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    Ydnasxdew

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    Ydnasxdew

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    翠雨堂とレオンくん+アルベールくん

    #WT

    Shine of RainWood「すみません、また手伝っていただいて」
    「これくらいなんでもないさ」
     ウェドはカウンター横に大量のモコ草が入った木箱を置くと、目の前に差し出されたマグカップを受け取り手近な椅子に腰掛けた。
     森の譜面屋・翠雨堂。淹れたてのコーヒーの香り、オーケストリオンの奏でる穏やかな旋律が心地よい。
     ウェドが度々訪れるこの場所は、丸眼鏡をかけたミコッテ族の女店主・レナードが古びた譜面の復元を請け負っている店だ。珍しい譜面や思い出の譜面を復元することはもちろん、復元済の譜面の販売や軽食の提供もしているとあって、開店日には冒険者に限らず様々な客がやってくる。
     …が、開店時刻を過ぎても一向に人の来る気配がない。
    「今日は珍しく人が来ないな」
    「そうですね…復元した譜面をお渡しする予定の方がそろそろ見えてもいい頃なのですが。ウェドさんも待ち合わせをしているのでしたよね?」
    「ああ。迷うような場所でもなし、ちょっと遅いよな。連絡してみるか…」
     ウェドがリンクパールへ手を伸ばす。と、店の扉が静かな音を立てて開き、見慣れた人物が中へ入ってきた。長い髪、広げた羽根のような角。眼鏡の奥で知的な丸い瞳が動く。
    「え、あれっ?今日ってお店…やってますよね?」
     店内を見渡したそのアウラ族の女性を見て、ウェドとレナードは顔を見合わせ頷いた。
    「はは、常連がこの反応だ。ご心配なく、絶賛開店中だぜ、アシューミ」
    「いらっしゃいませ、アシュさん。ごゆっくりどうぞ」

    *****

     石畳の並木道を、テッドは二人の人物と並んで歩いていた。威風堂々とした佇まいで朗らかなヒューランの男性・レオニダスと、上品さの伺える仕草で穏やかな微笑みを浮かべているミコッテの青年・アルベールだ。二人はウェドの友人であり、テッドはまだ知り合って間もない。が、彼らはたまたま行き合ったテッドに声を掛け、目的地が同じと知って嬉しそうに笑った。
    「しかし本当に奇遇だな。まさかテッドも翠雨堂へ行くところとは!」
    「ウェドと待ち合わせしてるんだ。ウェドの行きつけの店だって言うのは知ってたんだけど、実は俺まだ行ったことなくて。レオンさんとアルベールさんはどうして?」
    「私たちは依頼していた譜面を受け取りに行くところだったんですよ」
     近頃のグルメ事情や服飾のこと、庭の野菜やチョコボの話に、テッドは熱心に耳を傾けてうんうんと頷く。日々を生きるのに懸命だったテッドにとってはどれも真新しく興味深い話で、どれだけ聞いていても飽きない、のだが…
    「…あのさ、俺たち結構おしゃべりしながら来たと思うんだけど…今から行くお店って、そんなに遠いところだったっけ?」
     地図を見た限り、店の位置は二人と合流した所からさほど離れていなかったと思う。レオニダスとアルベールも顔を見合わせ、怪訝そうな顔をした。
    「そういえばそうだな。道はあってるはずだが…」
    「ええ、確か次のマーケットボードのある十字路を曲がるはず…なんですけど」
     あたりを見渡す。ここはたしかに見慣れた居住区の街並み…だが、そこはかとない違和感に三人は立ち止まった。
    「ここ、さっきも通りませんでした?」
    「そんな気がする。でもまさか、そんなことある?」
    「…二人とも、ちょっとここで待っててくれよ」
     言うなり、レオニダスが駆け出した。白いサスペンダーシャツが石畳の並木道の向こうへ遠ざかっていく。そして…文字通り、消えた。
    「え⁉︎」
    「おーい!」
     驚くテッドの背後から声がして振り返る。と、そこにはこちらへ向かって走ってくるレオニダスの姿。テッドは口をあんぐりと開けたまま、何度も瞬きをした。
    「やっぱりか」
    「え…え⁉︎どういう事⁉︎」
    「なるほど、私たちは投影魔法の惑わしの術中に嵌ってしまったのですね」
     アルベールが指先で唇を叩き、暫し考え込む。そうしてゆっくりとその場を歩き回ると、おもむろに天を仰いだ。
    「見てください、太陽の位置はあそこなのに、僕たちの影は全く違う方向に伸びています」
    「あっ、ほんとだ…!」
    「見ている景色もまやかしなんだな。確かこの手の魔法は正しい道へ進めばループせずに解けるんだったか?」
    「はい、パズルゲームのようなものです。だから本物の太陽の力を借りましょう」
    アルベールが地面を見て、影の伸びているのと反対方向へ腕を伸ばす。
    「腕時計の短針を向けて…南はこっちだから…よし、正しい道はこっちです!」

