潜入服/海水浴「っ、は!」
ざぶ、と、音を立てて浮上して、ルークが大きく息を吐く。同じように浮上したアーロンも、肺に酸素を取り込んで一息ついた。
二人がいるのは夏の海。ただし、ご機嫌な状況ではなく、豪華客船に潜入し目的のものを得たものの、発見されて海に逃げ込んだ有様だ。
服を脱ぐ暇も余裕もなく潜入服のまま飛び込んだ海は、幸い凍えて死ぬような冷たさではない。あとはモクマとチェズレイ の回収を待つだけだと、アーロンは少しだけ泳いでルークの側に寄る。
「大丈夫か、ドギー」
「ああ。……君といると服を着て泳ぐことの方が多いな」
「は、嫌味かそりゃ」
立ち泳ぎしながら姿勢を維持するルークは、そう言って苦笑すると髪をオールバックにかき上げる。服を着て泳いだ記念すべき第1回目が何かを思い出して顔を顰めたアーロンの言葉に、いいや、と首を振って。
「一度、君と海水浴もいいかなって。そう言う遊び、きっと、してこなかっただろう?」
「その必要はねぇからな」
紛争地帯で生き抜くことに必死だったアーロンに海は遠く、海水浴なんで遊びをする余裕はなかった。もし海が近かったら魚が獲れただろうから、あんなに飢えることもなかっただろうけど。
ビーストとなり外の世界に向かってからも、海とは世界を隔てる壁であり、密航やらなにやらで船にお邪魔するだけの用事しか無い。そんな人間を、海水浴になど誘われても困るだけの話である。
「今回回収したものをナデシコさんに渡せばこの件は終わりなんだから、国に戻る前に、みんなで海にでも行こうか」
「ぜってぇ行かねぇ」
立ち泳ぎをしたまま息も切らせずに話すルークの言葉にNoを告げる。何が悲しくて、ろくでもないメンバーと海に行かねばならぬのか。ルークに甘くなってしまった詐欺師とおっさんに話が行く前に止めておかねばと言葉を重ねようとしたアーロンに、じゃあ、と、ルークが続ける。
「じゃあ、二人で行こう、アーロン。こんな暗闇で、潜入服着てなんかじゃなくてさ」
な。と、ねだられて、息を吐く。すぐに否定出来なかったら自分を罵りながら、アーロンは仕方ねぇと頷いた。
己は青い海も白い砂浜も眩しい太陽も何一つに合わないだろうけど、ひとつでも一緒にうつくしいものを見ていたかった。