Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    YUKI

    @anlie00

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 14

    YUKI

    ☆quiet follow

    Twitterに載せてたログ。学パロ。

     カリカリと紙を引っ掻く音がする。
     暗くなってきた教室の片隅、自分の席でノートを埋めているソーンズの前に逆向きに座り、エリジウムはそれをぼんやりと眺めていた。

     蝉の啼く声は次第に遠くなり、夜の気配が近づいてくる時刻。教室のエアコンは既に止まり、開けられた窓から風だけが僅かな涼を運んでいた。

    「宿題は早いのに、日誌はなんでこんなに時間がかかるんだろうね、君は」
    「先に帰っていろと言っただろう」
    「えー、やだよ」

     カリ、とシャープの動きが止まり、考えるように頭が窓の外を向く。その手が、ボタンの幾つか外された襟元に伸び、下のシャツの丸襟を掴むと首もとを雑に拭った。

    「蒸し暑いな」
    「ちょっと、そういうことするから、シャツの襟が伸びちゃってるよ。新しいの買わないと」
    「まだ着られるからいい」

     もー、と言いながら、エリジウムも手の甲で顎を流れる汗を拭く。蝉に夕陽に僅かな涼風、これで麦茶でもあれば夏の情緒は完璧だな、などとなんともなしに思いながら、ふと目の前の友を見た。
     額を汗で濡らした顔が、夕陽の残滓を浴びている。流れ落ちた汗が首に浮いた筋を伝わり、僅かに存在を主張し始めた喉仏を通りすぎる。伸びきった襟からは鎖骨が覗き、その窪みに汗の雫が溜まっているのが見えた。

     ソーンズは、見目がいい、とエリジウムは思う。エリジウムは自分の容姿に絶対的な自信を持っているが、それとは別の方向性でもって、ソーンズは人の目を惹き付ける。それは決して、己の欲目などではない、はずだ。
     その、伸びきったシャツの下の鎖骨や、そこから穏やかに服の内へと下るラインを、そういう目で見るものだってきっといるだろう。現に、ここに確かに一人、いるのだから。

     無性に、喉が渇いた感覚を覚える。先程とは別の情緒でもって、麦茶が恋しくなった。
     再びシャープを取り上げ、ソーンズが机に向かう。目の前のシャツが握られ、乱暴に汗を拭かれた鎖骨が見えた。
    「……ねえ、それ。誘ってんの?ってくらい見えてるんだけど」
     思わず本音が溢れた。こちらを見たソーンズの瞳が大きく開かれていて、あ、やっちまった、と思った。ずっと、隠してきたのに。
     お互いに驚いたような顔を見合わせる。そんなエリジウムを見上げ、何故かソーンズは、少しだけ笑った。

    「……そうだ、と言ったら、誘われてくれるのか?」

     ──え、と。エリジウムが呟いたときには、ソーンズは既に顔をノートに戻していた。
     普段通りの顔でシャープを動かす友人の、そのつむじを見詰める。もう一度問い返すだけの勇気は、今のエリジウムにはまだ無かった。


     遠く、蝉の鳴き声が聞こえる。夕陽はその殆どが山裾に隠れ、空だけを紅く染めている。
    「……あついな……」
     顎に手の甲を当て、言い訳するように呟いた。顔がやたらと熱かった。取り敢えずは、早急に替わりのシャツを用意しなければならない。
     椅子に逆向きに座ったまま背を反らし、エリジウムは天井を仰ぐ。三年間もの間代わり映えのない、白い蛍光灯が瞬いている。

    「……あー。早く卒業したいな……」

     ──そうしたら。きっと。
     自分の不甲斐なさにため息を溢すエリジウムに、ノートに顔を向けたまま、ソーンズはただ、そうだな、と頷いた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😭😭👏👏🙏🙏💒💒💒💖
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works