    *****

    「そういえばレナ、依頼された譜面はどんな曲だったんだい?」
    「とても美しい曲でしたよ。それも大変珍しい譜面でして。マーケットでは結構なお値段で取引されているので、復元するのにちょっと緊張しちゃいました。うちのコレクションにもあるので、ちょっと聴いてみますか?」
     レナードがオーケストリオンを操作すると、静かにピアノの音色が響きはじめた。伴奏で流れるストリングスの調和が美しく、思わずため息が出るような曲だ。
    「すごい、素敵な曲…」
    「ええ、だから人気も高いのでしょうね」
     レナードがテーブルにサンドイッチとスコーンの皿を置く。うっとりと音楽に聴き入っていたアシューミがスコーンの皿を取り、ジャムをつけて美味しそうに頬張った。
    「たまにそういった珍しい譜面に出会うと、職人心が湧きたちます。この譜面も、これから依頼主のお宅で聴く人の心を癒すのでしょう」
    「心持ちと腕の良い職人が修復したんだ、間違いないさ」
    「レナさんはエオルゼア一の譜面修復士だもんね!」
     レナードは照れ臭そうにはにかむと、手にした譜面を大切に包み、カウンターの棚の引出しへ入れた。

    *****

     テッドたちが何度目かの方角確認をしていると、曲がり角から何やら近づいて来る声があった。
    「うおおおお〜!諦めてなるものかあ〜!」
     大きな声を上げながら目の前を右から左へ通過していったその声の主は、数秒ののち再び右から視界へ現れた。立ち止まってぜえぜえと息を整えている。は、とテッドたちと目が合った途端、うるうると瞳を潤ませて駆け寄ってきた。
    「ひ、人だ〜!新しい景色だ〜!やっとこのループから出られたぁ〜!」
     女性は歓喜の声をあげると再び十字路を左へ駆けていき…またしても右から現れた。
    「出られてない〜〜っ‼︎」
    「お、お姉さん…大丈夫…?」
     狼狽してわたわたと手を振り回す女性に、テッドは恐る恐る声をかけた。
    「うう…すみません、取り乱してしまいました…」
     女性はイシュガルド風の動きやすそうなジャケットの襟元を弛め、心底困った様子でふらふらとしゃがみ込む。
    「それが…あまり大丈夫ではないのです。友達の店に行こうと歩いてたのに、なんでか全然辿り着かなくてですね…で、気が付いたらこのとおり、どこへ走って行っても同じ場所へ戻って来るという謎の現象に悩まされることに!こんなの絶対スクープ記事になるのに…走り回ってすっかりくたびれてしまって…」
    「誰でもパニックになります、一人でよく頑張りましたね」
     静かに様子を見ていたアルベールが、女性の背を優しく叩いて励ました。と、女性の足元から小さな影が飛び出してアルベールにぶつかった。トンベリのマメットが、ふわふわの包丁で一生懸命アルベールの足を叩いている。
    「ふふ、私たちは決して怪しい者じゃないよ。…ちなみにその友達の店というのは翠雨堂というお店では?」
    「え、はい、そうです!どうして…?」
    「俺たちもそこへ向かっているところなんだ」
    「…アルベール、これはどうやら雲行きが怪しそうだぞ。阻害されている行先の対象は、翠雨堂なんじゃないか?」
     レオニダスの言葉に、アルベールは眉を顰めて頷く。
    「嫌な予感がします。何か悪いことが起きていなければ良いのですが…」
     今まで辿ってきた"正解の方角"を考えると、翠雨堂まではあと少しのはずだ。アルベールは女性の手を取ると、優しく微笑んだ。
    「目に見えていないだけで、目的地はきっとすぐそこです。一緒にこのループを破りましょう!」
     女性は力強く立ち上がり、眼鏡を正してアルベールと握手を交わす。長い髪が風に揺れ、羽根のように広がる角にかかる。好奇心に満ちた丸い瞳が、新たなスクープの予感に輝いた。
    「うん…口より足を動かさなきゃ、ですね。あっ、申し遅れました!私、イシュガルドの情報雑誌『イシュガルディアン・ビジョン』の記者をしております、アシューミです。どうぞよろしく」

