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    以前書いて出していたものの続きを書き加えましたが完結していません
    オスブラwebオンリーで完結させて出したい気持ちはあるんですが未定です
    とにかく何か新しいオスブラを出したくて

    #オスブラ
    zebra

    一滴の揺心(未完)***

     おやすみなさい、の先にあるものなんか知らなかった。おやすみなさい、を言う相手もいなかったしそれを口にしたところで返してくれる人もいなかったからだ。
     だから。
    「おやすみなさい」
     そう口にした後に、おやすみ、という言葉と共に額に唇が押し当てられることがこんなにも。
     ベッド端に座った俺の前に立つブラッドさまのその。額の髪をかき上げる手が。押し当てられた唇が離れてしまうことが。
    「・・・物欲しそうな顔をしているな」
     唇が離れてブラッドさまが小さく笑うようにそう言うので、顔が熱くなった。
     その唇を。唇に欲しいと思う。
     なのにブラッドさまの唇は今度は左の頬に触れた。唇の後に頬と頬が重なる。柔らかくしっとりと重なってそのまま手を伸ばしたくなる。
     身の内に包み込むように抱きしめたい。けれどまだそれの許しを請うたことがない。
     許しなど得ずともこのまま、と思ったところでそれを実行するほどの勇気は自分にはないのだ。
     ブラッドさまは頬を離した後にひとつ息を吐いて、俺の隣に座る。
     どきりとして何かを期待する俺に。
    「おやすみのキスを」
     とブラッドさまは僅かに顎を上げて目を閉じた。俺は。その目元の麗しさに息を飲んで、その少し上、額に唇を押し付ける。
     吸い付きたいほどになめらかな肌。唇を離せば、すうっとブラッドさまの目が薄く開かれた。
     その瞳が俺を映しているとわかる。それでもそれが何を意図しているのかまではわからない。
     わからないが、自分の都合のいいように解釈したくなってしまうから。視線を逸らしたいと思うのにそれもすることができない。
     ゆっくりと空気が重くなっていくようだ。それは俺がそう感じているだけで自分の愚鈍さを感じているだけなのかもしれない。
    「・・・キスを」
     小さな声で求められて俺の心臓は跳ねた。ごくりと喉が鳴る。
     狙いを定める、というのは言い方が悪いかもしれないが、ブラッドさまの唇と自分のそれがちゃんと重なるようになど、上手くできる気がしなくて。
     そっと固定するようにその肩を抱く。手だけでブラッドさまの顔に触れて固定するなど震えてできそうにない。
     顎や頬にするのとそう変わらないような気もするのに唇にするというだけでこんなにも緊張するのは、それが特別なものだとわかっているからだ。
     震えるな、と思ってもどうしたって指先が震えているのがわかる。何故こんなにも震えるのか。
     恐怖しているのか、ならば俺は何が怖いのだろうか。誰が?
     ブラッドさまの肩を抱いた俺の指先にブラッドさまのそれが重なる。
     そうっと握ってくる指先は体温が低かった。握ってくるその指先も震えているように感じるのは俺の震えが伝わっているからかもしれない。
     僅かにお互いの指先に熱が灯る。
     唇を重ねる、それを想像するだけで息が止まりそうなほど苦しくなる自分の不甲斐なさを感じながらもそれだけ特別な事なのだと。
     特別な。

