大魔道士は試したい-宝玉に魔法をこめてみよう ダイとポップの再会を見届けることができて安堵したマトリフは、自分が死んだら全ての土地と持ち物を弟子に譲るとポップに言い出した。それをきいたポップは最初は憤り、それから
「わかった全部きっちり受け取ってやる。あんたの持つ道具やら書物も全部おれがいっこずつ細かくあんたに内容を確認する。それが終わるまでは死ぬんじゃねぇ」
と言い放った。
そんなわけで、ポップは定期的にマトリフの住まいを訪れるのだが、一つずつ中身を見てはあーだこーだとマトリフに聞くのでなかなか作業が進まない。もちろんマトリフは所持物の一覧を用意し、簡単な説明をポップに行っている。しかしポップは「だいたいわかった。だから現物はおれの目で確認する」と言ってきかないのだ。
本日もそんな確認の日である。ポップはかつての戦闘記録を読みながらマトリフに質問をする。
「なぁ、師匠。この『宝玉にベタンをこめて、アバンの特訓の助けとした』のあたりのことなんだけど」
そういえばそんなこともあったとマトリフは思い出しながら補足の説明をする。
「アバンが海破斬を会得するための助けをした時のことだな。一度その宝玉を身につけて発動させたら、呪文をこめたおれが解かない限り外せなくてな。アバンがその状態で敵と遭遇したからまぁ苦労したぜ」
「せ、先生ってマジでベタンかかった状態で動けるんだ……」
ポップは驚嘆しながらも補足情報を自分の書き付けに記載していく。自分で内容を確認するといったことにまったく嘘はないのだ。しかし
「あぁ、だったら」
ふと、ポップの手が止まる。中空を見つめながらぶつぶつと何かをつぶやいている。どうやらポップは何かを思いついたらしい。こういう状態のポップからは少しおもしろい発想が出てくるのでマトリフは黙って見守ることにしている。出てくることもある、というだけで意味がなくてくだらないこともままあるのだが。
「師匠、この宝玉ってある?やってみたいことがあるんだけど」
「ちょっと待ってろ」
マトリフは宝玉を探し出してポップに渡してやる。
「あんがと、でもちょっと離れてて」
マトリフが離れると、ポップはマトリフに聞こえないように小さく呪文を唱えて宝玉に魔法を込めはじめた。それからその宝玉を身に着けて、呪文を発動させる。なんの呪文を発動させたかはマトリフには分らない。魔法力を感知できないからだ。
「師匠、おれにマホトーンをかけてくれねぇかな」
言われるままにマトリフはポップにマホトーンをかけてやる。呪文はポップに向かってうまく発動した。が、マトリフは何故か少し違和感を覚えた。
「やっぱ師匠のマホトーンは強烈だなぁ」
ポップはそういいながら身に着けた宝玉を外し、しかし指先に小さくメラの炎をともす。そう、つまり今のポップにマホトーンはかかっていない。
「やった、成功!」
「そういうことか。おまえ、宝玉にマホトーンをこめたのか」
「そ、最初からおれは魔法を封じられた状態。だから師匠のマホトーンはあんまり意味ねぇっつうか、なんかそんな感じ。で、おれは自分でこの宝玉を外せるから」
マトリフはこの弟子の凄さの一つはこういう部分だと実感する。ありあわせの技術の組み合わせで、思わぬことをしでかすのだ。
「で、実戦で使えそうか?」
「使いどころが微妙ー。相手のマホトーンを封じるために、自分の魔法が封じられた状態だと戦いにくくって仕方ねぇよ。相手がマホトーンを使って俺を生け捕りにしてえってのがわかっている状態でのカウンターになるぐらいかなぁ」
マトリフの愛弟子は、普段の生活においては調子に乗りすぎて失敗も多いが、こと戦闘が絡む思考は鋭利で冷静だ。まったく心配がない。ほんとうにマトリフにとってもはや心配のない弟子である。
「あ、師匠。こういう実験も師匠がいねぇとできねぇんだからな?師匠がいねぇと困るんだからな!」
「なんだおれは便利屋か」
「いんや、おれの師匠にして偉大なる大魔道士」
くすぐったい程の気遣いと賛辞をききながら、マトリフは弟子が次の資料に目を通すのを見守っていた。