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    さち倉庫

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    POIPOI 23

    さち倉庫

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    現代AU/学生/にょたゆり/忘羨

    永遠の春 それは、胸の中の宝箱に閉じ込められた永遠の一瞬。

     日に日に暖かさが増し、すっかり春めいてきた日のこと。入学式が終わり今年も大勢の新入生を迎え入れた『姑蘇高等学園』。いわゆるお嬢様学校といわれるこの学園は一流の淑女を世に送り出すことに力を入れており、立派な校舎と充実した様々な施設が広大な敷地内に揃っている。
     そんな敷地内にはひとつだけとても古い二階建ての校舎があった。もう長いこと使われておらず、見るからに年老いた木造の校舎はかつて特別授業を行う際に使われていた。その校舎を一人の少女が見上げている。
    「……」
     美しい絹のような黒髪が白いセーラー服に映える。整った容姿に陶器のようになめらかな透き通る肌。切れ長の目はどこか冷ややかだが、それが彼女の持つ雰囲気をより引き立てている。
     清純潔白。そんな言葉を体現した少女だ。
     彼女はこの学園の二年生にあたり、生徒会に所属している。彼女は今日、この校舎を見てくるようにと生徒会長である彼女の姉に言い渡された。
     老築し、誰も出入りをしなくなったこの校舎は今年取り壊されることが決まったのだ。
     長いこと使われていないとはいえ、この学園の歴史に関わる物品や忘れ去られた私物などがないか一度確認しておく必要があった。本来ならば複数人で見て回るはずだったが彼女が「一人で十分です」と断ったのだ。これには生徒会長も苦笑をこぼしたが自分の妹の性格は理解している。なので何かあった場合はすぐに連絡をするようにとだけ付け加え彼女を送り出した。
     少女はスカートのポケットから古びた鍵の束を取り出すとそれをドアの鍵穴に差し込み、回す。錆びつき鍵が回らないかとも思ったがそれは意外とすんなり開いた。
     取っ手に両手をかけ押し開けると金具の擦れる音が響いた。校舎の玄関にあたる場所から少女は中へ静かに足を踏み入れる。何年ぶりかに開いたドアから入り込んだ風で埃が舞い、少女はハンカチを取り出すとそれで口にあて、さっそく教室を一つひとつ見て行こうと板張りの廊下を歩きだす。身軽な少女が1人歩くだけでも足元からはギシ、ギシ、と軋む音が立った。まるで城にある鶯張り廊下のようだ。
     教室の番号と鍵の番号を照らし合わせ少女は真面目に、黙々と中を見て回る。普通なら文句のひとつも出そうなものだが少女は文句どころか少しの声も発さない。その行動は機械的、ともいえる。
     一階の教室を一通り見終わり、最後に管理人室を確認する。机や本棚、ちゃぶ台などの家具はそのまま残っていたが備品や私物らしきものは見当たらなかった。管理人室には中に出入りできる裏口があった。中から鍵がかけられるようになっている。念のためドアノブを回してみるが鍵はきちんとかかっていた。
     管理人室を出ると少女は次に二階へと向かう。老築した校舎なので階段は慎重に、上っても大丈夫か靴底で確認しながら一段一段上がっていった。
     そうして二階に辿り着いたが構造は一階と同じようなものだった。
     少女はまた淡々と教室を見て回る。ひとつ、またひとつと見回り……とある一室の近くで足が止まった。
    「(ドアが……開いている?)」
     すべての教室は閉まり、鍵もかかっているはずだ。しかしこの一室だけドアが開いていた。最後に使用した人物が締め忘れたのだろうかと思いつつも、何が起きるかわからないと少女は警戒しながら教室の中を覗いた。
    「…………あ」
     校舎に踏み入れてから少女は初めて声を発した。
     少女が――もう一人の少女がいた。
     机の上に腰をかけ、浮いた足をぶらぶらさせながら鼻歌をくちづさんでいる。
    「ん?」
     ぴたり、と鼻歌が止みもう一人の少女が結い上げた長い黒髪を靡かせて少女の方へと振り返った。
    「おー。こりゃまたすごい別嬪さんだ! 初めまして、こんにちは」
     目の前の少女がふわりと笑った瞬間、窓から差し込む春の陽射しが特別眩しく感じた。
     きらきら、きらきらと……輝いて……。
    「んん? どうしたんだ? ぼーっとして」
    「――ハッ」
     少女の止まっていた思考が動き出す。
    「もしかして、俺に見惚れてた?」
     にやりと目の前の少女が口角を上げて笑った。
    「違う。まさか人がいると思わなかったから少し驚いただけ」
    「そう? 残念」
     ポニーテールの少女は肩をすくめるがまったく残念そうには見えない。
     少女はポニーテールの少女を頭からつま先まで視線でチェックすると、ひとつだけ気付いたことがあった。
    「君は……分校の生徒か」
