その後の勇者ダイ様 ゲキサッカさんだっけ。わざわざ島まで来てくれてありがとう。でも、おれの話なんて聞いてもおもしろくないと思うよ。ポップの話を聞けばいいのに。巷で流れている物語はポップに聞いた話から創られているんだろ?色んな人が書いてくれているよね。どれも楽しく読んでいるよ。
定番の展開はこうだよね。
最後の最後で相棒に蹴落とされた可哀想な大魔道士は、それでも心が折れることなく相棒を探す為に世界中を冒険し、魔界でようやく相棒に再会する。晴れて再会した時にはポップは補助呪文で自分の力や速力を底上げして、おれの守備力を下げて、おれをぶん殴る。「よくもオレを置いていきやがったな。これでチャラにしてやるよ!」ってね。
感動的だね。
それからおれはポップと共に地上に戻って、この島で穏やかに暮らすことになる。ポップは地上に戻ってからも、おれが地上で平和に暮らせるように尽力してくれて、世界中を飛び回っていて忙しい。年に数度、島にやって来るポップに「いつもありがとう」っておれは言うんだよ。それが物語でのおれの役割なんだ。
え、おれの気持ち?
おれのことなんて聞いてもおもしろくないよ。最後の最後で相棒を蹴落とした裏切り者のおれの気持ちなんてお話を書くのに必要?おれのこと、色んな物語で薄情だってことになってるし。
それに、あの爆発の後からずっと魔界で長く一人で流離って、着るものもなかなか見つけられなくて、食べていいものも最初はわからなくて何度も寝込んで動けなくなった話なんてさ、誰も楽しめないよ。おれもおもしろくないもん。
おもしろかったこと……。再会して殴られたおれがぴくりとも動けないことに気付いたポップの呆然とした顔。あれは少しだけおかしかったよ。おかしいってのは変か。でもなんだかとてもおかしかったんだ。ポップ、おれが丈夫で元気にいると信じきっていたのかな。必死になって回復呪文をかけて、おれを介抱しながら地上に連れ帰ってさ。
もしかして、それからもずっと「ダイの為に」って言いながら地上を駆けずり回ってるのは罪悪感なのかな。気にしなくていいのに。
どうしてそんなに驚いているの?そっか、勇者ダイ様が魔界でとても弱っていただなんで思わなかったよね。大魔王だって気を抜いていたらナイフでも傷つけられるから。おれもそれと同じでさ。戦いを終えてすぐ爆発に巻き込まれたおれが魔界に行ったから、そうなっちゃったんだ。武器も無かったし、魔法力も尽きていたし、レオナにもらった闘衣もボロボロで上半身は裸だったから。魔物から身を隠しながら体力を回復させて、食べ物を探して……必死だったよ。ごめんよ、夢を壊しちゃったね。魔界に行ったのがもっと元気な時ならよかったんだろうけど。
本当に、おれがみんなの思う強い勇者ダイ様だったらよかったのにな。あの爆発の時も、ポップと共に飛び続けて、ポップをちゃんと守って一緒に地上に戻って来れるような。
おれはね、せめてポップには生きていてほしいと思ってしまったんだ。父さんがあんな風な死に方をして、ゴメちゃんが目の前であんな殺された方をした後だから。もう誰も失いたくなかったんだけど、勇者らしくない弱い気持ちだったって今では思ってる。次に同じことがあったら、みんなの期待どおりする。ポップと離れるようなことはしない。ポップが死ぬところを見届けて、独りで生き残る覚悟をしているよ。わかってる、本当はポップを守って2人で生き残るのが一番なんだけど。おれの力はそこまで強くない。
物語を読むとね、強い勇者ダイ様がいるだろう?おれがなりたい強いおれがいるんだ。だからポップが島に来てくれた時は、次のお土産も勇者ダイの物語の本が欲しいって言っちゃうんだ。できれば強い勇者ダイ様が出てくるのを。ポップはいつも少し黙って、それから「ダイがそれを望むなら」って言ってくれるんだ。ね、良い相棒だろう?
他に何か聞きたいことがあるかい?なんでも答えるけど物語の参考にならないと思うから、あとでポップに話を聞くといいと思う。
じゃあ、あなたが書く、おれの素敵な相棒と強い勇者の物語を楽しみに待っているからね。