弟はなにも欲しがらなかったから 弟は無欲だった。
正確に言えば、物を欲しがらない子供だった。
例えば『強いやつ』と戦いたい、とか。カレーまんが食べたい、とか。そういう刹那的でお手軽な欲求は露わにしてくる。でも、弟はそういう、時間とともに風化しないものや胃酸で溶けないものを好まなかった。だから、何もいらないんだって。
たぶん、自分には必要ないと思っていたんだと思う。そしてそれは、決して卑屈になった結果じゃない。
自分はもうじき消えていなくなってしまう存在だから、あとに残るものはいらないんだって。はっきり言ったわけじゃないけど、たぶん、そう思ってたんだと思う。
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毎年、だ。あたしはせっかくの誕生日なのに、ものを欲しがらない弟の姿を見てきた。
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