ショートストーリー・チャレンジ・2巻目 大魔王の名の元に集った一大勢力「魔王軍」。魔軍司令の座についたハドラーは、これ以上に凄まじい軍勢は後にも先にもない、と感じていた。
「魔王軍の怪物たちはその性質によって6つの軍団に分かれている……」
そして城の前に集まった怪物達に向かって、ハドラーは自分達の軍団を、その脅威を、語りかけた。もし人間がこの説明を聞いたなら、震え上がるだろうとも想像しながら。
「不死騎団! 死をも超越した戦士たちの軍団! 人間たちを地獄に送り込む殺戮の使徒たち……!」
「氷炎魔団! 灼熱の猛火と氷点下の吹雪! すべてを焼きつくし魂すら凍らせる恐怖の破壊者!」
「妖魔師団! 絶大なる魔法力を誇る魔導師の軍団! いかなる人間の魔法使いもその妖力にはたちうちできないだろう」
「百獣魔団! 凶悪きわまりない獣たちの群れ! 底知れぬパワーをふるっての進軍はまさに無人の野を行くが如し!」
「魔影軍団! 実体を見せずに敵を撃つ闇の狩人! 大魔王からいただいた魔気を生命とし世界を暗黒に染める!」
「超竜軍団! 最強の怪物ドラゴンの軍団! ゆえにその戦力も我が6軍団随一!」
一通りの演説が終わり、玉座にふんぞり返っていたハドラーの前に、ハドラー直属の親衛隊にいるガーゴイルが2体、おずおずとやってきた。
「あ、あのー……ハドラー様」
「お願いがありまして」
「なんだ」
ガーゴイルたちはお互いを小突きあって、どっちが切り出すか迷う素振りを見せた挙句、二人同時にこう言った。
「わたしども親衛隊も、ああいう感じの美辞麗句で飾ってもらえませんか⁉︎」
2体のガーゴイルは、羽をパタパタ、腕もワキワキ動かしながら、興奮した口調で捲し立てた。
「軍団に所属している怪物ばかりずるいですよ! あんな勇ましい! かっこいい!」
「人間どもも恐怖を通り越してワクワクしちゃいますよ、やばい敵きたーって!」
「なんだと?」
ハドラーの眉間も動き出したが、これは明らかに機嫌を損ねたサインであった。ところがガーゴイルたちは気づかない。
「そもそもハドラー様、よくあんなに表現が思い浮かびましたね!」
「まるで神話を詠う吟遊詩人の如し!」
「……貴様ら! この魔軍司令ハドラーをつかまえて、なにが吟遊詩人だ‼︎」
「……あっ……うわー! ごめんなさい!」
「出て行け‼︎」
2体の親衛隊は血相変えて御前から去り、扉も急いで閉めた。急ぎすぎて、片方のガーゴイルが羽を扉に挟んでしまうほどの慌てぶりだった。
「しまったな……吟遊詩人は例えがまずかった……」
「オレたちも、なんか恐怖の怪物っぽく紹介されたかったな……」
そんなことを話し合いながら、すごすごと廊下を歩いていくのであった。