    ***

     オスカーの瞳にゆっくりと熱のようなものが満たされていくのがわかる。それ、がちらりちらりと揺れて揺らされて。
     自分の中に震えるような何か、熱のようなものとその熱のようなものが湧くことへの。緊張のような。
     そうか、自分は緊張しているのかと思う。
     指先が震えるような感覚はいつぶりだろうか。こんな風に物事に身構えるということ。
     しかも相手はオスカーだ。オスカーだというのに。オスカーだから、か。
     キスなど。いくらでも与え、そして受けてきたというのに。こんな風に深く重い感情を抱えたキスは数えるほどしかしていない。
     心拍数が上がりオスカーの緊張も伝わってくる。こんな、ことで。この程度で。
     この調子でその先など望めるのだろうか。そもそもオスカーはこの先を望んでいるのだろうか。
     欲の無い男だ。現状に満足している可能性もなくは無い。
    「・・・オスカー」
     俺の肩を抱いた手に力がこもる。その手を握った自分の指先。
     息が苦しい。こんなにもこんなにも、ささやかな触れ合いが。
     なのに自分はどこか貪欲な部分が頭をもたげてくるのを止めることができない。
     触れて重ねて深く貪られ食い散らかされ咀嚼し嚥下しその欲情した様を目にしたい。
     そんな爛れた思考などが俺の中にあるなどとかけらも想像していないだろう無垢な男の唇が落ちてくる。
     そっと重なって濡れもしない。
     深追いもしてこない。なのに熱い。心臓の拍動と同調してドロドロとしたものが自分の胸から溢れ出てきてしまいそうだ。
     顔が離れてオスカーが照れたように口元を歪めた。花がほころぶように幸せそうなその顔を見ながら俺は。
    「・・・オスカー、お前とセックスがしてみたい」
     と。ゆるりと口にすればオスカーは驚愕のあまり無表情になった。
    「想像もしたことがないか?」
     オスカーの体が再び強い緊張に支配されたことがわかる。そうしてオスカーは意を決したように。
    「想像、したことが、あります」
     と、まるで死を覚悟したかのように告白するので。その様に俺の方が背筋を正した。
    「ならば」
     そこまで言いかけて、自分に今すぐそれをスる覚悟があるのか、と思い直す。興味はあるしオスカーとのそれになにがしかの期待もある。
     それでも覚悟、と言うと。
    「ブラッドさま」
     低く響くオスカーの声に僅かに身を揺らせば。
    「その、もう少しだけ、時間をください」
     そう言ったオスカーの目には何かが宿っているようで、けれどそれが何かは俺にはわかるはずもなく。
    「わかった」
     と口にすればオスカーの両腕が包み込むように俺を抱きしめた。
     おそらく、初めてのことだ。
     


     言葉なく室内の沈黙が少しずつ深くなっていく。それは不快なものではなく濃密になっていくと表現すべきか。
     薄く開いた唇がそこにあって自分のそれに重ねたいと。思われていることを、そうであればいいと思う。
     そっとオスカーの指先が俺の右手の指先に絡む。向かい合って立ち尽くし俺の許可でも請うように。
     強引に奪い去ってもいいものをこの男にはそれは難しいだろうということもわかっていて。
     けれど俺が奪うのも、奪ってもらえるのだと思わせるのも今後において向上を望むなら避けた方がいいように思った。
     別に自分が思うがままの男にしたいわけではない。予想外に想定外に。
     この男にも焦れる、という感情があったのだろうか。指先がぎゅっと握られた後にその顔が近づいてきた。自分の思う通りの展開に顔が緩むのを抑えながら薄く目を閉じる。
     ふに、と唇に触れた感触に足元からじわりと熱が這い上がってくるのがわかる。
     もっと身を近づけたかった。できれば縋り付くように。そうしたらきっとこれはもっと深くなるのだ。だから。
     重なっているのは唇と握った指先。こんな心許ない支えではお前の味を確認することなんてできない。
     オスカーの右手が俺の腰に回される。そのまま体全体を引き寄せられて頭の芯が痺れた。
     その積極性に自分の思考が読まれているのではないかと思ってしまう。抱きしめられてもっと、という。
     体を寄せて密着すれば自分の腕の置き所に迷ってそのまま目の前の体に絡み付けた。
     厚みがある。熱がある。その形を指先で触れてその体を包む布の感触と。
     胸の辺りが苦しくなった。触れてもいいのだ。いやらしい気持ちを持ったままでも。その権利が今の俺にはある。思わず強く抱きしめてその背中を撫でれば自分に回された腕にも力が込められた。
     あ、と深く呼吸をしようとした瞬間に狙ったように舌が。そんな手管をどこで、と思いながら迎え入れてその感触に全身が震えた。
     初めて知った味と舌の柔らかさと艶かしさに翻弄される。 
     あんなに純粋に俺を見つめる目の内側にお前は何を隠していたのだろうか。暴きたかった、そして暴かれたい。
     どんなふうにお前が俺に触れたいと思っていたのか、俺がお前にどんなふうに。
     差し入れられた舌は、惑ったように動きを止めてその迷いの中で唇の角度が隙間なく俺の唇を塞ぐ。
     舌を絡めてその柔らかさと弾力に慄く。温度に差はないのに厚みの違いとこうしていることへの心地よさに驚いた。 
     そこにあるのは確実に快楽で重ね交わる快感に身を委ねたくなる。
     自分が高揚していくのがわかった。いやらしいことを期待して体が先走り逃げ場がなくなってしまう。
     戯れというよりは貪るように舌を吸われ、口の中を蹂躙される。
     歯列も歯の形も上顎の深さも舌で確認できる全てを吸収しようとするオスカーに。
     その全てを知らしめたいと。縋るように腕に力を込めた。
     体が仰反る。体幹は弱くない。なのに。
    「ん・・・ぁ・・・」
     鼻から抜ける息が熱い。
    「ぁ・・・っ・・・」
     いやらしい気持ちが声になって漏れた。この男が欲しいと思う。お前がこうして俺を貪ろうとするのと同じように俺も。
    「・・・っすみません、夢中になってしまって・・・」
     は、と気づいたオスカーに体を引き剥がされた。完全に剥がされたなら俺は立っていられないかもしれない。下半身が痺れて、こんな自分の状態に羞恥を覚えそれでも。
    「・・・オスカー」
     自分でも漏れた声は甘く熱く感じる。だから。
    「・・・は、」
     オスカーの返事を飲み込むようにもう一度唇を塞いだ。

