花と海とポケモンの楽園【私達は確かにあの花園に】
※最後の話が先にできたので置いておく。本当はこれの前に一話ある。
ポケモンの背に乗り海を越え、滝を登り、挑戦者が一人はるばるとサイユウシティまでやってきた。足を踏み入れた途端、たくさんの花が花弁を揺らしている光景が目に入った。虫ポケモンが数匹飛んでいる。
この日やってきた挑戦者の少女は、滝を登るために乗ってきたアズマオウをボールの中にしまい、花畑を縫うようにできた道を通った。町の看板が道沿いに立っており「ここはサイユウシティ。花と海とポケモンの楽園」と書かれていた。挑戦者はつい
「楽園ねえ……」
と、冷ややかな声を出してしまった。
この先には「チャンピオンロード」と呼ばれる、リーグの頂点を目指すものは必ず踏破しなければならない山道があり、その先のポケモンリーグにたどり着けば、いよいよ四天王と現チャンピオンに挑戦となる。ここからリーグの頂点までは戦いばかりで、四天王とチャンピオンは、毎日自分のポケモンを戦わせて傷つけても平気な人達だろう。そんな道、そんな人達がいる場所のどこが楽園なんだろうか。
一日かけてチャンピオンロードを超え、次の日にポケモンリーグに挑戦ということになった。挑戦者が建物に入ろうとする時、別の挑戦者が入れ違いで出て行った。泣いている。四天王だかチャンピオンだか知らないが、この人のことも泣かせたんだなと、少女は思った。それにうっすらと、すれ違った人の姿は自分の未来そのものかも知れないとも思った。だがすぐに考え直す。
(いや、あたしは負けても泣くほどは悔しがらないか)
他にもいる明日の挑戦者達に混じって、建物の中で泊めてもらう手続きをした後、彼女は部屋に入った。最低限の寝る支度をしたものの、すでにチャンピオンロードを超える道中でヘトヘトだったため、ベッドに飛び込んだらもう目が開けられなくなってしまった。
翌朝、まずは朝食をよく食べ、次にリーグ内のショップが開店すると同時に薬を買い込んだ。体力を回復する薬しか売っていなかった。ポケモンが技を打つ回数には限りがあるため、できればそちらも回復できるものが欲しかった。今まで様々な街を巡ったが、技ポイントを回復する薬というのは何故か売ってない。ポケモンリーグ内の店ならあるかもと思っていたのに。もし、四天王の三人目くらいでポケモンが技を打ち尽くしてしまったらどうしよう。
結局、店にあるものだけでもあれやこれやと購入し、四天王の部屋へと続く両開きの扉の前に立った。昨日寝る前に通りかかっていた時には閉まっていた扉だ。今は挑戦者を迎え入れるように開いている。まるでマルノームの口のように入ってくるものを丸呑みにしてしまうようにも見える。
入る前に深呼吸をした。モンスターボールを六つ、きちんと身につけているか確認した。ついに一歩踏み入れる。長い階段を上り始めた。部屋には一人目の四天王が待っていた。……戦いが始まった。
「ポケモンリーグでしかできないバトル、楽しんできなよ」
どうにか一人目に勝利した時、こう言われた。少女は硬い表情のまま再び階段を登り始めた。
「あなたとポケモンの絆、とっても強いんだね。それが見抜けなかったアタシが負けるのは当然。先に進んで」
二人目にはこう言われた。階段を登る。
「先に進みなさい。そしてリーグの本当の恐ろしさを知りなさい」
三人目にはこう言われた。さらに階段を登る。
「さすがここまで来たチャレンジャー。本当に大切なものを分かっているようだな。そう、ポケモントレーナーに必要なものは正しい心。ポケモンはトレーナーの心に触れ、ものの善悪を知るのだ」
最後の四天王はそう言った後、こう続けた。「先に進め。チャンピオンが待っているぞ」
こうしてまた挑戦者は長い階段を上り始めた。けれど、次の部屋が最後のはずだ。次の部屋にはチャンピオンがいるからだ。その人に勝てば終わりなのだ。いや、負けたとしてももう終わりでいいだろう。やっと終わることができる。
