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    じゃくせーくん

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    じゃくせーくん

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    息抜きしたのをサルベージ。
    BUTCHER VANITYを聞きながら書きました。

    人殺しは料理が上手い(現パロギナボス未成立)浅黒い大きな手で包丁を持つ。肉を切り分け、野菜をざく切りにする。菜箸で鍋をかき混ぜ、玉杓子で煮汁をすくっては味見する。そして満足そうな顔をしてこちらに配膳してくるのだ。
    体の大きくえらく世話焼きな人殺しは料理が上手かった。

    ダチュラは商社の社長であり、ヤクザの組長だ。組長にしては若すぎるが仕事のできるサディストと自由人な異常者のおかげで裏社会を牛耳る一員にまで上り詰めた。
    そんなさなか、異常者……カーネリアンが新しい玩具を職場に連れてきた。ダチュラよりも背がうんと高い、恵まれた体格の黒い肌の男だ。おそらく2メートルはあるだろう。応接室のソファーに大きな体を縮ませて座り、緑色と赤色が混ざった目を居心地悪そうにローテーブルに向けている。
    名前は山祇成也。年はダチュラより一つ上。両親を撲殺したことで少年院にいた過去があり、度々暴行事件を起こしては収監されている。何らかの精神疾患があるが、解法がわからず未治療。その精神疾患の影響か、解離性健忘と作話症を併発している。なんて爆弾を持ってきたんだとダチュラはカーネリアンをにらみつけたが、カーネリアンはそれすらも楽しそうに笑っている。
    「こいつのあだ名、サンギナリアってどう?ブラッドストーンのスペイン語表記で……あと、サンギナリア・カナデンシスっていう根っこが真っ赤な植物があるんだ。sanguinはラテン語で血液を意味するからコイツにピッタリじゃない?名前のアナグラムにもなるし」
    カーネリアンは知り合いにあだ名をつけるのが好きだった。自分の名前すら自分の考えたあだ名で呼ばせている。弥陀山火月は思いつかなかったのかそれとも玩具扱いすれば背後にいる過保護なサディストに因縁をつけられるからか「カガチ」と呼んでいるだけだが。この男のことだ、子供が自分のお気に入り玩具に名前を付けるのと根本は同じ思考だろうとダチュラは思っていた。カーネリアンは異常とまで言えるほどに頭がよいが、こういうところが子供っぽいのだ。
    「……で、この人殺しに何をさせるつもりなんだ……」
    「ボス、あんまり家に帰ってないでしょ?外食ばっかりだしさぁ。お前んちの家政夫にしてやろうと思って!いずれ秘書にもしてやれば~?秘書とまではいかなくてもこの体格だし肉壁…もといボディーガードにはなるでしょ!アハ♡」
    前言撤回。頭がよいのは確かだ。それは確かだが、カーネリアンは変なところで頭の悪い底意地の悪く趣味の悪い悪党だ。ダチュラも何度も毒牙にかかっている。冷ややかな視線を向ければカーネリアンは心底楽しそうにケラケラと笑った。マゾヒストと真逆の鬼畜サドだが、男は人に不快な顔をされたり幻滅されるのを喜ぶ。いわく「自分に屈しない人間が好み」なのだとか。本当に終わっている。この男に調教されてさんざん抱かれている自分も大概だとダチュラはため息をついた。
    とはいえ、この大男に家政夫が務まるのか。男性の家事代行サービスがあるのは知っているが、この暴行事件を度々起こしている男にできるとは思えない。カーネリアンが渡してきた調査書によればどうも過剰防衛で相手を殺しかけているらしいが、それが本当かもわからないし加減ができないならいつこちらに襲い掛かってくるかもわからない。
    「ちょっと料理させてみたんだけどさぁ、めちゃくちゃ美味かったよ~。それこそプロレベル!レストランの厨房での勤務経験もあると思うんだけど暴行の記憶と一緒に忘却しちゃってるぽい」
    まぁ趣味料理らしいし、そこの経験からかもしれないけど。そう言いながらカーネリアンは調査書をペラペラとめくった。
    「お前はそれでいいのか」
    「……大家さんが条件を飲まなきゃ追い出すって……」
    ダチュラが尋ねると、男は怯えた顔でカーネリアンを見た。どうも、両親を殺したことは覚えているらしい。カーネリアンの調査では殺人のことは思い出したり思い出さなかったりと安定しないそうだが、最近は自分のやったこととして記憶ができているようだ。家など吐いて捨てるほどあるものを、その程度で裏社会に入ろうと思うなど愚か者がすぎる。まぁ、半分は嵌めるような手口を使ったカーネリアンのせいではあるのだが。
    その愚直さをダチュラは好ましく思った。使えない木偶ならいずれ肉壁にすればいい。
    ダチュラもまた、悪党だった。