    ***

     甘い口づけなどという表現があるが、俺にはいつだってその瞬間は苦い。いや、違う。触れたくて苦しくて触れてしまえば柔らかく幸せな気持ちになるのにその瞬間の直前の緊張感に口の中が苦くなるのだ。
     唇を重ねるとまるでブラッドさまの優しさが染み込むように苦味がなくなる。
     だからもしかしたら、深くキスしてしまったら。その苦味さえもブラッドさまに伝わってしまうのではないかと。少しだけ心配だった。
     先日、ブラッドさまが俺に。問うたことは俺の胸の中で重く体の芯を支配した。
     ブラッドさまと。寝る、こと。同じベッドに横たわり眠る、だけではなくて。世の、恋人たちにとっては当然かもしれない行為を。俺とブラッドさまが。
     一瞬の、後ろめたさの後に来るのは羞恥と期待だ。
     そもそもその行為の手順、手段は知識として入手できてもブラッドさまの求めるところを知らなければならないと思う。
     俺の想像の範囲など朧気なものでしかない。挿入、という行為があることは知った。知って、ブラッドさまがどういう形で望まれているのか、そもそもその形は必要なく、触れ合い快感を極めることを。
     俺には難題すぎてどうしていいかわからない。それでも深いキスについて知ってしまえばそれをブラッドさまと共有したくてたまらないのだ。
     余裕などないままブラッドさまの舌を求めてしまえばタガが外れた。深く、全ての感触を得たくて。
     ブラッドさまの甘い声に我に返って唇を離しても今度はブラッドさまにそれを奪われた。
     求め、荒らすようにブラッドさまの舌が俺の口の中を探る。求められるままに舌を絡めればその滑りと柔らかさと温度に目の裏から頭にかけて何かが突き抜ける。
    「・・・んっ」
     呼吸の隙間から漏れてくるブラッドさまの声は俺を高揚させてどこかに吹き飛ばしてしまいそうなのに膨れ上がったそれは欲望の形をしていてどうしていいかわからない。
     唇を重ねることは快感というよりは心地よい、そうブラッドさまとの確認のようでとても心が満たされたというのに。
     深く口づけ、中を探り粘膜を擦り合わせることは明確な快感だった。そこに快感があることは予想していたし知識として知ってはいた。
     それでもそれをブラッドさまと共有することで得られる相乗効果のようなものは桁違いで驚いた。
     驚いて昂った己を振り返り持て余し。挙句。
     ブラッドさまの体を再度自分から引き剥がした。
     なぜ引き剥がされたのかわからない、と言う風なブラッドさまの顔。
    「・・・なんだオスカー、怖気付いたか」 
     言われて唇を噛む。全くもってその通りだったからだ。
     はい、その通りです、と認めるべきだろう。けれどそれも情けないことだとブラッドさまに失望されるのではないかと思ってしまっては口にできない。
    「・・・オスカー、快楽は悪いこと、ではない」
     諭すようにブラッドさまは言って俺の頬を撫でる。自分の中を知られてしまっているようで恥ずかしかった。
     けれどそれも全てブラッドさまが相手ならば、と思う。
     つ、とその指先が俺の唇に触れた。形をなぞるように右から左に。そして。
    「まあ、お前にいけないこと、を教えていると思えばいっそ」
     その背徳感も堪らない、と口にしたブラッドさまのその。蕩けるような表情を、俺は決して忘れられないだろうと思った。



