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    YUKI

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    YUKI

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    夏だから海に行こうよ!って無邪気に誘ってくる鳥と、内心怖い近寄りたくないって思ってるのに高校の夏休み遊ばないでどうするの(悪意0)って誘われると断れなくてついてっちゃう✹。

     夏休みは海に行こう、とエリジウムが言った。断る、とソーンズが返すと、えぇー!と教室中に響き渡る声で叫ばれ、ソーンズは両耳を抑えてうるさい、と文句を言った。

     ソーンズは、昔から水泳が得意な子供だった。タイムを測れば学年男子ではトップクラスの数字を記録し、潜水をすればプールの端から端まで潜るので、前世はエラ呼吸だったんだろうと揶揄われるくらいには水に馴染んでいた。
     それなのに、いつかの雑談のなかで海を見たことがないと言ったのを、エリジウムはずっと不思議に思っていたのだ。こんなに泳ぐの得意なのに勿体無い、というささやかな好意で、エリジウムはソーンズを海へと連れ出した。


     海岸へと向かう電車の窓から見える海を、ソーンズがじっと見つめている。彼は決して騒がしいタイプではないけれど無口でもないはずなのに、海をただ見つめる横顔はとても静かで、無表情だった。
     いつになく元気がない。大丈夫?と体調を心配するエリジウムに、しかしソーンズは別になんともない、とだけ返した。
     実は海が嫌いだったのかな、と思い至った頃には、海岸が目の前まで迫っていた。今更引き返そうと言っても、ソーンズは頷かないだろう。普段の彼はエリジウムに遠慮して言いたいことを言わずに黙るタイプではないので、その思いつきに確信は持てなかった。


     海についても、ソーンズは海の中に入ろうとはしなかった。相変わらず彼は何も言わなかったが、親友とはいえ言いたくない事もあるだろうと、追求はしなかった。二人でかき氷を食べたりスイカを食べたりして、熱い砂浜のパラソルの下で雑談しながら過ごす。見ているだけでも夏の日差しに輝く海は綺麗で、退屈はしなかった。

     砂浜に下手な絵を描いてみたり、それを写真に撮ったりしながら笑い合い、いつの間にか昼をすぎた頃。
     不意に、ソーンズが黙ってカメラを下ろして沖の方を注視した。エリジウムもつられてそちらを見れば、波間でふわふわと揺れている小さな青い浮き輪が見えた。その中心に黒い頭も見える。子供だ。少しずつ、沖へと流されている。周りには、大人はいない。

    「あれ、もしかして、」
     腰を浮かせたエリジウムより早く、ソーンズが走り出していた。ビーチを監視していたライフセーバーが今気が付いたように高台の上で立ち上がるのが見えたが、既に波を足に受けているソーンズの方が早い。そのまま海へ飛び込み、競泳のような速度であっという間に距離をつめていく。
     しかし、たどり着く直前。浮き輪の中から頭が消えた。子供が沈んだのだ。

     場所はだいぶ沖に流されている。水深は優に2メートルを越えているはずだ。ソーンズの頭が一瞬大きく持ち上がると、そのまま水中へと消えた。
     波打ち際に来たライフセーバーに救急車の手配を頼むと、エリジウムも海の中へと駆ける。膝まで水が来た辺りで、水中からソーンズと子供が顔を出した。微かに泣き声が聞こえる。わあ、と安堵の声が周囲から上がった。

     歓声の中、子供を連れて砂浜まで泳ぎ着く。砂地に足をつけ、抱えた子供をライフセーバーに渡したソーンズに、エリジウムが手を差し出した。
     見て分かる程、顔色が悪かった。潜水が得意なはずのソーンズが、息を切らしてその手を取る。大丈夫、と声を掛けようとした、その時。

     ソーンズが、足を滑らせたように水中へと沈んだ。
     支えるために力を入れていたエリジウムの足が砂に大きく沈みこむ。咄嗟に掴んだ二の腕に、指が強く食い込んだ。腕に力を込めて、沈んだ体を強引に水中から引きずり揚げる。掴んでいたエリジウムの体も僅かに引きずられて腰まで水に沈むが、なんとか持ちこたえた。

     水中から顔を出したソーンズの顔は、血の気が引いて青ざめていた。
    「……すまん、足を、滑らせた……」
    「……大丈夫だよ、はやく上がろう」
     よろめいた体を支えて砂浜に連れていく。
     砂の上に置いていたタオルをソーンズの頭に被せ、水分を拭う仕草で緩く覆うと、エリジウムはそっと背後を振り返った。

     陽光に輝く水面が揺れている。観光客の賑やかな笑い声が響き、あたりは既にいつも通りの観光地の明るさを取り戻している。
     それは楽しげで、美しい光景──だが、先程まで手にしていたカメラを、エリジウムはもう取り上げる気にはなれない。

     ……一瞬だけ見えた、友人の足を引きずり込んだ黒い渦は、もう海のどこにも見えなかった。
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