病める時も健やかなる時も「そうやって膝を抱えてめそめそしてるとガキのころと変わんねぇな」
「なんでおれがここにいるってわかったの」
「連絡用の水晶にさ、姫さんから『ダイ君をよろしく』ってメッセージがあったんだよ。島のおれたちの家にいねぇし、姫さんにフラれたおめぇがどっかで泣いてるとしたら、姫さんとの思い出の場所で、そんで人が来なさそうなのはこのバルジの塔だろ」
「おれがフラれたんじゃないもん」
「そうだな、おめぇが姫さんの求婚を断ったんだもんな」
「そうだよ」
「めそめそ泣くぐらいなら今から姫さんとこ行って『さっきのは無し!』って言ってこいよ」
「言わない」
「姫さんと一緒になることで不安があるならオレがなんとかしてやっからさ。おめぇはじぃさんがちゃんと育ててくれたからから品はあるし、体を動かすのも得意なんだから宮廷作法やマナーもそういう武術の型だって思えばすぐに身につくだろうし。お勉強の方も先生に頼んで分かりやすく」
「そういうんじゃない」
「島育ちのおめぇが姫さんの旦那になることをどっかの貴族にねちねち言われそうってのを気にしてんのか?そんなのあの姫さんならどうにかするし、オレも協力するから」
「それも違う」
「じゃあなんだよ」
「レオナは世界の王さまたちの会議を取り仕切ってるし、アバンの使徒だ。時々、眩しくてちかちかする」
「釣り合わねぇってんのか、おめぇだって世界を救った勇者ダイ様だぞ」
「そうじゃない、おれの母さんのことがあるだろ」
「アルキードの王女さまだっけ」
「不幸になった」
「怒るぞ、おめぇを産んだのを不幸だって言うと」
「ちょっと違う。不幸なのはおれの母さんの国だよ」
「あぁ、まぁ、でもおめぇは国を亡ぼしたりしねぇだろ」
「わからない」
「しねぇ、おめぇは、絶対に」
「おれはしたくない。でもおれは竜の騎士だ。この頃、レオナを見て眩しいって思うし凄く不安になるんだ」
「眩しいのはおめぇが姫さんを大事って思うからだろ」
「地上の人間を代表するレオナにおれが肩入れすることそのものが三界のバランスを崩すことになって、竜の騎士が制裁をくだすことならないか?」
「つまり……?親父さんがアルキードごと滅ぼしたのは、竜の騎士がアルキードの王女を好きになったから、天の差配でなんかあったんじゃないのかっておめぇは心配してんのか」
「うん」
「もしかしておめぇが姫さんと一緒になったら、同じような事態になるんじゃないかって?」
「おれはそれが怖い。おれはレオナを守りたいんだ。レオナは一緒におれの運命と戦おうっていうかもしれないけども。今のレオナは国を守る地道な戦いをいっぱいしているのに、おれみたいな爆弾を抱えちゃダメだ」
「おめぇが爆弾なわけあるかよ!万が一そんなことになってもオレがなんとか防いでやる」
「無理だよ」
「なんだよ、相棒が信じられねぇってことか」
「ダメだよ」
「おめぇがオレに多少は肩入れしてもオレはただの一般人だ。世界のバランスは関係ねぇから心配すんな」
「あのさ、ポップ。ポップだってポップのジンセイがある。おれはもう独りでも大丈夫だから」
「膝かかえてべそべそ顔で言われても説得力ねぇな」
「ポップこそおれにばっかり構ってないでさ。その、マァムとはどうなったの?それともメルルと?」
「ん?おめぇ、もしかして気づいてなかったのかよ。ずっとオレはおめぇの隣にいたのに」
「え?ポップが何の素振りも見せないから、今ポップがマァムたちとどうなっているのか想像できなくてさ。でも聞くのもなんだか怖かったし」
「なんで怖いんだよ」
「怖いけど、ちょうどいい機会だ。ポップがおれを見つけてくれただけじゃなくて、ずっと隣にいてくれるのは嬉しかったよ。でもポップにとっておれはマァムの次だし、だからそろそろポップはさ」
「おめぇが何をどう想像してんのか知らねぇけどよ。おめぇの思うような甘ったるい感じにはならなかったんだよ。メルルはまだオレのことを好きだって言ってくれてるけど」
「じゃあメルルと」
「そのメルルが言うには『ポップさんの心はあの時から青空でいっぱいです』だとよ」
「青空?」
「おめぇが消えた日の空だろうな。爆発で空が吹っ飛んだせいか雲一つなくっちまってさ、腹が立つくらいに綺麗な青い空だったよ。おめぇみたいな青い空だった」
「おれが消えたから、おれでいっぱいになったの?」
「言っとくけどおめぇのせいじゃねぇよ。強いて言うならあの使い魔と黒の核晶のせい、というか、きっかけだな」
「そっか。ごめん」
「だからおめぇのせいじゃねぇって。そんなわけで、余計なもんが何にもなくなったし、オレはおめぇの相棒だから、ずっとおめぇをみててやるし、おめぇが暴れそうになったらすぐに止めてやる」
「ずっと?」
「ずっと」
「病める時も健やかなる時も?」
「茶化すなよ。あ、おめぇがイヤだって言ったら距離は少し置いてやるかな」
「じゃあ安心だね」
「よし、そんじゃ姫さんに『さっきのは無し!』って言うならさっさと行けよ」
「うーん」
「今度は何でぇ」
「改めて考えるとさ、おれはレオナことは好きで守りたいけど、レオナがおれに向けてくれている『好き』と同じなのかな?」
「色々と考えてるなぁと思ったら、それはまだそこかよ。それはおれは知らねぇな」
「ポップへの好きとどう違うんだ?」
「オレ?おめぇ、そりゃ、えっと、そうだオレと例えば裸でイチャコラはイヤだろ」
「ポップはイヤかい?」
「へ……?」
「ポップはおれとずっと一緒にいるって言ってくれた。おれは嬉しい」
「そりゃどうも」
「たぶん、裸でくっつくのもおれ平気だと思うんだ」
「え?よし!おめぇ、今すぐ姫さんとこに行って『混乱しているからやっぱり時間をくれ』って言ってきてくれ」
「どうしてそうなるんだい」
「おまえは今、姫さんに求婚されて色々と考えて情緒がおかしくなってんだよ」
「そうだ、ポップ、試したいことがある!いいよね?」
「なにをだよ!」
「わかってるだろ」
「わかんねぇよ!?」
「わかんないなら確認するんだよ。ポップ、逃げようとしないで。ずっとおれの傍にいるって言ったじゃないか」
「確かにそうだ!よしもう好きにしろい」
「じゃあ、まずポップのほっぺにキスするからね。それでどう思うか」
「ほっぺにキスか!その程度ならどんと来やがれ!!……ってほんとにムードもなく可愛い不意打ちのキスだな。で、どうだ」
「ドキドキする」
「そっか」
「ドキドキするよ!ポップはどう?イヤだった?良かった?」
「イヤじゃねぇけど変な動悸がすげえし疲れたしもうこの辺でいったん家に帰ろうぜ」
「あ、えっと」
「姫さんにはおれから水晶で一報をいれとく……」
「うん、おれもちゃんと考えてもう一度レオナと話をするよ。だからポップ」
「うるせぇ、とりあえず帰るんだ!続きは後だ!!」
「わかった!続きは家でだね!!やっぱりおまえは頼りになるよ」
「オレもおめぇに頼りにされて嬉しいぜ!!!」
-END-