「はぁ、はっ……、は、」
走る。息が切れようと、足がもつれようと。走る、走る、走る。たとえ寒さに血が滲んでも、たとえ夜道に足がとられても、振り返ることは許されない。
「は、ゲホッ、……っ、う」
周囲は暗く、吐き出す息の白さも相まって視界はもう殆ど機能していない。頭の中にある地図の通りに、ただ前へ足を動かす。止まることは決してしない。足を止めることは死を意味する。肺がどれほど悲鳴を上げようと、目的地へと進み続けるのだ。
『ここで死ぬなんてダメだよ。生きて。絶対、絶対だよ』
『わたしたちのことは心配しなくていいわ。さあ、走って!』
(──死ぬことは、ダメだ。2人がせっかく伸ばしてくれた命だ)
諦めて止まってしまうことは簡単だ。だが一度止まってしまったら、碌に食事も取れていなかったこの体は二度と動かないだろう。そして日が登れば警備に見つかり、そのまま処刑台まっしぐらだ。
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