Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    usizatta

    @usizatta

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 37

    usizatta

    ☆quiet follow

    花と海とポケモンの楽園【本人の考えるところ三】
     父から手紙をもらった。お互いのポケナビに連絡先は登録されているのだから、そちらに連絡してくれても良いのにとも思うけど、手紙って味わい深くていい。何よりあの人も忙しいだろうに、わざわざ書く時間を作ってくれたというのが、少し嬉しい。
     まあそれでなくとも、親父は何だか茶目っ気のある人だけど。以前カナズミシティに戻って、父の会社に立ち寄った時もそう感じたな。
     あの日、用件を済ませて建物から出たところで開発担当の方に呼び止められた。ポケナビを貸してくださいと言われ渡したら「エントリーコール」という電話の機能を付け足された。
    「社長の番号を登録しましたので、かけてみてください」
    言われた通りにかけてみると、親父の声が耳に入ってきた。
    「やあ。かけてくれてありがとう」
    「いや、かけろと言われたから」
    「ダイゴ、うちの社員に呼び止められてびっくりしていたな。どうして分かるかって? 窓からお前が出てくるところを覗いていた」
    思わず会社の窓を見上げたら、本当に下を覗いていた親父がボクに手を振った。
    「親父……その、お茶目な真似をする人だな、あなたは」
    「うむ。だがダイゴも好きだろう、お茶目さというのは。参考にしてもいいぞ」
    そう言われ電話を切られたのだった。

     泰然と構えていて、さらに物事を少しからかう余裕があるというのは、確かに誰かの上に立ち導く人としては必要……というか魅力的なことかもしれない。
     うん、上に立つ人には人間的な魅力が必要、それは親父のような企業のトップにも思うけど、各町のジムリーダー達を見ていても思う。
     ボクは仕事で、各町のジムの様子を視察に行くことがたまにあるのだけど、行く度にジムトレーナー達が、自分が所属するジムのリーダーを信頼し尊敬しているのを感じることができる。
     いやジムトレーナーだけじゃない、例えばツツジちゃんならトレーナーズスクールに通う子ども達や岩タイプの使い手に慕われているし、トウキなら格闘タイプの使い手だけでなく、自分自身の体を鍛えている人達にも強さを認められている。
     ジムリーダー達は、みんな責任感がある。ジムだけでなく町全体を引っ張ったり、また見守ったりできる心優しさがあるように感じる。
     こういう話を新人ジムリーダーのアスナちゃんにしてしまうと「私も他のジムリーダーの方のようにならないと」と気負わせてしまうけど、ボクの方も内心「もっと真面目にやらないとな」と思ってしまう。