     胸に溢れるこの感情をどう口にしていいかわからない。言葉を選び胸の内を正確にあなたに伝えることなど俺にできようもないのだ。
     好きだとか愛しているだとかわかりやすい言葉を並べたところで伝わらない。そんな物では足りない。美しさやその存在の素晴らしさを讃えたところでそれらの言葉は上辺だけを撫でて流れていってしまう。
     ならば行動に移しその体を押さえつけ思いつく限りの奉仕をし快楽に溺れるように。尽くし尽くし尽くし。
     尽くすことが至上の喜びであると示そうか。
     それとも自分の中にある衝動を押し付けぶつけて注ぎ込み濡れた体を見下ろしてその。
     違う違う違う。
     俺は、ただ。
     あなたがそこにあることを。在るだけで。
    「無欲だな、お前は」
     血の通った寝る食べる笑い泣き喜び悲しみ怒り迷い惑う性欲もある人間なのだと。ブラッドさまが。
     だから。
    「俺とお前ではいきなり、は難しいだろうからな」
     そう言ったブラッドさまは、居室に入り二人きりの時は極力寄り添ってくるようになった。仕事やトレーニングを終えてシャワーを浴びた後はなるべくお互いの肉体の一部を触れ合わせて過ごす。
     座って寄り添い太腿を触れ合わせるだけの服越しに感じる体温に居た堪れなくなりながら少しずつ。
     肩を触れ合わせ寄り掛かりゆっくりと。
     いやらしさの欠片もないそれは慣れてくれば、そうしないではいられないくらい生活の一部になった。
     アレキサンダーの世話をする俺の様子を覗き込むブラッドさまの胸部が肩に重なってくる。
     ブラッドさまが一息ついてベッドに座り俺を見る。何も言わずとも隣に座れという合図だ。
     もちろん俺に否やは無い。それよりもブラッドさまとのそのささやかな触れ合いに心地よさを感じていて、まるで禁断症状が出るように隙あらばその体温を感じたいと思うようになっていた。
     ふとした生活の中でブラッドさまに触れたいと思ってしまう。
     いやらしい気持ちではなく、その服越しのじわりと染み込むような温度を。
     そしてその温度が身近になるにつれてもっと高い体温を感じてみたいと思うようになった。服越しから直接の肌へ。
     ブラッドさまの先見の明は素晴らしいと思う。想像でしかなかったブラッドさまとの関係性の先というものが、僅かに得られるようになったもので具体的に考えられるようになったのだ。
     俺の経験値の低さも愛情と体温の関係性を理解できていないことも見越されていたのだろうか。
     キスだとか快感だとか、簡単に得られる知識には無い肌感覚というものを知れたような気がした。
     だから。
     いつものようにブラッドさまが視線でベッドに座るように促してそのまま寄り添い。
     体全部で体温をじっくりと重ねたらどんなにか、どんなにか、と。
    「オスカー?」
     そのままブラッドさまを抱きしめ、ベッドに押し倒してしまったのだ。