挑戦者の少女は、待っていたチャンピオンに勝負を挑み、善戦したものの負けた。別に悔しくはなかった。…………いや、だめだ。やはり悔しい気がした。自分が負けるのは、彼女にとってどうでもいいことだった。けれど、ここまでポケモンと旅をしてきてしまったから、その子達が目の前でチャンピオンのポケモンにボコボコにされたのは悔しくて仕方がなかった。ついうっかり挑戦者の少女は口を滑らせた。
「そんなにポケモン傷つけて楽しいですか? あなたはチャンピオンなんてやってて、何体くらいポケモンを倒してきたんですか? トレーナーもみんな一生懸命、このリーグまで来るのに。そんな人達全員踏みにじってきたんですよね。……最低!」
言葉を浴びせかけた相手、ホウエンリーグのチャンピオンは銀色の髪をしたスーツ姿の男性だった。彼が口を開きかけたので、少女は逃げるように立ち去った。だが相手の顔が見えなくなった途端に頭が冷え、そして言ってしまったことが、自分の頭の中でガンガンと響きわたった。顔と胸がカッと熱くなり、後悔の念がどっと押し寄せ、いてもたってもいられなくなった少女はさっき立ち去った部屋に走って引き返した。
「ご、ごめんなさい!」
チャンピオンの顔が目に入ると同時に勢いよく頭を下げた。
「ごめんなさい、あの、ご、ご、ごめ……」
相手はつかつかと近づいてきて
「まずは、戦いを終えたポケモンを回復してきなさい」
と言った。その言葉にまた焦り、ポケモンセンターにいこうと体が走り出しそうになった。それと同時に、まだチャンピオンに言うことがあるのではないかとも思い、体が今度は止まってつんのめりそうになった。結果、彼女は動けなくなった。
「やっぱり今日はボクが持っている薬を貸すよ」
チャンピオンはどこからか薬を取り出し、挑戦者にポケモンをボールから出すように促すのだった。
「ジュカ、元気になった?」
この挑戦者がかつて、「始めてポケモンを持つならこの三体から選べ」と言われた昔、選んだポケモンはキモリだった。予めジュカインに進化すると親に聞かされていたので、先回りしてジュカというニックネームをつけていた。回復してもらいながら、世間話代わりに挑戦者はそのようなニックネームの由来までチャンピオンに打ち明けていた。
「そういうニックネームの付け方もあるよね。どんなポケモンに進化するか知らないまま育ててみるのも楽しいのだけど」
「親が昔ジムにチャレンジして、ジムバッジを全部手に入れることすらできなかったから、あたしには絶対リーグまで行ってこいって、いろいろ叩き込んだんです」
「そうなんだね」
「だからその先は勝っても負けても良いと思ってました。ほらリーグまで行ったぞって親に言えるし、すっきり帰れるかと思ったんです。でもなんだか悔しくなって……自分でも不思議」
ポケモンに薬を与え終わったチャンピオンは、微笑みながら理由を考え始めたようだった。回復が終わったのだから挑戦者はお詫びとお礼を言ってさっさと立ち去りたいと思っていたが、引き留められてしまった。おかげでこんなリーグの最奥で、勝ったわけでもないのにチャンピオンと立ち話をするハメになった。もともとは口を滑らせた自分のせいであるからと、改めて猛省するとともに諦めて付き合うことにした。
「四天王のみんなは、親に無理強いされてポケモントレーナーをやっている人に負けるような実力じゃない。きみは冒険を通していつの間にか本気でポケモンを育て始めていたのではないかな」
「本気というか、ムキになっていたのかもしれません。こっちのアズマオウはリュウレイってニックネームなんですが……」
「りゅ、うん? 流麗?」
「トサキントだったこの子を育て始めた時も、あたしはこの子を進化させればアズマオウになるって知ってました。進化したらどんなポケモンになるんだろうとか、ここにはどんなポケモンがいるんだろうとか、あたしの旅にはそんなワクワク感ほとんどないはずでした。ほとんど親にネタバレされている旅……」