    ダチュラは男を「ギナリ」と呼ぶことにした。あの異常者のつけたあだ名から拝借するのが少し癪ではあったが、過去と切り離してやればいくぶんか扱いやすくなると思ったからだ。貧相でくたびれ切った服を捨てさせてダチュラ自身がよく身に着けるブランドのものを買い与えようとしたがとても2メートル級の人間が着られるようなサイズはこの国にはなく仕方なく量販店に売っているもので上品そうに見える服を買ってこさせて着させた。伸び放題の髪の毛も美容院で整えさせ、社長の家政夫らしく見栄えをよくさせた。髪はバッサリ切ってやろうと思ったがカーネリアンがおもしろがって三つ編みにしたのが案外似合っていたのでそのままにさせた。ダチュラはギナリのことを人間の形をした家電製品だと思ってはいたが、みすぼらしい格好の男に世話をされる趣味はないためにそうしていた。それがどうもギナリにとっては好意的な行動だったらしくえらく懐いてくるようになった。
    ギナリはダチュラの家についてきた直後は恐縮していたが、数日も経てば年下のダチュラを「ダチュラ君」と呼び、満ち足りた顔で家事をしていた。ほとんど住み込みのような勤務体系で朝に雇い主を起こし、朝食を作り、玄関先で見送る。その後洗濯や掃除をして夕食の支度をして、そのままダチュラが帰ってくるまで待っていることもあれば「レンジで温めて食べてください!」とへたくそな字で書き置きを残して自宅に帰ることもあった。ギナリが作る料理はいわゆる家庭料理といった感じのものからレストラン顔負けのフレンチを作ることもあった。どれもが素人が作ったものとは思えないほどに美味だった。
    「ダチュラ君、今日もお疲れ様。お弁当どうでした?」
    家に帰ればそう声がかけられる。言葉だけ見れば新婚の夫婦だと思うだろう。だが、ダチュラの目の前にいるのは2メートル以上背丈のある筋骨隆々の男だ。「美味しかった」と客に見せるような顔でほほ笑んでやればギナリは強面をだらしなく緩ませて笑った。
    寝室でスーツを脱いでリビングに向かうと、ふわりと暖かい空気と美味しそうな料理のにおいが鼻をくすぐる。今日は和食らしい。
    「今日は赤だしにしたけど、ダチュラ君は赤みそ大丈夫だった?嫌いなものの中に入ってなかったから作っちゃったけど……」
    テーブルに座っているとギナリがテキパキと料理を配膳してくる。カツオのはさみ揚げが主菜で、かぼちゃの煮物や青菜のおひたしなんかが小鉢に入っている。栄養バランスがよく考えられているラインナップだと、栄養学を学んでいなくても見るだけで分かった。
    「いいや、別に。お前は好きなのか?」
    「……わたしが食べたかったから作りました……」
    子供が悪事したのを白状するような言い方をする目の前の成人男性に思わず笑いがこみあげてくる。ギナリは体や顔こそ二十代のものではあるが時折少年のような顔を見せる。カーネリアンと同じ気持ちを抱くのは心外ではあったが、この大男は観察していて面白い。
    「もうっ、笑わないでよ!ダチュラ君のいじわる!」
    「悪い悪い。早く食べようか」
    本気で怒っているわけではないんだろうが(本気だったらダチュラの命はこの男の手によって今頃無くなっている)ぷりぷりと拗ねるギナリに軽く謝って食事を促した。ダチュラにも冷めた料理をありがたがる趣味はない。
    「いただきます」
    大きくて厚い手が丁寧に食前に合わされ、箸を持って食事を始める。常人よりも広い口に料理が運ばれ、その気になれば人の首筋すら食いちぎってしまえそうな鋭い歯が魚の肉と衣を引き裂き咀嚼する。ギナリが食事をする様子をダチュラは眺めていた。
    目の前の男は人殺しだ。一度刺激してしまえば何をするかわからない爆弾だ。連れてこられた時はカーネリアンに怯えていたというのに、全てを忘却して「付き合って数年経つ友人」だと思い込んで接している狂人だ。しかし、ダチュラはこの頭のおかしい人殺しに世話を焼かれるのが当たり前になりつつあった。男の整えた家は居心地がよかったし、服の管理はいつでも完璧にされていた。最初は人間の形をした家電だと思っていたが、自分の管理を任せている部下だと今は思うようになっていた。
    「?ダチュラ君、食べないの」
    「食べるよ」
    ギナリに催促されてダチュラは赤だしの味噌汁を一口飲んだ。
    人殺しの料理は美味かった。
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