胞642が出てきた。後ろから宇宙様とフランク様が遅れてやってきて、今日もコントロールチームの皆様が乗ってくる。

    「メイド先輩、お疲れ様です。何度かそちらに協力要請を出してすいません。……怪我人が多く出ちゃって……。」

    と大きいものに囲まれて、ひよっこりとユリが申し訳なさそうにメイドさんに伝える。詳しく聞けば、1部の指示をユリとアカシアの2人がしたとの事だ。メインはデリラ、サブで眠いがサポートしていたとはいえ、そこそこの被害は出たらしい。死者はいつもと比べれば控えめとはいえ、怪我人の数は昨日よりは多かった。福祉チームも手が回らないからと協力を仰いでいたのをコントロールチームは知らないだろう。オーロラが中層部へ行くタイミングに手伝ってもらったのだから。
    適当にはぐらかしながら、褒めれば彼女は嬉しそうに幹細胞642を見て、褒められましたよ!と言った顔をする。好いているのだろう。と、メイドさんはどこか嬉しさを感じた。

    ***

    「イザベル様、そんな暗い場所に居ては皆様が驚きますわ。」

    「……メイドさん、メイさんか。ごめんなさい。」

    着替えを済ませ、あとは寝るだけ……と言ったタイミングで食堂に忘れ物をしたことに気がつき、渋々廊下に出ていた。ぼーっと明かりもつけずに、正面から歩いて来て、驚き声が出そうになったが、絞り出すように冷静を貫いた。イザベルの目は冷たい。だから、メイドさんはそれが苦手だ。冷たいのは苦手だから寒い場所も苦手。カーディガンを羽織っても寒く、防具とはいえ、鮮血も羽織っていた。

    「眠れない、のですか?」

    「いえ、忘れ物をしてしまい……恥ずかしながらそれを取りに。」

    「メイさんは、朝から食堂を利用しないから……そっか。」

    暗いけど、廊下の明かりを付ければ怒られるのを知っている。だから、ペンライトを……と、胸から出すよりも先に、灯りができる。

    「……ランプ、ですか?」

    「うん。……寒いの苦手ですよね、大丈夫ですか?」

    「……可能なら、少しお湯でも飲もうかと。」

    「何処の食堂ですか?一緒に行ったら、付いてきてください。」

    「嗚呼、場所はですね……」

    と、ランプの柔い灯火を頼りに食堂へ無事辿り着き、忘れ物を回収する。シュシュだ、いつもは髪につけている。今日は、途中乱れてしまい髪を結び直したのだ。

    「イザベル様、聞いても良いですか?」

    「……はい。」

    「私は、上手く笑えていますか?」

    メイドさんはじっとイザベルを見た、僅かに動揺したように瞳を揺らした。声は出てないもの、「え」と言った気がすると。
    イザベルの防具は『笑顔』という、飛鳥は『笑顔』の武器を持つ。然し、2人はどうしても感情に不器用だと周りは感じている。表情筋がほぼないイザベルに、あまり怒りという感情がないと思われる飛鳥。だからなのか、真相は不明だが、オフィサーからのヘイトが高い。下層部がまだ解放されてない、2人が中層部時代の頃、上層部のオフィサーが怖いと噂していた。古参のエージェントは怖いが、それでも特に怖いと。偽りの笑顔を貼り付けていると。

    ……そしたら、私はどうなるの?と。

    凛とした声が『真名』が聞こえ、身体が冷える。

    「……っ……」

    「……嗚呼、それが名前なんだな。」

    どこか柔らかい声がした。冷えた身体に、柔らかく温かい手を握ったのは、イザベル以外の人物だった。イザベルは背中を摩って食堂のソファに座らせている。ブランケットを用意している。

    「……おぅ……ぇん…………オーウェン様……?」

    「悪いな、記録チームで不本意ながら資料を見た。ウチに緑髪の職員なんか多すぎる……間違えならそれはそれでよかったが……それが本当の名前なんだな。」

    最古参であるオーウェンが居る。メイドさんは驚いて、でも、なんとか誤魔化そうとイザベルを見た。

    「イザベル様、質問にお答えください。」

    「……聞こえてなかったのですね?」

    「メイドさんは上手く笑えています、綺麗な表情です。」

    「メイさんって、はにかむように笑うよな。」

    古参の信頼している2人に頭を撫でられ、子供になった気分になり、照れくさく思わず俯く。それに心が暖まる気持ちになる。

    「……先輩、あれ、出来ましたか?僕の分、先に彼女に。」

    「イザベル、今回はジンジャーでもいいか?今回のオリジナルは、材料足りなくなったからまた買い足すから。」

    「はい。」

    メイドさんは、そんな2人の会話に何がですか?と首をあげれば、目の前にずいっとホットミルクが出る、少し紅茶の香りがする。なんですか?と言いたいが、飲めと2人が美味しいよと見ている。

    「………………っ……………………おいしぃ……」

    ちゃんと飲めばホットミルクティ……という訳ではないことが分かる。シナモンが入ってるのだろうか?優しくも何処がほろ苦い味が冷えていた体を温める。ストーブもいつの間にか付けており、ブランケットも相まって、段々眠たくなってきたメイドさんはこくりこくりと睡魔の海へと漕ぐ。

    「……ね、むぃ……」

    「「お休みなさい、良い夢を見てね」」

    2人が歌う子守唄は、幼少期に私が欲しかった唄で……この2人に呼ばれた名前を呼ばれることも今は怖くない。

    私の名前は、笑顔と笑い声の意味を持つ。
    私は感情をあまり出してはならないと言い聞かされてきた。

    雪解けに恋をした。

    私はオーウェン様が好きになった、頬のギフトが何よりの証明。
    伝えても伝えても届くはずがないのは分かっていた。オーウェン様はトラウマがある。私がオーウェン様を庇って重傷を負った時は、苦しそうな声を出して、眉を寄せて、「生きろ」と言ってきた。私は、哀しませたい訳じゃない。でも、深い暗い感情を。
















    ここには来ないで。
    ここには休むところがありません。
    けれど見てください。
    結局はあなたの視界の中にあったから実を結ぶことができました。
    これはあなたが望んだ姿ですか?
    あなたの涙が乾いたら、答えをください。

    私は幸せですか?
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