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    usizatta

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    花と海とポケモンの楽園【本人の考えるところ】
     眠れない夜があったとして、他の人はどうしているのだろう。明かりをつけて本を読み直しているのだろうか? それともポケナビでもいじっているのかな?
     昨日まさに眠れなくなったんだ。一日中ポケモンに乗って海を渡り、波に揺られていたものだから、その感覚が体に残ってしまっていてね。ベッドの上のはずなのに、波の中で揺れているような感覚。心地よいのだけど、残った感覚に意識が向けてしまったら目が冴えてしまった。
     そうだな、眠れない夜はボクの場合、ベッドの近くにあるショーケースでも眺めるかな。ボクの家にはあまり物は置かれてないのだけど、趣味の一環で山から掘り出した珍しい石や、海の底から拾ってきた美しい石なら飾ってあるんだ。
     海の底だってポケモンとなら行くことができる。それで昨夜も海の底にあった石を眺めているうちに、だんだん眠くなってきたんだ。でも、こうして石を集めて家に飾っているくせに少し思うよ。その場所に行って、その場所で見つけて、その場所の空気と光に透かした瞬間が、石は一番綺麗なんじゃないかって。
     ……海の底にある石は、ボクがこうして持って帰ってくるまでの間、どれだけの期間、そこで波に揺られていたのか。無機物に思考なんてないと言ってしまえばそれまでだけど、岩の体でできたポケモンもいるから、発想自体はしやすくて少し困るね。……後どのくらいの時間をかけて、あの石は陸の揺れない環境に慣れてくれるのかって。

     ポケモン勝負を仕事にしている人というのは、大抵の日をポケモンとの特訓にあてているし、ボクもそうやって手持ちのポケモンとのコンディションを一緒に整えることは多い。でも今日は少し出かけようかと思った。最近「すなあらし」の技を使って戦術を組み立ててみようかと思って、それにあたってトレーナーのボクの方に問題があることに気づいたからだ。……あのね……自分のポケモンの「すなあらし」で目が痛くなってしまうんだよ。
     この技を利用したパーティを考える時、人によっては六体とも「すなあらし」に耐性がある岩や地面、鋼タイプのポケモンで構成して、そしてそれで十分と思ってしまう。でも当然だけど、トレーナーもすなあらしを被るはずだったね。試してみたけれどなかなか大変だった。目も痛ければ、身につけたスーツやアクセサリーの間にまで砂が入って、どこもかしこもジャリジャリな感触がする。
     しかし、大変だけど、少しだけ面白かった。スーツはクリーニングに出すとして……着替えて、特訓で一一一番道路に行ってみようと思った。あそこはいつでも砂が吹いているから。
     一一一番道路を通る人は大抵ゴーグルをつけている。ボクも持っているし、もちろんつけて歩いているけど、特訓を始める時にはわざと外してみることにした。
     歩いてきた足跡もしばらくすると見えなくなるほど、砂の量は多いし、勢いも強い。天候変化の技を持つポケモンを駆使するトレーナーは、きっとまず、自分のポケモンを見失わないように目を鍛えているだろうと予想がついたので、とにかくボクも挑戦してみた。
     けれど思った通り、砂の向こうにぼやけて自分のポケモンが見えた。技の指示を出そうとすると、口の中まで砂が入ってくるし、手持ちが砂に物怖じしないポケモンばかりで揃っていたとしても、トレーナーの方も動じない心構えが必要だね、これは。
     一通り実戦で試そうかと思えるくらい作戦を詰めてから、避難のために洞穴に入ったのだけど、ポケモン達と顔を見合わせて笑ってしまった。自分が砂まみれになっていることよりも気になってしまったので、先に彼らの体に手を伸ばして砂を払った。
    「そういえば、リリーラとアノプスの化石を見つけたのはこの一一一番道路だったね」
    そのリリーラとアノプスの進化系、この時も手持ちにいたユレイドルとアーマルドを見て言った。
     今は砂が吹き荒れるこの場所は、太古の昔は海だったそうだ。海だった頃の名残が化石として採掘できるので、ゴーグルをつけて砂の中を歩く人の中には考古学者さんの姿も見える。

     そしてボクは子どもの頃、ここで冒険している時に、太古の海に住んでいた生き物の「ツメ」と「ネッコ」の化石を見つけたんだ。化石を発見した時には胸が躍ったし、もしポケモンの化石であれば復元できるかもしれないと言われた時は、いよいよドキドキした記憶があるよ。実は太古の生き物を復活させることに迷いもあったのだけど、子どもだったから最終的に興味が勝ってしまった。
     そうして出会った二体のポケモン達は、どちらも確かに水の中で暮らしていたかのような姿だった。それなのに水が苦手と言われる岩タイプに分類されるポケモンだった。
    「リリーラはまだ草タイプも入っているから平気だろうけど、アノプスは水の中で暮らせないんじゃないかな?」
    「坊ちゃん……多分なのですが、まだ私達の技術では当時の姿そのままを復元してあげられないのですよ」
    この時のボクの質問に対し、化石からポケモンを復元する機械の設計者はそう言っていた。
    「ずっと化石だったのですから。もうこの子達は岩タイプの新しいポケモンになってしまったんですよ、きっと」
    ……結局その日の夜は新しく加わった仲間二体をかわるがわる撫でながら、「せっかく生き返ったのに、今も水の中で暮らしたかったらどうしよう」と考えてしまったのを覚えているよ。ユレイドル、アーマルド、あの時は慰めてくれたように思えたよ、ありがとう。
     それから機械はもう少し普及して、化石から復元したポケモンを持つ人も少し増えてきた。ボクはというと、あの時から「とにかくこの子達が楽しく暮らせるにしよう」と頑張ることにしたんだ。
     途方もない時間が経った後の同じ場所。水は枯れ、砂が吹き荒れる環境に、時を超えてやってきた二人は、岩タイプが入っているからこそ、砂に負けずにピンピンしている。ずっと未来の友達となってくれたボクの手元で育ってくれて、進化してくれて、ここにいてくれている。……うん! 明日の特訓も、もう一頑張りしようか。
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