    ***

     押し倒してきたオスカーに何某かの期待をしたことは否めない。
     それでも俺がその顔を覗き込んだ時、どうしよう、と惑った顔に少し笑ってしまった。
     俺はオスカーの背に腕を回すとそのまま撫で、その胸に顔を埋めた。
    「少し、このまま」
    「・・・はい」
     オスカーの声ははっきりしているというのにその胸から響いてくる拍動は速い。
     ぺたりと重なった上半身に反して下半身は離れている。足を絡めればオスカーの腰が逃げた。
     逃げるものは追いかけたくなる。そのまま絡め取ればそこに。
     僅かに反応するその場所に、得心してオスカーを追い詰めたくなってしまう。
     お前はこれをどうしたいのだ、と。
     そうすることを想像して自分の腰が痺れた。追い詰め、逃げ場を無くしたオスカーはどうするだろうか。
     小さく丸くなってしまうのかそれとも。窮鼠猫を噛むように転じて俺を。
     自分の嗜好がおかしな方に進まないことを祈りたい。
     どちらにせよ、オスカーに求められたいと思っていることを自覚する。自覚した上でこの男に。
     重なった体は熱を上げ始めているような気がした。
     お互いに、だ。
     オスカーは。俺が挿入されたいなどと口にしたらどう思うだろうか。
     知識はいくらでも手に入る。が、オスカーが想像したというセックスの内容が俺のそれと合致するとは限らない。
     それこそ性の交わし方はさまざまなのだから。
     重なった体温のまま貪れるほど無知でも無茶でもない自分はいっそ面倒くさいのかもしれない。
     抱きしめてきているその手が、服の裾から忍び込んでくることを想像すれば、肌が敏感になっていく。
     おそらく確実に、今はセックスのタイミングではないというのに。
     日々重ねた服越しの体温が少しずつ期待値を上げてしまったのだろうか。
     ゆるりと腰を動かせば、オスカーだけではなく自分も反応し始めていること、伝わっているだろう。
     沈黙は息苦しくはない、が、この状態の終止符の打ち方がわからなかった。
     このまま眠るわけにもいかず、中途半端な期待のようなものが燻っている。
     先に押し倒したのはオスカーであるというのに、おそらくオスカーも行動しあぐねている。
    「・・・ブラッドさま、その・・・俺は・・・」
     頷く動作だけしてオスカーからの言葉を待つ。
    「想像の中とはいえ、不遜ながら・・・俺がブラッドさまに・・・」
     オスカーの言わんとするところはうっすらと見えた。
     衝動のまま押し倒してしまったことを謝りたいのか、それともこのまま行為に進んでいいのかを問うているのかはわからない。
    「それは、お前が俺に挿入したい、という理解でいいのか」
    「ブ・・・ブラッドさまっ」
     反射的なのだろう、オスカーの腕に力が入りぎゅうと締め付けられた。
    「すみませんっ」
     その腕はすぐに緩められる。緩められても離れてはいかないことに安堵して。
    「かまわない」
    「はい・・・」
    「その理解でいいというのなら、俺はそれでかまわない、ということだ」
     沈黙が落ちる。これははっきりと言葉にした方がいい部類の話だろう。
     お前が俺に挿入するセックスでかまわない、と口にしようとして止める。
     無粋だと思ったからだ。
     恋仲でベッドで抱き合い、言葉にするならば。
    「・・・いつか・・・お前のこれで・・・俺のなかを、満たして欲しい・・・」
     オスカーの背にあった手をお互いの下腹部の間に差し入れる。
     びくりと反応したオスカーの体にじわりと喉の奥が潤みながら。
     自分の口にした言葉とその意味に顔が熱くなった。
     自分は何を言っているのだ、と我に返るには手のひらを押し返すオスカーの熱が熱すぎた。胸が高鳴ってしまったのも否定できない。
     言葉を口にした恥ずかしさよりもその返ってきた反応の大きさに密かに満足している自分もいる。
     反面、収まりのつかなくなったこの手とオスカーの体をどうしようかと逡巡する。
     そうしているうちに、かたかたとオスカーの肩が震え出し。
    「ブラッドさま、申し訳ありませんっ」
     なんとか勢いは殺したものの、べり、と音がしそうな力強さで体を引き剥がされた。
    「本当に申し訳ありません」
     そう言って体を起こしたオスカーの顔はいっそ泣きそうにも見えた。
    「後ほど、後ほどきちんと謝罪させていただきますのでっ」
     そう言ってオスカーは逃げた。
     それこそ音速で部屋から出て行く。
     俺は呆気に取られ、けれど失望したわけでもなく。
    「・・・これは、少し前進したということ、か?」
     独りごちて両手で顔を覆った。
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