    *****

     二杯目のコーヒーを飲み終え、ウェドが窓の外へ目をやった。未だ人の気配はない。テッドはどうしているだろうか。
    「…テッドさん、遅いですね」
    「ああ…近くまで来ているかもしれないし、ちょっと辺りを見てくるよ」
     ウェドが立ち上がり、玄関へ向かう。と、その腕が突然強い力で引かれ、次の瞬間には後ろ手を取られて床へ転がされた。ウェドの背を踏みリボルバーの銃口を突き付けたアシューミが、大きな音に振り返ったレナードに叫んだ。
    「動くな!動けばこいつの頭が吹き飛ぶぞ」
     レナードはカウンター下に置いた槍に伸ばしかけた手を止める。抵抗しない意思表明として両手を上にあげ、静かに口を開いた。
    「…要求はなんですか」
    「言うまでもないだろ?その棚の中にあるお宝の譜面だよ。それをこっちへ投げて寄越しな」
     震える手で棚の引出しを開け、譜面の包みを取り出す。苦しげな声で静止しようとするウェドの顔を横目に、レナードは包みを投げ渡した。
    「よし。後ろを向け、振り向くなよ…立ちな、色男。玄関までゆっくり後ろへ歩くんだ。妙な真似したらぶっ放すからな」
     アシューミがウェドの頭に銃口を突きつけたまま歩き出す。玄関の扉へ手を伸ばした、その時だった。
    「ウェド!」
     突然扉が開き、アシューミ…の姿をしていたはずの男が体制を崩す。はずみで放たれた銃弾がウェドの耳を掠め、棚に並べられていた薬品の瓶を割った。
     店へ突入してきたテッドは目の前の事態をすぐに把握し、男の腕を蹴り上げる。身を翻したウェドが宙を舞ったリボルバーを掴み取り、男の脚を払って床へ打ち倒した。リボルバーの冷たい銃口が、男の目の前に突き出される。
    「よう、勝利の女神は俺たちに微笑んだようだぜ」
    「馬鹿な!おれの投影魔法が破られただと…!」
    「なるほど、それでこの店へ人が来られないようにしてたんですね」
     男が悔しそうに唸る。レナードは男の腕から譜面を取り上げると、封を解いた。広げられたそれは、ただの真っ白な羊皮紙だ。
    「何ッ⁉︎いつの間にダミーを…!」
    「うちも一応ちゃんとした店ですから。こういう時のために、備えはきちんとしてあるのですよ」
    「くそっ、どうしておれが偽物とわかった⁉︎投影は完璧だったはずだ!」
    「見た目だけは、ね。貴方は私が軽食を出した時、スコーンを選んだ。アシュさんならいつも迷わずサンドイッチを選びます」
    「それだけじゃない。お前が店に入ってきた時から、彼女にはわかっていたさ。アシュが大事なトンベリを連れていないなんて、何かあったに違いないってな。それに、本物の彼女なら貴重な譜面の話を聞いてこう言うはずだ」
    「す、すごい!これ次の記事のネタにしてもいいですか⁉︎」
     玄関口から聞こえた声に振り返ると、トンベリを連れたアシューミが熱心に何かメモを取っていた。捕物の現場を事細かに記録しているのだろう。テッドがあっけに取られてその様子を見ている横で、ウェドとレナードは顔を見合わせて笑った。

    *****

     男は間も無くレオニダスとアルベールが連れてきた銅刃団に連行されていった。魔法が破られたことで翠雨堂にも次々とお客が顔を出しはじめ、レナードは対応に大忙しだ。
    「あの譜面の依頼主が君達だったとはね」
     ウェド、テッド、レオニダスとアルベールの四人は、奥に設けられたボックス席へ移動して紅茶を飲んでいた。
    「今度館で流そうと思ってな。お前も聴きにきたらどうだ?みんなでのんびり話しながらさ」
    「たまにはいいかもな、考えておくよ」
    「レオンさんとアルベールさんがさ、すごかったんだよ!惑わしの術も簡単に破っちゃうし、ここで何か起きてるかもってすぐに人を呼びに行ってくれて。俺もあれくらい行動力と観察力があればなあ」
     テッドがサンドイッチを頬張りながら、二人へ羨望の眼差しを向ける。
    「君も突入してきてすぐ俺たちを助けようと動いたじゃないか。いい判断力だったぜ」
     褒められて照れ隠しに紅茶を流し込み、盛大に咽せた。その背をアルベールが優しくさすってくれている。
    「しかしとんだ待ち合わせになっちまったな」
    「けほ。ううん、ウェドの友達にたくさん会えて嬉しいよ。悪い奴も捕まえられたしね」
     対角の席へ目をやると、アシューミがトンベリを膝に乗せ美味しそうにサンドイッチを食べていた。ウェドにとってはもう見慣れた光景だ。そこへレナードがやってきて、何やら談笑しはじめた。
    「これにて一見落着、ですか。あのお二人、本当に仲が良さそうですね」
    「ああ。例えばあの男がもっと完璧な演技をしてきたとしても、レナはきっと見抜いただろうな。なんたって、大事な友達同士なんだから」
     テッドはウェドの横顔をぼんやり見つめながら考える。もしウェドの偽物が現れたら、自分は見抜けるだろうか?あの青い瞳の奥の優しい光を、ちゃんと見つけられるだろうか…?
     オーケストリオンから流れる軽やかな旋律が、緩やかに時間を進めていく。曲につられて心は弾み、テーブルを囲んで語る話は尽きない。
     窓の外では、いつの間にか降り出した雨が優しく街路樹を濡らし、石畳に小さな音楽を奏でていた。
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