【第ニ夜】 こんな夢を見た。
縁側で月を見ていた乱藤四郎が「蛍がいる」と私を呼んだ。こんな季節に妙だなと思いながら座敷を離れ、庭を探すが蛍はいない。
「もう逃げちゃったかな」
私がそう声をかけても、長い髪は暗闇を見つめたまま振り返ることはなかった。
別の夜、縁側でまた「蛍がいます」と私を呼ぶ声がした。縁側へ出てみると、前田藤四郎と平野藤四郎が、よく似た面差しで私を見上げた。私は庭を探したが、やはり蛍は見当たらなかった。
「何匹いたんだい?」
私の問いに、二人は指を立てて答えた。私は目を凝らして闇をしばらく探したが、そのどれも見ることはできなかった。
さらに別の夜。後藤藤四郎が廊下から部屋に入ってきた時、「いち兄、蛍だ」と部屋の中から視線を庭先に向けたまま私に言った。同じ場所から見た私の目には何も見えなかった。
しばらくそんな夢が続いたある日、「思いを残して生を終えた人の魂は、蛍になって帰ってくることがある」という話を聞いた。
遠い昔の魂が夢を通じて私に蛍を見せたのだろうと、私は根拠もなくそう信じた。
蛍が誰かは、私も知らない。