ホストクラブの忠暦 閉店後、事務室で売り上げの計算をしているとドアをノックされた。すかさず返事をしたはずだが誰も入ってくる気配がない。
「どうぞ」
二回目の声かけにようやくドアがおずおずと開かれる。まず隙間から赤毛が飛び出し、それからゆっくりと顔を覗かせた。
私は鼻でため息をついてペンを置く。顔を見る前から彼だと分かってはいたし、用件が何かもだいたい想像がつく。閉店後に暦が訪ねてくるのはこれが初めてではないからだ。
「入りなさい」
「……ッス」
まだ馴染んでいないスーツは、サイズがやや大きいようでスラックスの裾がよれている。腰をずり下げる癖は何度も注意してやっと直してくれたが、まだ体に合ったものに買い替えるつもりはないらしい。もっとも、そんな買い物ができる余裕があったら、こんなに暗い顔をして私のところへ来るはずもないのだが。
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