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    YUKI

    @anlie00

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    YUKI

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    Twitterに載せてたログ。
    本人は気付かないまま、ゆっくりとうにが消えていくエリソー。最後は多分エリジウムがなんとかする(丸投げ)。

     ふと、意識が浮上する。天井をぼんやりと照らす光に寝惚けた目を瞬いて、エリジウムは枕から頭を持ち上げた。
     枕元に置かれた時計を見れば、深夜の時刻を指している。それを確認してから光源へと首を巡らせると、部屋の隅に置かれたデスクの前、ライトをつけて座っているソーンズを見つけた。
    「ブラザー、もう深夜だよ。体調管理もオペレーターの任務の一環でしょ」
     また夜更かしして、と思いながら声をかける。小さな光の下、何かを手にして見つめていたソーンズが、その声に頭を持ち上げた。
     振り返る、ゆっくりとした動きに小さな違和感を覚える。体調でも悪いのだろうかと思い、様子を見るべく上半身を起こしたエリジウムはしかし、振り返ったソーンズの顔を見て、え、と呟き、ついで目を見開いた。

     いつも光を弾いているような、意志の強い金色が。
     今は、底から滲むような赤みの強い光に染まっていた。

    「……ソーンズ?」
     思わず名前を呼び掛ける。それに応えるようにぱち、と彼が瞬きすると、瞼に一瞬隠れたその瞳は、次に現れた時にはいつもと同じ金のような飴色で。そのままソーンズはエリジウムを見つめてから、僅かに首を傾げた。
    「……ああ、すまない、うたた寝をしてしまったか」
     手にしていた球を一度不思議そうに見てから机上に置き、ソーンズはライトの電源を落とす。そのいつも通りの仕草に、しかしエリジウムの胸中には一雫の黒い染みが広がった。
    「……寝るならベッドで寝なよ」
     胸に浮かんだ言葉を別の言葉に差し替えて、布団を持ち上げて招き入れる。もう一度見たソーンズの瞳は、いつも通りのオレンジがかった飴色で、やはりあの赤は見間違いだったのだと考える。
     ……それでも。
     ──君は起きてたよ、とは、言えなかった。



     翌朝、あのとき彼は何を見ていたのだろうと思いだし、デスクの上を見る。色々なものが乱雑に散らばる天板の片隅、丸い小物が見えた。アクセサリのような、小さな飾り。
     透明な樹脂に、海のように整えられた砂と貝が閉じ込められている。それは、エリジウムが持っているものと同じものだ。
     同郷出身の同僚が作って、二人を含めた数人にくれたものだった。
    「綺麗でしょ! 砂粒と貝殻は、故郷の海の砂浜から昔持ってきていたのを使ってるのよ」
     確か、そう言っていたはずだ。特に何かの機能があるわけでもないそれは、ただ綺麗なだけのアクセサリだ。あの時、彼はなぜ、これを見ていたのだろう。
     くるくると回してみたが、不審な点など見つかるはずもない。
     そっとデスクに戻す。その時は、それだけだった。



     ──気がついてみれば。
     夜中になると、度々ライトをつけたままでいるソーンズがいることに気づいた。声をかけても気付かないことも多く、エリジウムが強く名前を呼べば、その大きな瞳をぱちりと瞬いて不思議そうにしていた。

     少しずつ、顔色が悪くなっている気がしている。足元が覚束無い日もあり、寝不足みたいだ、と言って部屋に戻っていく日が増えた。
     あの日、うたた寝をしてしまったと言っていたのを思い出す。本人は寝ているつもりなのだ。しかし身体は起きている。不調は当然と言えた。
     メディカルチェックの結果に異常がないことは、既に確認している。
     ……それでも、あの赤い瞳を思い出せば。その度に、正体の掴めない不安がエリジウムの内側を満たした。



     様子を見ようと、ソーンズの部屋に行き声を掛ける。返事はない。不在かと思ったが、倒れていはしないかと不意に心配になり、合鍵を使って入室することにした。
     室内には誰もいない。やはりただの不在か、と少しだけ安心する。

     ふと、視界の隅にデスクが映った。そこに置かれたままになっていた樹脂球を手に取る。あの日、彼がじっと見つめていたもの。
     これ自体は、なんの変哲もないアクセサリだ。同僚が楽しそうに作ったものであり、繊細な青い海が閉じ込められていて、光を弾く様は美しい。

     見つめたまま、指に力を込める。指先が真っ白になるまで力を入れたところで、球体のそれが壊れるはずもない。
     これはなんの罪もない、ただのアクセサリだ。わかっている。だがこれを見ていたあの日から彼は……そう思ったところで、指先から力が抜けた。


     ──あくびをしていた顔を、思い出した。
     執務室から出てきた時。……実験室から出てきた時も。

     あれは、これを受けとるよりも以前のことだ。
     寝不足だと言っていた。それを、確かにエリジウムは聞いていた。以前から言っていたのだ。それを、よくある夜更かしだと気にしなかったのは自分だった。
     このアクセサリは、たまたま彼の気を惹く何かがあっただけで、それ以前から予兆はそこにあったのだ。


     ──指先が震えた。
     いつから。
     それは、いつからなのか。
     少しずつ、彼である時間が減っていくような気がする。話す時間が減った。起きている時間すら。

     ──変わりによく見るようになった、あの瞳。

     あれは誰だ。それとも、あの彼も彼なのか。なぜ誰もあの異変に気が付かない?


     ギ、とかすかな軋みと共にドアが開く。


     振り返れば、そこに、彼が立っていた。
     球体を握ったままのエリジウムを見つめている。優しく、名を呼ばれた。今までにないほどに静かで穏やかな響きの底にある、砂の混じるような異質なざらつき。

     鳥肌が浮かんだ。青ざめるエリジウムの顔を見上げる、その、底から光るような赤い満月の瞳が、まるで嗤うように歪んでいた。
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