花怜が一真の師匠になる話:花城編「相手が望むことを死ぬほど考えて、己に実行できる最大限で応えることが愛じゃないか?」
「そうするから裴茗は好きになった人に好きになってもらえたのか?どうすればいい?」
「だからそれは自分で考えなければならないことだ。私とお前が同じ行動をしたとして同じ感想をお前の思い人が抱くわけではないからな」
「裴茗はいつも考えてうまくいったから、何人も好き合った仲の相手ができた?」
「え?ああ、まあそうだな」
「じゃあなんで今は一緒に居ないんだ?」
「なんで坊やよ。飽きるんだよ。人は」
「俺は人に飽き足りしない」
「恋情が燃え尽きてしまうと言ったほうがいいかもしれない。飽きるは確かに酷いな。適切ではないかもしれない」
裴茗は苦いような笑いをしたが、それもあっさりとしたものだ。
「皆、燃え尽きてしまうのか?」
「そうでもない。燃え尽きない人もいる」
「そうなのか?」
「お前も会ったことがあるだろう」
「誰!」
裴茗はそれは当然、という顔をして言った。
「花城主だよ」
キョトンと音が聞こえるように、ただでさえ巨大な瞳を更に見開いた一真は「そうなのか!?」と大声で言った。
「800年間、どこを放浪しているのかわからない神を追いかけていたんだから、そりゃあそうだろう」
裴茗は茶を啜った。一体、こいつはなんでいきなり明光殿に突撃してきてこんな話を始めたのだろうか。
「一真、お前どうしたんだ突然。誰か好いた相手でもできたか?」
「分からない。800年間、追いかける相手がいればそれは好いた相手なのか?」
「そんな何百年も一人を求めるなんて正気の沙汰じゃないだろう。恋の病だよ」
裴茗にかかればすべてが恋になってしまうので、全く話にならない。が、花城は確かに謝憐に狂っているので事これに関してはある意味正解であった。
「じゃあ俺も恋してるのか?」
「ホォ。誰に?」
「師兄!」
裴茗は茶を吹き出した。
***
一真は素直に納得し、裴茗をぶん殴ったあとに鬼市へと向かった。
花城は謝憐の膝枕で寝ており、謝憐は「そんなところで寝ても寝心地悪いだろう?」と言いながらも、表情は抑えきれない笑みでいっぱいだ。
そんな今が人生の春という花怜を見て、一真は寝転がっている花城に顔を近づけ臆面もなくこう叫んだ。
「俺に人の愛し方を教えてくれ!」
「近い」
直後に銀蝶の群れが一真に突っ込んだ。吹っ飛んだ一真は向かい側の扉へとぐんぐん進み、花城がぽいっと賽子を投げるとその扉はバン!と開いた。開いた向こうは断崖絶壁だった。
一真は落ちていき、扉はパタン……と閉まった。
「い、一真ーッ!」
太子殿下は叫んだが、花城は断固として殿下の膝から頭をどけなかった。