少女はここで苦笑した。
「でもこの子は予想外だったんです。全然水タイプの技覚えないんですよ。ジムの四つ目、炎タイプのところまで辿りついた時点でもまだ覚えてなかったんです。魚なのに。入り口でアドバイスくれるおじさんが、炎タイプには水技でいこうみたいなこと教えてくれるのに、肝心の技が全然出てこない!」
チャンピオンが相槌を打って、どうやって乗り越えたのなどと聞いてくるものだから、彼女は他の手持ちとも協力して乗り越えた顛末を話した。本当になぜこんなことを語っているのやらと思いながら、話はもう少し続いた。五つ目のノーマルタイプのジムに勝利した時は、「波乗り」の技でポケモンと海を越える許可をもらった。同時に「波乗り」を覚えさせることができるマシンも入手した。
生まれてはじめて水技が使えるようになったリュウレイと、海をポケモンと渡るという体験でテンションが上がった自分とで、ぴょんぴょん飛び跳ねた日。まだトサキントだったので乗るというより掴まってキンセツシティの東の海を超えた。
続いて辿り着いたヒワマキシティで、吊り橋をジュカとともにカタカタ音を立てて歩いた日は、写真でヒワマキの光景は知っていたはずなのに実際に歩くと怖くてしょうがなかった。それも数日で慣れたことを覚えている。ジュカがヒワマキに生える一本一本の大木を、まるで友達に挨拶するように触れる仕草をしていた時のことも印象に残っていた。
「最終的にリュウレイはアズマオウに進化して、自分の力で「滝登り」の技まで覚えました。今回もその滝登りでサイユウシティの滝を登ってきました」
「そうなんだね。きみは、ジュカにニックネームをつけたその日から、絶対にジュカインまで育てるぞと思っていたし、リュウレイがなかなか思うように育たなくても諦めなかった」
「はあ、あの……」
少女はまごついたが、隣にいたジュカとリュウレイは、まるでそうだと言いたげに少女に寄り添っていた。
「……思うようにって、あたしは全然思うように育ててない……」
それなのに少女は否定した。
「この旅をしていて、いろんな町にポケモンコンテスト会場があるのを発見しました。だんだん、そっちに参加してみたくなったから……」
彼女の言う「ポケモンコンテスト」とは、ホウエンで発展した、勝負以外の方法でポケモンを活躍させる場所だった。美しいポケモンはより美しく、逞しいポケモンはより逞しくなるよう、見た目を磨き、技を利用したパフォーマンスを磨き、観客やライバルの前で披露することで優勝を目指すものだった。
チャンピオンはキョトンとした顔で質問した。
「まず先にリーグに来ようと思って我慢していたのかな? ならこれから挑戦できるね」
「いやあの、あの……」
少女は答えに窮して黙り込んだ。しばらくして
「……帰ります」
何も言えないまま、引き返していった。
数日後、同じ少女が再びリーグに挑戦しに来た。そしてやはりチャンピオンのところで負けた。彼は勝負を終えると意外そうな顔をした。
「ごめん。正直、この間の話ぶりからして一度きりの挑戦かと思っていたよ」
「……他に挑戦できるものもないですし」
「ポケモンコンテストは?」
「……すみません、お話できません」
彼女はまた帰っていった。
そしてしばらく経った後、また彼女はリーグにやってきた。前に帰って数日した頃から、ホウエンでは妙な天気がしばらく続いていた。天変地異で世界が滅ぶのではと、半分くらい本気で彼女は怖がっていたのだが、また最近は天気が良くなったので、リーグに顔を出したのである。
「前も来たよな、お嬢ちゃん。せっかく天気が良くなったんだから、もっと別の場所に遊びに行ってもいいんじゃないか? それともリーグでのバトルがやみつきになったかい?」
四天王の一人目が少女の顔を覚えたらしく、そう話しかけてきた。バトルを終えると今度は笑いかけてくる。
