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雨上がりの晴天、と言うにはあまりにも上昇しすぎた気温に息を吐く。
寒さに比べれば耐えられるが、それでも湿気を含んだ空気が肌にまとわりついた。
ブラッドさまとのパトロール、雨でなかったのは幸いだが、この暑さにも疲労を感じそうだ。
それでもブラッドさまの様子はいつも通りで、市民には柔らかく対応されている。
見習わなければ、と思いながらもその涼やかな様子は俺には真似できないだろうと思う。
「オスカー」
先を歩いていたブラッドさまが振り返り、端末の画面を示した。
そこには地図が表示されている。
「この場所の・・・」
ブラッドさまが指さす。
俺はブラッドさまの手の中の端末の画面を覗き込みながら、ここは日差しが強いので日陰に、と口にしようとして。
ブラッドさまの顔を見ればその額には汗が浮いていた。
当たり前だろう。この暑さだ。
あまりに当たり前であるのに、その汗が少しずつ大きくなり。
つ、と滑り落ちた時には、声を上げそうになってしまった。
その雫はまばたきをしたブラッドさまのまつ毛に膜を張りそして。
それをブラッドさまは手の甲で拭う。
「オスカー、気分でも悪いのか?」
ブラッドさまは怪訝な様子で俺に声をかけた。
「いえ、大丈夫です」
慌てて言えば。
「急な温度変化とこの湿度だ。体調不良は遠慮なく言え」
「本当に大丈夫ですっ」
「そうか」
ブラッドさまはそう言うと、自然足を日陰に向けて俺にも日陰に入るように促した。
心拍数が上がっている。
理由はわからない。
暑さのせいかもしれなかった。
その証拠にこめかみから汗が流れてくるのを感じる。
そのままそれが口の中に滑り込んできて、少しだけ塩辛い。
汗の味。
そうだ、あの時の俺は。
ブラッドさまのまつ毛に膜を張ったあの。
汗を口に含んでみたい、と。
その、味を。
暑い、暑さのせいだ。
「ブラッドさま、行きましょう」
「ああ」
ブラッドさまのその涼やかな様子の、外には見せない内包したその。
足元から競り上がってくるような、そんな衝動は知らない。知らないものはぎゅうぎゅうに腹の奥に詰め込んで、俺はパトロールに邁進した。