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    dear_twst

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    dear_twst

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    成り代わりリドルの、好きな人バシッと腕を掴まれる衝撃にびくりと体を強張らせるそちらを反射的に向く
    「さぁ、捕まえましたよ。イデア先輩」
    式典服のフードを被ったリドルローズハートが己の右腕を逃がさないとばかりに掴み不敵に笑っていた。喉から乾いた悲鳴が漏れ、血の気がすぅと引いた。
    (なんでこんなことになったのやら…)
    その後、顔色が良くないと言われ有無を言わさず中庭のベンチまで誘導され座らされ、飴を渡された。正直いならないし食べたくもなかったけど視線が怖すぎて大人しく口に入れゴロゴロ口の中で飴を転がしてる。
    (甘いけどしょっぱい、塩飴というやつですな、熱中症対策に使うやつ。まあ、ミネラルも摂れて体調を安定させることを考えれば悪くない選択肢で…)
    飴を口の中でゴロゴロ転がす。俯きつつもチラリ窺うようにと隣の存在に視線を向けると、時間を気にしてるらしいリドル氏がアンティークな懐中時計の針を見つめている。
    (うわー、リドル氏のイメージ通りなおシャンティなアイテム!懐中時計とか今時使ってる人いる?時代倒錯では?)
    などと懐中時計ひとつにつらつら思った批判的なことを心の中で述べて相手を罵倒する。面と向かって言えるわけないので心の中でだけど、あまりリドル氏に良い印象を持ってないし今の状況意味わからないし、全く精神が休まらないしイライラするしいつもと違うことしてるから身体も怠いしで-「あぁ、この懐中時計、気になりますか?」
    心を読まれたかのような問いにビクリッと身体を引き攣らさせた。一瞬で脳内がパニくる。
    「ヒィッ!?あ、え、あ、ぅ…そっ、そそそそそんな拙者は懐中時計を見た目だけのスキル皆無で機能性低すぎワロスwwwとか思ってないですし!?…ハッ!?…あ、いいいいまのはそそ、そのぉ…」
    言葉尻が弱くなり吃る。いらんことをいって絶対怒らせたやつ!どうすれば、どうしようリドル氏絶対ガチおこぷんぷんまるなやつ!!と身を強張らせ口の中の飴をガリリと噛み割った。ジュワリと口の中で溶ける。
    「そうですね、ボクも懐中時計のアンティークな外見は気に入ってますが機能性は低いと思ってます」
    思いがけない言葉にパチリと目を瞬く。予想に反して口調が穏やかで、こちらを肯定することを言われるなんて…リドル氏の方を見ると予想通りだと言わんばかりに小さく笑っていた。
    「これは寮生から快気祝いにもらったものです」
    「快気祝い?あ、そういえば…事故って入院してたんだっけ…」

    しばらくリドル氏の代わりにトレイクローバーが勤めていたことをぼんやり思い出す。他人事過ぎてトレイ氏面倒ごと押し付けられて災難だなと軽く同情した記憶があるような、ないような…

    「そうです。残念ながらボクだけ生き残ってしまいました」
    「ぇ、あ……ざんねん?…生き残った……?」
    「交通事故で…運転手だったお母様はそのまま帰らぬ人となったんです」
    リドル氏がパチリと懐中時計の蓋を閉じて、ポケットへと丁寧にしまう。少し悲しそうに、でも淡々した言い方と重い内容に戸惑った。
    「それはスマソ……お悔やみ申し上げます…」
    「ありがとうございます。残された側は気分の良いものではないですけどね」
    (…それはわかる)

    自身の体験を重ねて胸が酷く痛み、深く重い気分になる。残された側の苦痛は、言葉にならない、逃げ出せない地獄だ。リドル氏も助かってしまった、残された側だったのかと、ほのかに暗い親近感を抱いた。

    「さて、少しは良くなってきたみたいですね」
    「あ、まぁ…」
    「なら、式典に向かいましょう」
    席を立つと、促すかのように手を差し伸べられる。どうするべきか戸惑いつつも、リドル氏の表情は意外と穏やかでこちらをなるべく安心させるかのように口元に小さく笑みを浮かべてる。
    (対応が完璧に幼児に向けるものなんだが…)
    警戒しつつも、差し伸べられた手に恐る恐る手を重ねた。そのまま手を引かれ歩く。せっかく好意を拒否する、のもなんか失礼かと思ったので。別に一人で立てますし?思ったより手が小さいとか、笑ってれば可愛いのになどと思ってはない。けれど、