「さっきのは、来んなって意味じゃないぞ。むしろ逆さ。気に入ったのなら、また遊びに来なよ」
挑戦者側も三回目となればだいぶ風景を覚えてしまい、階段を登って見覚えがあるチャンピオンの間へと辿りついた。
「いらっしゃい」
チャンピオンの反応まで顔見知りに対するものになっていた。
相変わらずチャンピオンには敵わないで負けてしまった時、少女はこのリーグ内で自分がまだ足を踏み入れたことがない場所があることに気がついた。自分が現在いるチャンピオンの間の奥には少なめの段数の階段があり、その先の壁がポカリと空いていた。先に続く部屋は電気がついていないのか暗く、どのような様子なのかさっぱり分からなかった。
「ここの奥にもまだ部屋があるんですね。あそこでチャンピオンは待機してるんですか?」
「待機するのはこの部屋だね。あの部屋に何があるかは、チャンピオンになった人にしか教えてあげられないんだ」
少女は軽く鼻を鳴らしてみせた。
「今度こそあなたに勝ったら入れるってことですか」
「ふふ、ボクとは限らないよ」
「えっ」
思わず今度は驚きの声をあげてしまった。
「そろそろ、新しいチャンピオンが生まれるかもしれない」
「な、えっ?」
「もちろん、ボクは負けるつもりなんかないから、生まれないかもしれない」
言い方が何やら不気味だった。続けて聞いていると、チャンピオンの言葉はますます不気味な雰囲気を醸し出してきた。
「ボクはカンがよく当たる方でね、強くなりそうと思ったトレーナーは本当に強くなるんだよ」
「ほ、本当ですか?」
「ふふ、なんてね」
少女は、失礼だと感じつつも「気味が悪いなこの人」と思った。チャンピオンの方は、そんな失礼なことを思われているとも知らず、後ろにある部屋の入り口を見つめ始めた。そして問いかけてきた。
「……ボクの前のチャンピオンは誰か知っているかい?」
「知らないです」
「……そうか。それならボクも、新しいチャンピオンが誕生したら、すぐみんなに忘れ去られるかもしれないね。ただ……」
チャンピオンは振り返ったが、今度は指で奥の部屋の入り口を指した。
「あの部屋に何があるかは言えないけど、これは教えるよ。チャンピオンが代わるとき、今の代と次の代のチャンピオン二人であの部屋に入るんだ。ボクは一緒に部屋に入った前チャンピオンのことを今でも覚えている。だから……次のチャンピオンになる人は、ボクのことを覚えていてくれるのではと期待しているよ。チャンピオンという役目はポケモンがいてこそだから、ボクのポケモンのこともね」
「手を取り合って二人であの部屋に……」
「い、いや、手を取るかどうかはわからない……」
そう答えて苦笑いするせいか、少女まで笑ってしまった。そして、笑うと口がほぐれるのを感じた。
「……今日もリーグに挑戦したのは……本当はコンテストに参加したかったのに、怖かったからです……。ポケモン勝負は、ある程度実力があることが分かってるから来ちゃったんです。新しいことに挑戦したところで全然上手くいかなかったらどうしようって思ってます。正直ごちゃごちゃな気持ちです。ジムチャレンジもいざ辞めていいと思ったタイミングで楽しかったことに気づいたし……」
挑戦者の少女は、自分よりは背の高いチャンピオンを改めて見上げた。
「なにか、アドバイスもらえたりしませんか、チャンピオン」
彼は、しばらく考えるために黙っていた。それから口に出した答えも具体的なアドバイスとは言えなかった。
「そうだね……実はボクも怖いと思うことがあって、半分くらい自分に言い聞かせたいことなのだけど」
「はい」
「『成長』するってどういうことか考えたことがあるんだ。最初のうちは無我夢中で練習してぐんぐんと伸びていくものなのかと思った。もし好きなもののことならなおさら。でもどこかで壁にぶち当たったり、新たなことに挑戦したいと思ったり、『成長』とはなんなのか、分からなくなる時がくるような気がしている」