     分校。この姑蘇学園にはこの敷地内に生徒が通う校舎が二つ存在する。名家直系の子が通う本校と、その家から分家した生まれの子、養子などが通う分校だ。通う校舎も違えば身にまとう制服の色も異なる。本校は白のセーラー服、分校は黒のセーラー服だ。ポニーテールの少女は後者、黒のセーラー服を着ている。
    「そう、当たり! 本校に俺が世話になってる家の娘さんが通っててさ、家の人の厚意で分校に通ってるんだ。まあ、どちらかといえば送り迎えの護衛の方が本来のお勤めなんだけど」
     ポニーテールの少女は聞いてもいないことまでべらべらと喋った。本校に通っているのは二人。一人は三年生でとても優しく甘やかしてくれる大好きな義理の姉、もう一人はその姉の妹で性格がとにかくキツく口うるさい、でもなんだかんだで良いところもあるツンデレ……と、マシンガンのように話してくる。少女は流石に呆れかえり、このままでは日が暮れてしまうとポニーテールの少女の言葉を遮った。
    「君はどうしてここにいる? どこから入った?」
    「訊きたいことは二つだけ?」
    「返答によっては他にも質問が出る」
    「オッケー。まず一つ目。俺はこの場所が気に入ってるから。二つ目。管理人室の裏口からいつも出入りしてる」
    「管理人室? あそこは鍵がかかっている」
    「あれくらいの鍵なんてこう、ちょいちょいっと弄れば開くよ」
    「……ここが今は許可がなければ入れない場所だと知った上で入っていたの?」
    「許可って……いくらもう使われてないとはいえ校舎は校舎だろ? なら生徒は出入り自由だと思うんだけど」
    「それは正当な理由にならない。分校の生徒会に連絡を入れ、君には罰を受けてもらう」
     冷ややかな声色でそう言うとポニーテールの少女は目を丸くした。
    「罰? 罰だって? 今の時代で生徒に罰ってなにをするんだ?」
    「どのような処分を下すかは私の知ったことではない」
    「自分は本校の人間だから分校の人間に与える罰の内容は知りません。でも罰は受けてもらいますってめちゃくちゃじゃないか?」
     ポニーテールの少女が言うことはもっともだ。しかし、本校と分校。どちらがより力を持っているかもまた明白である。例えるなら、自分の管轄外で捕まえた犯人を本来の管轄に差し出す、そんな絵面のやり取りが行われようとしている。
    「なぁ、一回くらい見逃してくれないか? えーっと……」
    「……藍湛で構わない」
    「藍湛! 頼むよ。今回だけでいいから」
     パン、と両手を合わせ拝むようにポニーテールの少女は藍湛に頼み込む。お願いお願いと何度も何度も連呼するので、耳にタコができそうになった藍湛は深くため息を吐いた。
    「……君、名前は」
    「魏嬰!」
    「魏嬰。今回だけ私はなにも見なかったことにする。でも次は――」
    「わかってる! わかってるよ! ありがとう、藍湛!」
     魏嬰が嬉しそうに笑う。するとまた、藍湛の視界に星が散らばったようにきらきらとした瞬きが映った。
     ――これは?
     不思議だ。彼女が笑うといつもより世界が眩しく見える。春の陽光はこんなにも眩しく映るものだったろうか?
    「あ、そろそろあいつのこと迎えに行かなきゃ。じゃあな、藍湛。次会ったらなにかお礼に奢らせてよ」
    「結構だ。早く立ち去りなさい」
     机からひょいっと飛び降りた魏嬰がカバンを片手に藍湛の横を通り過ぎて行く。長い黒髪が靡いて、翻って――。
    「そうだ、これやるよ!」
     振り返った魏嬰は藍湛の手になにかを握らせてからその場を後にする。
     黒いセーラー服が見えなくなったあと、藍湛は手の平の中を見た。
     そこには薄いピンク色をした一粒のキャンディーがあった。
     透明な包み紙。両端を摘まんで引いたらくるんと中身が出てくるキャンディー。
    「……次なんて、あるわけがない」
     だって、この校舎は――。



    「――以上が廃校舎の様子になります」
    「ありがとう忘機。他になにか変わった点は?」
     生徒会長でもあり姉でもある藍曦臣に問われ、藍湛の脳裏に黒いセーラー服の少女が過ぎった。
    「いいえ。ありません」
     藍湛はゆるりと首を横に振る。
    「では今日の業務はここまで。お疲れ様。私はまだ少しやりたいことがあるから先に帰っていてくれないかい?」
    「わかりました、姉さん」
     ひとつ頷き返し藍湛は生徒会室を出る。
     そのときカサ、と音がした。スカートのポケットに手を入れ、中の物を取り出すと包みを開き指先でキャンディーを摘まみ上げそれを陽の光にかざした。
    「……きれい」
     春の光を吸い込んだ一粒の飴玉。透き通った中身がきらきらときらめいている。

     きらきら、きらきら。
     眩しい世界。眩しい笑顔。眩しい声。
     彼女との出会いは胸の内に仕舞っておこう。

     せめて、あの校舎があるうちは
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