     そういえばこの間、フエンタウンジムの視察でアスナちゃんとお話をしている時、「人の良いところは見て吸収したいけど、落ち込みそうになります」「人と自分との比べ方って難しいよね」なんて、フエンセンベイをかじりつつ話してたことがあったな。いくつか質問も投げかけたと思う。
    「アスナちゃんは炎タイプのジムリーダーだけど、炎タイプの魅力ってどんなところだと思ってる?」
    「それはやっぱりホットなことですよ! ポケモンバトルをしてる時、自分と一緒に気持ちまで燃えているのがすごく感じられるんだ!」
    答えはとっても元気そうだった。緊張しているかと思ってたから、ちょっと安心した覚えがあるよ。
    「自分の戦術はどんなものか説明できる?」
    しばらく悩んだそぶりを見せた後にこう答えていた。
    「えっと『オーバーヒート』で短期決戦です。強力な技だけど、一度使うと威力がガクッと下がってしまうから……炎の技の威力が上がる『にほんばれ』を予め使っておいて、一撃で決められるようにしたり」
    「攻めの姿勢だ、すごいね。……万が一それでも詰め切れなかった場合の対策はあるのかい?」
    「くう、えっとですね……私のバクーダはメスなので、オスを出してきた相手には『メロメロ』を使って足止めをしたり、最後を守るコータスには『しろいハーブ』を食べさせて、下がった威力を一度だけ戻したり……とか」
    「うん、とってもいい戦術だよ!」
    「本当ですか!」
    あの時のアスナちゃん、ニコニコしていたな。でも実際良い戦術だと思ったし、そもそも次から次に質問してしまってる相手に、きちんと答えて説明できること自体すごいことだ。本人にもそれを伝えたら、今度は照れてしまっていた。さて、ボクはこの後なんて言ったかな。確か……。
    「『しろいハーブ』とコータスで、最後の最後を粘る相手にも勝てる可能性が上がるね。アスナちゃんの作戦とは違うけど、硬いポケモンだからここでなんとか長期戦にも対応できるしね。硬いって大事だよ」
    「あはは、鋼タイプの使い手であるダイゴさんが言うと説得力が違いますね!」
     こんなやりとりを終えた後、ボクはジムを出て町の方は何か変化がないかとウロウロし始めた。そしたら「案内しますよ!」とアスナちゃんがついてきてくれた。
     フエンタウンは、隣にそびえる火山のエントツ山の影響で、汲めども汲めどもお湯が出る。ポケモンセンターと温泉がくっついているし、砂風呂に入ることもできる町だ。町を案内する看板にも「ポケモンおんせん よいところ」って書いてある。
     砂風呂のところまで歩いたら、ポケモンのたまごを持っていたトレーナーが砂の中にたまごを入れようとしているところに行きあった。
    「やあこんにちは。そのたまごはどんなポケモンが生まれてくるのかな?」
    「あっはい、こんにちは。人からもらったたまごで親のポケモン知らないからわかんない」
    「えーっ! なら砂風呂はダメだよ。こおりタイプの赤ちゃんだったら悪影響になっちゃう!」
    隣にいたアスナちゃんがそう言って止めた。
    「あっ、ジムリーダーのアスナさんだ。えっじゃあどうすればいいの?」
    「あっためてもいいけど、人肌で十分だよ。あとは歩いてみて」
    「どのタイプのたまごでも基本は、元気なポケモンを隣に連れながら、持ち歩いてみることだよ。動いてる人とポケモンに刺激されるみたい」
    ボクも横から付け足した。
    「そっか、ありがとうアスナさん! お兄さん!」
    「うん! 孵った後に大丈夫そうなタイプの子だったら、今後こそ一緒に温泉入りにおいでよ! 苦手なタイプじゃない限りポケモンの体にもいい温泉だからさ!」
    「はーい、ありがとう! じゃあ歩いてきます!」
    手を振って去っていったので、ボク達も手を振り返した。そして後ろにある砂風呂の方にも目を向けた。
    「あの子、砂風呂の砂崩しっぱなしで行っちゃった……」
    「今度会えたら注意するとして、今日はこっちで整えてあげようか」
    「えっ⁉︎ ダイゴさんスーツじゃ……」
    「ん?」
    彼女がいい終わる前に、ボクはもう道具を手にとって砂をザクザク掘り始めてしまっていた。
    「い、いいんですか?」
    「うん。後でちゃんとお手入れするからいいよ」
    「はああ……」
    アスナちゃんは慌てて手伝いながら
    「ちょっと意外です。汚れた格好なんて見たことないですし」
    と言った。
    「そうかな、汚れる時もあるよ。特に新しい戦い方を試している時は、泥まみれにも砂まみれにもなってるよ」
    「ダイゴさんくらいの立場になっても、ポケモン勝負の戦術を見直したりすることあるんですか?」
    「うん。見直すし失敗もするよ」
    「そうなんだ……」
     結局その日は二人で砂風呂を直したら時間が来てしまったのでボクは帰った。
     帰り道では火山灰を噴きあげるエントツ山を見下ろしながら、エアームドに乗って空を飛んで行った。山を登っていくロープウェーの入り口で順番待ちしている子どもが待ちきれない様子でその場をピョンピョンしている様子も見られた。さらに山から下りてきていたバネブーもその様子にはしゃいで、一緒にピョンピョンしていたのも見かけたな。
     後日、アスナちゃんから慌てた連絡がきた。
     ……えっと、ボクはこれを書いている時、自分が言った言葉も、相手の言葉も思い出せるだけそのまま書くようにしていて、ちょっと間違えているかもしれないけど、一気に書き出す。
    「この間、ジムにチャレンジしたトレーナーに勝ったんですけど! 今日リベンジされちゃいました! その子一一三番道路で走りこんで特訓したって言ってて! メロメロを赤いビードロで治されちゃって!」
    ……えっと、アスナちゃんが言ってることを整理すると、エントツ山から降る火山灰は一一三番道路に降り積もっていて、あそこには火山灰からガラス細工を作る職人さんが住んでいて、職人さんが作る特殊なビードロはポケモンの状態異常を治す効果があるという話で、そこで特訓してきたトレーナーにメロメロ状態を回復するビードロを持ち込まれたから足止めできずに負けたという感じかな。
    「悔しいです! だから私も一一三番道路走りこんでくることにしました!」
    でもボクが何か助言をする前に、彼女はもう自分がすることを決めてしまっていた。そうなると、もう応援することくらいしかできない。
    「頑張って。ボクもあそこの道路、火山灰を集めながら走ったことあるよ」
    「そうなんですか。意外……でもないですね! あっひょっとして、ダイゴさんのエアームドはそこで出会った子なんですか?」
    とにかくそんな感じの勢いの良い連絡だった。
     それにしても、やっぱりアスナちゃんも立派なジムリーダーだなと思ったよ。挑戦者と全力で戦うことも、負けて悔しがれることも、すぐに自分を高める特訓に移れることも、それと、自身は炎タイプの使い手なのに、エアームドの生息地を知っていることもね。ちょっと嬉しいな。
     ジムリーダーたるもの、チャレンジャーから学ぶ謙虚な姿勢と、自分のジムがある町の近隣の情報まできちんと知っていることも大切だからね。

     そういえば、ホウエンに引っ越してこられたばかりと思っていたセンリさんも、この間会った時「ダイゴくんが話していたサン・トウカの花屋さんに立ち寄ってみたよ」と伝えてくれたっけ。ホウエンに呼び寄せた奥さんとお子さんに花束をプレゼントしたんだとか。奥さんもだけど、お子さん喜んだんだろうな。お父さんからのプレゼントってとても嬉しいから。
     あときのみの話もしたかな。
    「オボンの実をケッキングに持たせることにしたんだ」
    「えっ奇遇ですね。ボクも最近、メタグロスにオボンの実を持たせました」
    「おやおや」
    「あはは」
    ジムリーダー達とのやりとりを思い出すまま書いてると、そろそろキリがなくなってくるから、今日はこの辺にしておこう。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works