「はい」
「でも、迷ったり壁にぶつかったりするのは、ここに至るまでにもいっぱい成長できたことの証明だと思いたいんだ。それにボクは……ごめん、ボク達は、これからもずっと成長できると思いたい。ただ、ある程度進んだ人がますます成長していくためには、どう進むか、目標は何にするか、きちんと考える必要が出てくるだけ」
「はい」
ここでチャンピオンはどこか苦しそうに笑った。
「でも、考えることって本当に疲れるよね。大変だ」
少女は、その言葉にすぐ反応した。
「それでもあたしはまだまだ成長したいです」
チャンピオンが、今度はニコリとした。
「ボクも」
また数日経った。挑戦者の少女は今日もサイユウシティに現れた。道を歩いていると、他の人もちらほらと歩いている。相変わらず花は咲き乱れ、遠くから海の音が聞こえてくる町だ。
「あっ」
リーグに勤める人もそろそろ出勤の時間らしかった。なんとチャンピオン本人も、鋼の鳥ポケモンに乗ってやってきた。鋼の鳥ポケモンの翼はキラキラと陽の光を弾き輝いていた。彼らが降りた地点に近寄って少女が挨拶すると、少し驚いた相手からも挨拶が返ってきた。チャンピオンが自分の方に顔を向けた時、少女は彼の瞳に、自分の姿の他、花や遠くに見える海というこの町の風景が映っていることに気がついた。同時にこの町の看板に書かれていた「花と海とポケモンの楽園」という言葉を思い出し、自分の姿が邪魔に感じられた。なんとなく立ち退いてしまうと
「どうしたの?」
問いかけと目線が追いかけてきた。
「あ、あの……この町の風景って綺麗ですよね。だから、どいた方がよく見えるかなって」
「おや? どういうこと? サイユウはポケモンリーグがある町なんだよ」
彼は朗らかに笑った。
「この町の風景には、トレーナーとポケモンもいないとね」
少女は目を見開いた。そして「そうか」と思った。自分は確かに、この花と海の美しい町にやってきた。この町の風景の中に存在していた。もっと正確に言うなら、自分と、自分が一緒に旅してきたポケモンが。
他にもトレーナーが歩いていた。年も格好も全然違う人達だ。子どもも大人もいる。みんなポケモンと一緒にこの町にいる。
「そうだ、チャンピオン。リーグの挑戦はこれで最後にしようと思うんです。でも悔いが残らないように全力でいきます! なんなら勝ちます!」
「あはは。それでその次は?」
「はい。怖いけど、ポケモンコンテストいきます! ジュカとリュウレイと……それと」
チャンピオンがまだ鋼の鳥ポケモンをモンスターボールの中にしまっていなかったので付け足した。
「実はチャンピオンと何度か戦って……その度にポケモン見てたらエアームド綺麗だなと思ったから、エアームドも育ててみようかと思ってます」
チャンピオンはなにやら言葉に詰まってしまったようだった。
「……ありがとう」
しばらくして心から嬉しそうにお礼を言ってきた。
「ボクね、自分がよく知っているポケモンであっても、他の人が育てると今まで気づかなかった魅力が現れると思ってる。もし尊敬する人が、ボクの大切なポケモンを育てたならどんなに素敵なことが起こるだろうって……。きみも、ボクのエアームドとは全然違うエアームドを育てあげるのかな」
そう言って微笑んで、チャンピオンは「じゃあ、挑戦待っているよ」と言って立ち去った。
ふと少女は、一〇年後、二〇年後、さらに後、この町はどうなっているだろうと思った。自分はどこでどうなっているだろう。今現在チャンピオンをやっているあの人は、どこで何をしているのだろう。もちろん分かるはずはなかった。しかし、良い方向へ成長できているのではないか、ぼんやりだがそんな希望が胸の中にあった。根拠はなかったのに、気分は良かった。
少女を始め、サイユウシティにいるポケモントレーナー達は、今日もまたそれぞれの一歩を踏み出していた。