『蹂躙された街にて』の前日譚 街道をポップとダイが2人でとことこ歩く。至って平和な道のりだ。そうしているうちに番所が見える。そこで身分を申告し、問題なければ街に入れるというのが通常の仕組みだ。以前にポップがこの街に入ったときもそうだったし、今度もきっとそうだ。
ダイがぴたりと足を止めてポップを振り返る。
「おまえはここまで。もう今からあっちの神域の調査に行ってきて。ここから先はおれ1人で行くから。おれ1人で街で過ごすことができるか試すんだから」
「もうちょっと一緒でもいいだろ、な」
「ダメ、そうやって番所までついてきて、それからなんだかんだ言っておれの代わりに衛士さんと話をするんだろ」
「しねぇよ」
「で、そのまま街の中までついてきちゃって、おれの代わりに街のえらい人に挨拶して」
「それぐらいいいだろ」
「宿の手配までして」
「そこまでやると安心だな」
「ほら!」
「あれ?」
「今日は、おれが1人で全部やる日!」
「じゃあオレが隣で見ているだけ」
「そういって前もおまえが全部やっちゃったんじゃないか!」
「……そうだっけ」
「そうだよ。この街は危ない街?平和な街?」
「魔王軍に攻撃された形跡もあったけど復興も進んで、住民の人たちも比較的温和でした」
「おまえ、おれにいっぱい一般常識を教えてくれたよね。まだまだ落第点?」
「いえ、すごく頑張っていたと思います」
「おれ一人では頼りない?」
「頼りないわけではねぇ、ですけど」
「おまえ、それ過保護っていうんだよ。これ使い方間違ってる?」
「だってよぉ……」
「ポップ!」
「わぁったよ。ちゃんと街のえらい人に『勇者ダイです』って挨拶して、困ったことがあったら相談するんだぞ」
「名乗らなきゃダメ?」
「ダメってこたぁないけど、便宜を図ってもらえるからな。おめぇが街で1人で過ごすのは初めてだし、今回だけはそうしてくれ」
「それでおまえが安心するなら」
「なにかあったらオレを呼べよ、いつもの共鳴のやつ」
「わかってるよ。でもおまえを呼ぶとものすごい大事になりそうだからなぁ、過保護だから」
「仕方ねぇだろ、年単位でおめぇを探すのはもう勘弁してくれ」
「どこにいてもおまえはおれを探し出してくれるから安心して迷子になれるね」
「だから勘弁しろって。今回は3日間、街の中にいるだけなんだから迷子になりようがねぇだろうが」
「そうだね」
「じゃ3日後な」
「うん3日後に」
そしてダイに見送られながらポップは飛空呪文で目的地へと向かう。1人で残すことに不安がないわけではなかったが、3日後の再会と互いの土産話に想いをはせることにした。