大魔道士は潜りたい-破邪の洞窟攻略準備 ダイの剣は光り続けている。しかし地上のめぼしいところにダイはいない。で、あればそう簡単に見つかる場所にダイはいない。ということでポップの目下の目的は2つ。1つは簡単に行くことができない場所を幾つかピックアップすること。もう1つは簡単に行くことができない場所に行く方法をポップが習得することである。
破邪の秘法+アバカム、リリルーラなどなど。そういった手段を得るためには。
「先生、破邪の洞窟の地図を貸してください。書き写すんで」
「大丈夫ですよ、ポップ。今すぐ差し上げます」
こんなこともあろうかと攻略時に作成した地図の複製をそれなりに用意しているということらしい。さすが大勇者にして教育者のアバンである。かつてアバンの書は手書きで1冊だけであったが、今やカール王国の王配たるアバンには人や財を用いて複製する手段がある。
「どこまで潜るつもりですか」
「まずは150階。そこまで潜って破邪の秘法を手に入れて、そうすりゃ破邪の秘法+リレミトで出入りしやすくなるじゃねぇかって。先生もそれで最後の決戦にまにあったんだろうって師匠と予想したんですけど」
「そうですね」
大魔道士たちの予想は、大勇者に肯定された。つまり、ミナカトールのような条件をそろえずともリレミトで脱出が可能となる。破邪の秘法を習得すれば、長期間潜るのではなく少しずつ攻略して必要な呪文や道具を揃えていくことも可能だ。
「ところで誰と潜るんですか、まさか一人じゃありませんよね」
「おっさんとラーハルトとヒム」
ヒュンケルは少しずつ機能回復しているが、流石にまだ破邪の洞窟の攻略は難しい。あとは破邪の洞窟攻略に参加したことのある女性陣だが、25階までも困難だったという話を聞いているので今回の同行から外したと。なかなか理にかなった考えではあるが、少し足りないとアバンは考える
「回復魔法を使えて、魔法や呪法に関して知識があるのはあなた一人ですか?」
世界から邪悪な波動が消えた今、破邪の洞窟にすくう魔物はずいぶんとおとなしくなっているであろう。もともと凶悪な魔獣もいるが、戦闘面では以前よりも容易なはずだ。むしろ変わらず難しいのは罠や迷路の類となる。攻略においてはそれらを見抜く目が必要になるのだが。
「あ、だから先生のシルバーフェザーかカール軍の魔法の聖水をわけてください。おれの魔法力が尽きるとやばいでしょ」
加えて、今回は間に合わないだろうが、フェザーや魔法の聖水を次以降は自分で作れるようにしたいので作り方を教えてほしいとポップは言う。アバンとしてもそれはやぶさかではないのだが。この生徒はあまりにも何もかも一人でやろうとしすぎではないか。目の前に破邪の洞窟の攻略者がいるというのに。
「ポップ、私も同行しましょう」
「え、いいよ先生は。なんかあったらどうすんの」
「それはクロコダインさん達も同じでしょう。それからあなたもです」
「あの二人は丈夫だし……先生にまたなんかあって、フローラ様を泣かせたくねぇし。先生の地図、きっと細かくて丁寧だから大丈夫っすよ」
つまりポップの選定基準としては、タフかつ何かあったときに泣く相手がいるかどうか、ということなのかとアバンは思い至る。そしてポップ自身はきっといついかなるときもポップの選定基準の外なのだろう。しかし無理に同行しようとしても、この生徒はきっと固辞する。心配だからと情に訴えて説得しても無駄に違いない。どうするか。いや、先ほどポップはマトリフとこの破邪の洞窟の攻略について検討したことを言ってなかったか。
「マトリフは私に関して何か言ってませんでしたか?」
「『アバンが忙しくても、他の官吏経由で地図を借りるな。絶対にアバンから直接地図を借りて、具体的な説明をうけてから入れ』ってさ」
アバンは天を仰ぐ。
破邪の洞窟に潜ろうとするポップに会えばアバンがどう思うか見越してるに違いない。つまりマトリフはアバンに、こいつはどういっても聞きゃしねぇがなんとかして同行してくれと言っているのだ。きっと彼も同行を考えたに違いないが、老いた自分ではなく実際に攻略した経験者のアバンに、と。
「先生、どうかしましたか?」
「わかりにくいことを……いえ……わかりました……」
事前にアバンへ文を送って依頼することもマトリフは考えたろう。しかし思い立てばすぐ飛び立って行動するポップのことだ。行き違いになる可能性も高い。だからこんな形の伝言でマトリフは託したのだ。マトリフはアバンのことを甘いというが、アバンはマトリフには言われたくないと思う。そもそもポップを鍛えはじめたのは、ほおっておくとすぐ死にそうだったからというではないか。本当に意地の悪い人間はそんな理由で他人を鍛えたりしない。
「先生、じゃあ地図を」
「はい、地図を基に攻略の要点を説明しましょう。それで準備をすすめてください。しかし今は地図を渡しません。地図は人数分用意します。実際に私も一緒に洞窟に潜るときに渡します」
「だって、先生」
「シャラップ。これが地図を渡す条件です。あなた地図がない状態で洞窟を攻略できると思っていますか」
いくらポップとて手探りで破邪の洞窟を攻略するリスクは冒せない。フローラ達が25階までの攻略に用いた書物もきっとアバンの手が回って借りることができなくなるだろう。それに確かにアバンが同行すれば150階までの攻略も難易度がぐっと下がる。
「……先生、ありがとう」
「あなたと旅をするのも久しぶりですね」
「はい!」
ポップは嬉しそうに頷く。
ダイの捜索は容易ではない。あまりにも気を張り詰めすぎると折れてしまうかもしれない。危険はあるが楽しい冒険になればいいとアバンは願う。
その土産話をマトリフにしてやるのもいいかもしれない。ポップがね、こんな活躍をしたんですよ、と。その時のマトリフの表情が楽しみだとアバンは考えた。