――また、何も言わずにいなくなってる。
思わずため息をついて、ぼやきたくなる気持ちもわかってほしい。
今回はいつにもまして短い滞在だった。
アーロンが港へ着く時間を知らせてくれたのは昨日の午後……到着する二時間前のことだ。プライベートのアドレスへメール一本で届けられた急すぎる連絡に目を丸くしたのを覚えている。当然のことながら、僕は仕事の最中で、迎えに行くことも出来やしなかった。
仕事が終わって慌てて帰ると、当然のような顔をしながらリビングのソファに腰掛けている相棒の姿が目に映る。大型の猫科の獣が身づくろいするようにゆったりした様子を目にして苦笑したばかりなのに、一晩明けて、今日の仕事が終わって帰ってくれば彼がいた気配さえ感じられない部屋が僕を待っていた。
昨日は残業だったし、朝もバタバタしていたから、ろくに話もしていない。
アーロンは我が物顔で居座る割に、決して痕跡は残さないから、まるで夢だったんじゃないかと思う。
家の中の家具も、物の位置も、何も変わらない筈なのに、なぜだろう……妙にがらんとして見えた。
それと同時に、手の中の荷物がずしりと重さを増すような気がする。
どうせまた会える、離れていようが相棒だ。
そう言ったのは僕だし、本当にそう実感しているのは確かだけど、やっぱり何も言わずにいなくなられると……だいたいこれ、どうしたらいいんだ。
溜息を吐きながら、冷蔵庫を開けた。
手に持っていたキロ単位の塊肉とミンチ肉を入れると、数年前、一人暮らし用に買い替えたばかりの小さな冷蔵庫はギチギチになってしまう。
昨夜も今朝も、僕が疲れていたり慌てていたからちゃんと話せなかった。それを申し訳なく思う気持ちもあったし、宿を取らずに僕の家へ来てくれたことが嬉しかったんだ。
どうせ肉が食いたいって言われると思って、自分ひとりの時は買わない、少し良い肉を奮発した。定時で切り上げて、帰りがけに肉屋へ寄った時は、きっと彼の喜ぶ顔がみられると思っていたのに。
浮き立つ気持ちは、急激にしぼんで今や風前の灯だ。
いくつものブロック肉を忌々しく睨みつけた。
全部ひとりで食べてやる!
「アーロンが悪いんだからな」
次来た時はもてなしたりするもんか!
そんな風に、感じていたけれど、食事をしてシャワーを浴びて一晩寝て起きたら。
そこまでタイトなタイムスケジュールだったのに、少しでも僕に逢いたいと思ってくれたことに思い当って、呆気なく機嫌が直ってしまった自分の単純さに呆れた。