七夕アフター 星と星が惹かれ合い、まばゆい出会いを果たす、この日。
――出会いを果たした星と星は、数多の願いを叶えんとす。
ハスマリー公国、小さな町の片隅にある孤児院。
「いやあ、大好評だな、アーロン! ほら、またタンザクが増えてる」
嬉しそうに破顔したルークの前には「ササ」と呼ばれる植物が水瓶の中からにょっきりと伸びている。自分の背と同じくらいの高さまで、ひょろ長く真っ直ぐでやすりをかけたわけでもないのにやたらと真っ直ぐ滑らかな幹がそびえているのは、なんだか変な感じだ。
ハスマリーにはない植物は、ミカグラ島から輸入されてきたものだという。
ササは、友好の証としてエンターテインメント会社「ACE」から贈られてきたものだ。その受け渡しをもって、アラナが運営する孤児院のある小さな町と、世界有数の歓楽街のひとつと言われているブロッサムは、友好都市として縁を結んだと対外的に知らしめられた。
その事実は、子供たちのために活動を続けているアラナにとって、この上ない追い風になる。
そしてこのササは、子どもたちにも大人気だ。
――このササにまつわる物語があるんだ、と。
歌がやたらめったら上手い女から、タブレットを介して仕入れたばかりの情報を、ルークが得意げにガキどもへ話したのが三日前。
その日はちょうど、七月七日だった。
ガキどもはその物語に夢中になって、合わせて届けられた美しい色合いの細長いタンザクと呼ばれる飾りを取りあった。あの色が良い、この色は自分のだ、などと騒ぎ立てて、願いをかなえるのだ、と笑顔を溢れさせている。その姿が、アラナや他のヤツらが身を寄せ合って怯え固まっていたあの頃とあまりにも違いすぎた。
楽し気なガキどもの中心で、にこにこ楽しそうにしていたルークは、今日も能天気に笑っている。
ササを処分しようとしたが子供たちの大ブーイングに負け、いまだに食堂の片隅で緑の葉を揺らし、色とりどりのタンザクで飾られていた。日に日に増えていくそれを、ルークは嬉しそうに見守っている。
「本当はさっさと片付けるもんだろ? 焼いちまおうぜ」
「もう少しいいんじゃないか? みんな、さみしがる」
「そんなもんか?」
たかが木と、紙きれだ。
こんなもん、腹の足しにもなりゃしねえ。
「そんなもんだよ。みんなの願いが、叶うといい」
しみじみとした声には妙な実感がこもっていた。本当にそう考えていることだけはわかるからこそ、だったら、一つだけ不思議に思うことがある。
「お前は?」
「え?」
「書かないのか?」
ざっと見た感じ、ルークの手によるタンザクはない。
タンザクは一人一枚とも決まっていないし、傍のテーブルに筆記具と合わせて山ほど置かれている。大人の職員たちもこぞってささやかな願いごとを記しては細い枝に括り付けていた。
一瞬きょとんとした表情を見せて、ふと穏やかにほどけた。
「僕のいちばんの願いは、とっくに叶ってる。誰かに願う必要がないんだ」
柔らかな笑顔が、いつか見た幼い面影と重なる。
「君が僕の相棒になってくれて、僕はようやくヒーローになれた。それ以上望まないさ」
「……チッ、またクセエこと言いやがる」
「えっ、そうだったか?」
おかしいな、そういうつもりはなかったんだけど。
そんな風に嘯く相棒の頭を鷲掴んで、ぐしゃぐしゃに搔き乱す。うわ、やめろ、といいながらもその手が振り払われることはなくて、自分の顔がみられていい状態になるまで、丸い頭を抑えつけた。