    「うぅ…ちょ、ちょっとまって…」
    「イデア先輩?」

    リドル氏を呼び止めつつ、繋いでいた手を離してズルズルとその場に座り込んだ。膝を抱えぐったりと三角座りをする。式典服のフードが落ちてきて視界の端で揺れる。やっぱり気持ち悪い。身体がだるい吐きっぽい。とにかく身体が重くて仕方ない。これはきっと精神的ストレス。休んでマシになったと思ったけど身体は悲鳴をあげてる。

    (精神的ストレスつら。やっぱ無理なんだよ、どうせ僕なんか……)

    「ちょうどいい」
    「…?えっ?!」

    手が伸びる気配がしたかと思いきや、パサリとフードを脱がされた。ら、今度は額に何かがぐるりとくっつく。ソレに視界が遮られたのは一瞬で、すぐに視野が開ける。と思ったら今度は上から丁寧にフードを被せられる。視界の端に何かが揺れてる。
    「な、なに…」
    「イデア先輩は人目が苦手でしょう?だから、ヴェールを作ってみました」
    「え?」
    「魔力で透け感の調整可能です」
    そういって魔法で手鏡をだして姿を見してくれた。目を白黒させたが、確かに紫色ヴェールだ。目元だけが隠れるタイプで学園長の仮面と同じぐらいの着丈か。確かにこれなら拙者の顔が相手から見えない分マシかもしれん。そう認識するとヴェールで覆われてるはずなのに、余裕が出た分視界が広くなった気がする。身体も軽くなった気がする。精神的ストレス半端ないな。拙者単純すぎんか。
    「炎の髪が気になるようでしたら髪も纏めてあげますよ。そうすれば髪も式典服のフードで隠れて見えないでしょう」
    「…いや、そこまでしなくても」
    「そうですか。で、立てそうですか?」
    「まだちょっと…いや、やっぱり立ちますです、ハイ…」
    当たり前のように手を差し伸べてきたリドル氏の手を掴み立つと、少しよろけた。情けない。もやしインキャの悲しみが深くて身に染みる。
    「よろしい。キチンと向き合おうと、努力するその姿勢は良いことだとボクは思いますよ」
    「ソウデスカ」
    めちゃくちゃ上から目線なんだが。一応褒めてるつもりなんだよな?リドル氏。視線が思ったより柔らかいしさっき見たく小さく微笑んでる。気遣い、ということをなんとなく察した。
    少し遠回りしてからいきましょうか。とまた手を取られ、手を引かれて歩きだした。こちらを気遣ってるのか先程よりゆっくりとした歩調で歩きやすい。しばらくゆるゆるとゆっくり歩いて夜風に当たると少し体調がよくなってきた。それは良いのだけど、同時に今の状況を把握してだんだんと気まずくなってくる。静かな夜にカツカツと式典用のヒールが鳴り響く。静かすぎて息遣いまで聞こえそうで、気付かれないようにそうっと息を潜める。

    (はやく手を解放してくれ!無言が辛い…!なにか…なにか、しゃべらなくては、)
    「夜風が気持ちいいですね」
    「へあ!?あ、ぁ、ぁ、そ、そ、そぅ…すね?」

    (草。急に話しかけないでくださらんか!!てか、なに『そぅす』って!?ソースじゃないんだから!)
    心の中でツッコミが激しい。隠キャ、普段対面で話さないから唐突な変化に弱っちぃ…自分の変人さだけ暴露して辛…少し上がった気分が落ち込み、無意識に視線が下を向いてしまう。が、リドル氏の方が背が低いんで普通に顔見られてる。

