【第四夜】 山姥切国広と畑当番をした時のことだ。
暑いというより痛い日差しの中でも、山姥切はいつも通り白い布を被っていた。日除けの代わりにでもなるのだろうと放っておいたが、手入れが終わりという頃になって、ついに山姥切が暑さに倒れた。
「べこのかあ、こんな布被っちょったら暑いのは当然じゃ」
山姥切を木陰へと座らせ、竹の水筒を取って水を飲ませてやると
「あんたの言葉は時々よく分からない」と山姥切が答えた。
憎まれ口が叩けるのなら大丈夫だと笑う自分を鬱陶しげに見ながら、山姥切は「悪いが、少し休む」と言ったきり目を閉じてしまった。
自分はもうこの場には用がないのだが、暑気あたりの仲間を放置するのも気がひけるので、なんとなく隣に座って目覚めるのを待つことにした。
山姥切はいつも自分を「写し刀」だと卑屈に言うが、実は陸奥守吉行である自分も真贋疑わしきと言われていた刀だった。事情により形が変わり特徴が薄れた事が、後世の歴史家をして疑わしきと言わしめていたらしい。だが、刀の身としてはどうでもよい話だ。
自分が自分でありさえすれば、他者の評価はいらぬことと陸奥守自身は思っている。
山姥切も、早く自分だけが唯一であるということに気がつくといいのだが。
陸奥守が隣の山姥切を盗み見ると、山姥切は白い布の中で少し微笑ったようだった。