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ゆっくりとブラッドさまの顔が近づくこの時間が好きだ。
寝支度を整えてベッドに座ったブラッドさまの前に跪き、下から顔をすくいあげるように。
はっきりと形取れていたその輪郭がゆるく歪んでいってそのうちわかるのは色だけになる。
目を閉じたくない。
ブラッドさまの目が閉じていく様を見ているだけで頭の芯が痺れていく。
この後に唇が重なるのだと思うだけでどうにかなってしまいそうなのに、それを求めて止まない。
自分は得すぎている。
両手に抱えられる以上の幸せがあってそれを取りこぼさないように必死で。
なんて滑稽なのだろうか。
それでもそれは与えられたものだけではなく、自分で手を伸ばしたものもあるのだ。
ころりと、こぼしそうになったものをブラッドさまが拾い上げて俺の腕の中に戻す。
仲間達も。
最近はルーキー達も。
小さなそのかけらがこぼれ落ちても大丈夫だと。
「オスカー・・・」
促すような声を吸い取るようにその唇を塞ぐ。
ひたりと重ねてその少し乾いた感触に名残惜しさを感じながら離す。
「・・・もう、寝るのか?」
問われて息を止める。
喉の奥がぐ、と鳴った。
「寝、ます」
ブラッドさまの、もう少し、のお誘いであることは重々承知の上で、明日の予定を鑑みれば負担をかけるわけにはいかないのだ。
つまり負担をかけてしまう程度のことを我慢できそうにない、自制できないことを白状するべきなのではと思いながらそれをどう言葉にするべきか。
「その、明日」
明後日はブラッドさまのオフ。
だから。
「わかった」
ふ、と近い場所でブラッドさまが笑んだのがわかった。
わかった瞬間、ブラッドさまの腕が俺の頭を胸元に抱え込んだ。
温かい。
ブラッドさまの匂い。
腕を伸ばしてブラッドさまの背に腕を回す。
そのまま、離れがたくなってきて困った。
体の芯が熱を持ってしまう。
心地よさに手を伸ばしてもっと深くと思ってしまう。
その前に。
そっとブラッドさまの腕が離れた。
「・・・明日、な」
はっきりと捉えられるブラッドさまの顔は。
「・・・はい」
明日、あした。