    「顔色もよくなってきましたし、そろそろ式典に向かいますよ」
    「ゔぅ…ぃ、ぃゃ…せ、拙者は…」
    「部屋に戻るとでも?」
    「だって、わざわざ生身で出てくる必要なくない?拙者がいなくてもなんとかなるでしょ」
    「この学園のことが何もわからない新入生に『貴方の寮長はこのiPadです』等と説明すると?得体の知れない存在を紹介するなんて、不信感を増長させるだけです。それにイデア先輩は普段、人との交流をしないならこの機会に一度で顔合わせを終えた方が効率が良いでは?」
    「正論過ぎてグゥの根も出ない」
    「それにアナタはイグニハイドの寮長だ。寮長の役目を承ったなら責務は果たすべきです」
    おっしゃる通りで。正論なんだが…
    「別になりたくてなったわけじゃないし」
    その物言いにカチンときて揚げ足取り、反射的に反発の言葉が滑り出た。ちなみに罪悪感はゼロ。事実しか言ってないですし?
    「そうだとしても、イデア先輩は寮長の部屋をいただいてるでしょう。寮長としての特権を享受して、仕事を放棄するのは怠慢というものです」
    (あー!あー!あー!聞きたくない!!)

    カッと頭に血が昇り一瞬で戦闘モード。次々とリドル氏に反発する、誹謗が爆ぜた。

    「うわぁ、でたよ、でたでた良い子ちゃんの優等生発言!真面目にしてれば全て自分の意見が通るとお思いで?正論がどの場面でもどの方面から見ても全て正しいとでも?あー、これだから世間知らずで苦労知らずのお坊ちゃんはwww日陰ものの拙者の気持ちなんてわかるわけないか、良いご身分ですな〜!拙者もリドル氏みたいな清き正しい優等生のような順風満帆な人生味わってみたかったわー、心底羨ましいですな〜?」
    「へぇ…?」
    「ヒィ!!」
    静かな口調なはずなのに五臓六腑が冷え混むような恐ろしい怒気を孕むその一言。

     表情がごっそり削げ落ちてるのに、細めた目だけがこちらを冷たく見下している。まさに圧倒的な王、上に立つ支配者の、女王様の威圧に慄き悲鳴を溢れる。どうやら地雷を踏んだらしい。拙者しんだわ。一瞬リドル氏が穏やかで可愛いとか思ったのは幻覚でした勘違いでしたすんませんでした!
    「ボクが羨ましい?それは随分と可笑しなことを仰いますね」
    リドル氏が酷く冷たくせせら笑う。恐ろしさにカタカタと身体が縮む。
    「イデア先輩の中のリドル・ローズハートはどうやら素敵な人物のようだ。ボクにとってリドル・ローズハートは贖罪の為に生きている存在でしかない。とてもおすすめはできませんね」
    「は?贖罪?…え、リドル氏なにいってんの」
    思いがけない単語に、また口が滑る。しまったと焦ったが、リドル氏も同じような顔をしてる。これは感情でつい言ってしまった系っぽい…?
    「…口が滑りました。ご放念ください」
    「いや、気になるんだが」
    「…あまり耳障りの良い話ではありませんよ、」
    「大丈夫、拙者地雷ないタイプなんで」
    「…まあ、良いでしょう」

    そういって、有無を言わさず手を引かれて歩き出す。今度はこちらを見もせず淡々と話す。どこか他人事のように。

    「僕の日常はルールに縛られたものです」

    幼少期から起床時間、緻密な勉強時間、魔法訓練、習い事、栄養たっぷりのおいしくない食事。自由のないルールで縛られた日々。ルールを破れば激しく叱責させる。

    「幼少期に砂糖たっぷりのイチゴタルトを食べてしまった時は5時間以上お母様に厳しく叱責されました」
    「それだけで?嘘でしょ…ヒステリック過ぎ」
    「その時からボクには自由時間がなくなって、友達という存在もいなくなりました」
    「いや、でも家ではそれでもさ、学校には親の監視の目がないわけで…」
    「お母様は教員資格も持っていましたし、所謂ホームスクーリングです」
    「…あ、」

    年に1回、「学力到達テスト」を受うけて、テストをパスすれば良いやつ。てことは、リドル氏は小さい頃からずっと母親と二人だけの世界だったわけで…

    「もうそれ教育虐待でしょ…拙者だったら絶対逃げ出してるし反撃してる。よく反発しなかったね」
    「『業』という言葉を知ってますか」
    「え?」
    急に話変えたなと思いつつ、聞いたことある単語に思考を巡らす。視線が泳ぐ。
    「あー、と。確か悪いことをしたら溜まるものってどこかの漫画に書いてあった気がする」
    「大体合ってますね、では『輪廻転生』はご存知ですか?」
    「魂は何度も生まれ変わってるってやつでしょ、え、急にどうした。怖」
    「何度生まれ変わったとしても、自分が積んでしまった悪い『業』が清まらない限り、目に見えない流れのもとにまた呪いのように同じような環境下に生かされるそうですよ。一時的に改善したとしてもね」
    「そんなわけ…」

