あったかいなあーマァムは。柔らかいな〜。毎回抱っこする度に不安なんだけどよお、父さんの腕は硬くないか?大丈夫?おっ寝てる寝てる。良かった。
……このままお前をベッドに寝かせて、その間に行くのが多分一番良いよなあ。起きたら泣いちまうよなあ。
……でもなあレイラ、起きたら父さんも母さんも見当たらないってのも寂しいんじゃないかな。いくら赤ちゃんでもよ。うん、わーってるよ。言い出したらキリがない。
…………。
父さんと母さんは、これから勇者と……後そこにいる大魔導士と一緒に魔王を倒しに行くんだ。いいか、父さんが必ず勇者を守りきって……そして……お前がこれから過ごす未来があたたかい世界になるようにするから。
お前はこんなにあったかくて柔らかくて……そしてあったかい未来を生きるから。きっと、心もとてもあったかい子になるさ。間違いない。と言うか、レイラに似たらそりゃもう心が強くて優しい人になるに決まってるよな。
……ん、なんだよ。えっ?マトリフがそんなこと言ってくれるなんてな、ありがとう。……うん、なにィ、俺に似たら優しいだけじゃなくて、頭が鈍くなるかもって?うるせ〜な〜。
……あーううん。マァム。今度こそオレは勇者を守るから。
あそこで涼しい顔してやがる勇者は、マァムや世界中にいる子の未来のために……一度、自分の時間を全部捨てるような真似しやがったんだ。お前に誓うよ、オレは二度と勇者にそんな真似させない。……分かってなかったんだよ、アイツ。そんな真似されたら、やりきれなくてたまんない奴もいるってこと。……なんだと?いーや!分かってない!
「ロカ。むしろあなた達くらいですよ。魔王の『凍れる時の秘法』が解けたのに、喜んでしまったのは」
なんでそう意地悪い言い方をするんだ。お前言ったよな、勝ち取った平和を味わう奴がいないといけないって。なんで自分も味わいたいって言ってくれねーんだよ。
それに、術を使う前……お前フローラさまのこと想像したか?オレ達はまだ好きなだけ泣き叫べた。でもフローラさまは、表では平然としてなきゃいけない立場の方なんだぞ、あんなに……お前のこと心配してんのに……。
…………アッ!マァムが起きちまった!わ、悪い。声でかかったな。
わあわあわあ!
わ〜〜!よしよし!……。
……ふ〜、落ち着いた。
えっと、その、マァム。もう一個お前に誓うよ。お前が生きる明るい未来には、絶対アバンも登場してもらうから!オレがこの戦いで守りきって、もう一回お前に会わせるからな!
「……父さんは、母さんが連れて帰るからね。マァム」
……あ。あーうん!そうだ、俺もお前のところに帰らないとな!
なあマァム。お前は、オレとレイラにとって大切な娘ってだけじゃない。アバンにもマトリフにも老師にも……明るい世界で生きていくことを願われてる子なんだよ。これからもっともっと、いろんな人にも出会って……大切に思われるし、思う子なんだ。
「そーそー。この父ちゃんの夢は、娘の恋人に『お前に娘はやらん!』って喧嘩ふっかけることだからな!」
勝手に決めんな!そんな先のことまで考えてなかったよ!
……………よし!行ってくるよ。しばらく寂しい思いをさせるけど、すぐにそばへ戻るぜ。
また、抱っこしたいから。
老師。それじゃあ、ちょっとの間頼む。
「よしよし、いい子だね。可愛い名前だね。マァム、マァム……。待っていようね」
(おしまい)