    言いかけて、自分の身を振り返り言葉が詰まった。

    本当に?拙者は家から学園に入ったけど、結局部屋からでていない…家と学園で何が違うか……卒業したらどうせまた元に戻る。夜に、独りで昔のことに囚われて怖くて後悔と悲しさに押し潰されて寝れなくて。空いた時間はゲームや仮想世界にとことん集中して逃げて、目を背けて…

    精神的に病んで、寝ても疲れる。

    どうにもできなくて、結局自分を嫌いだと自分はダメなのだと否定するしかなくて、そんな自分も嫌いでジレンマで、堂々巡りで…

    そこまで考えついて、胸の底が冷え吐き気がした。

    「どこにいったとしても同じです」
    リドル氏が淡々と言う
    「それなら、過去世で犯した記憶のない『業』…もっとわかりやく言えば罪を償おうと潔く今の苦難(罰)を享受しようと思いました」

    曰く、今の罰を不満に思うことなく、受け入れることで悪い業というのは清算されるらしい。しかしいつまでも気付かないと、気付くまでずっとそのまま罰を与え続けられる。

    「罰を受けて全て受け入れてようやく全ての苦しみが終わる。囚人が刑期を終えたら自由になるようにね」
    「なんだそれ。そんなことしてて楽しい?ドMなのリドル氏」
    「まさか。ちゃんとお母様にはボクに対するら深い愛があったから耐えられました」
    「愛?どこが?聞いてる限りただの拷問なんですが。」
    「いいえ、魔法士として地位と名誉を築いたお母様にとっての最大の愛とは『魔法士として最高の教育を授けること』でした。…お母様にとってもボクが成長することだけが、生き甲斐みたいでした」
    「えぇ…本当にそれって愛?ただの自己顕示欲なのでは…?」
    子供の名誉は親の名誉と聞く。よくあるパターンでは…本当にそれってリドル氏に対する愛なのか甚だ疑問。拙者の両親の方がまだ愛がありますわ。
    「さぁ?どうでしょうね」
    リドル氏が自嘲するようにせせら嗤う。
    「どちらにせよ、ボクはお母様の理想のリドルローズハートにはなれませんでした」
    「ボクはお母様の愛を愛として認識しましたが、受け入れることはできませんでした」
    「ボクにとってお母様の愛は息苦しくて、なぜか悲しかった……」
    「…それは」

    リドル氏の辛そうな声に、言葉に悲痛な想いが滲みでて、かける言葉がみつからず胸が苦しくなった。

    「そんな時に、記憶のない過去に犯した罪を償う為の罰なのだと。
    『お母さまの愛のおかげでボクの罪が消える』
    そう、認識することでようやく受け止めることができました」
    「なるほどね、まぁ…なんとも感想の言いづらいことですが、あー、その…哀れな話で狂ってるね」
    きょとりとした顔をしたあとくすくすと笑った。笑った顔は可愛いんだよなぁ…
    「そうかもしれませんね。さて、イデア先輩?ボクの人生を歩んでみたいですか?」
    「遠慮します」
    「よろしい」

    先ほどまで重い空気を飛ばすかのように声のトーンが上がる。こちらを揶揄うような口調にホッとした。

    「ボクはイデア先輩の気持ちはわかりません」
    「ちゃんとイグニハイドの寮長に相応しい能力をお持ちなのに、人の視線を恐れて、ビクビク震えて…やましい事をしているわけではないのだから自信を持って堂々とすればいい」
    「だって…できないんだよぉ…」
    「できたじゃないですか。ボクとちゃんと話せてる。それにちゃんとその式典服を着て部屋から出てきてる」
    小さな子を褒めるように、当たり前のことを丁寧に褒めてくれてる。よくできましたと言わんばかりな態度に羞恥を感じ身体がこそばゆくなる。
    「今のはただ、慣れてないから体調を崩しただけです。人混みの中で、独りというのは心細く辛い。今はボクと一緒なので、大丈夫ですよ」
    「あー、気遣ってくださった感じなんですな。それはどーも大変ありがた迷惑!そんなことしちゃって何が目的なの?ただの優しさだとしたら怖いんですが!?目的があるってハッキリ言ってくれた方がまだ納得できるのだが…」

    リドル氏が肩を竦めた。かと思いきや、立ち止まりグイッと腕を引かれよろける。急な出来事で体勢がよろめき、前へと躓く。リドル氏が抱き止めてくれる。なんだと思う前に握っている方とは反対の手が、こちらへ向かう。

    何の脈絡もなく伸びてきた手に、そっと顔の向きを固定されて目が合う。
    指先が冷たい。

    突然の状況に、頭がついていかない。

    何故か、リドル氏が熱っぽくこちらの顔を覗き込んでいる。

    「イデア先輩が好きだからです」
    「はぁ!?」

    ……待ってくだされ。なんだって?

    ぱちり、と瞬く視界で、目の前のリドル氏は真っ直ぐに射抜いてくる。
    月明かりを反射して光る、滲むグレーの瞳。

    じわじわと投げかけられた言葉の意味を、頭が理解する……が、理解できないんだが!!??

    リドル氏が僕をなんだって?

    「今はボク特製のヴェールで隠されてますが、綺麗な金の瞳に整った顔立ち…」

    スルリと冷たい指が頬を慈しむように撫でる、視線はこちらを捉えたまま。吐息さえ感じる、非常に近い距離、にリドル氏がいて。
    そう、今はヴェールを着けてるから隠されてるはずなのに、

    「ボクより歳上なのに幼く純粋な、加護欲を唆る仕草…」

    その瞳に燈されてる熱が、やけにリアルで息が……

    「ッ!っり、りどる…氏…?」
    「押し倒して泣かせたら。さぞ、愉しいでしょうね?」

    愉しそうに蠱惑に笑い、とろりと甘くて柔らかい声でこちらを捕食しようとしている。

    「ふぁーーーーー!!」
    「ぷっ。あはははは!!」

    雰囲気に一瞬呑まれて、しかし賢い脳が状況を理解しそして発狂した。顔に添えられてた手が離れ、リドル氏が腹を抱えて笑い出した。もう片方の手は繋いだままであるが、楽しく楽しくて仕方がない、と言うような表情に揶揄われたのだと気付いた。そして、安心した。

    変な道開くところだった…
    なまじ相手の顔が可愛いだけにオッケーしそうになった自分が恐ろしや。拙者にそちらの趣味はない。

    「最高の反応をありがとうございます。迎えに来た甲斐がありますね。それだけ元気なら大丈夫でしょう」
    「う、まあ、緊張とかもう諸々吹っ飛んだけどさ…」
    「あぁ、髪がピンク色になってる?あと少し顔色がいいですね?照れてるんですか?」
    「べっ、べつにちがいますし!」
    「可愛いですね」
    「ヒョッ!?」

    クスクスとリドルが笑う。イデアは目を白黒させながら褒められ顔が真っ赤である。

    「ほら、もう鏡の間につきますよ」
    「ぶぁ、あ、ハイ」
    「もう大丈夫ですね」

    そういって、手が離れていった。なぜか、離れた温もりが名残惜しく感じた。が、即頭から振り払った。

    (なんか、すごいイベントが起きてた気がするんだが)

    手を繋いで、ヴェールを送られて、せっ、拙者のことを好きだと告白される?いや、最後のはただのジョークだと思いますが…

    「で、リドル氏はなんでこんなことを?」
    しつこいようだか気になってもやもやするので聞いてみた。きょとりとした後に綺麗に口角が上がる。

    「後輩寮長をフォローするのは先輩寮長として当然でしょう。それに、」
    「それに?」
    「このボクが苦痛を我慢して耐えてるというのに、一人だけ逃げようだなんて許せません」

    イデア先輩も道連れです。良い笑顔で言われた。

    すごく納得した。

    というよりリドル氏も苦痛に思ってるのか式典を…そこらへんももうちょっと詳しく聞きたいが。式典の衣装を見に纏ったオルトが喜んでこちらに向かってきたので、それはできなかった。

    リドル氏の新しい一面に親近感を抱いた。
    (まあ、今度からはもう少しフォローでもしますか)
    リドル氏からもらった甘じょっぱい塩飴はいつのまにかなくなっていた。
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